酒井正・著『日本のセーフティネット格差』の第6章
正社員と非正規就労の人が受けられる社会サービスに格差があり、そのことが所得や選択肢の格差となっている。とすれば、非正規就労の人が正社員になれればよい。そのための就労支援サービスはあるのか。あるとすれば機能しているのか。
特に若いうちに正規就労の軌道に乗ることができれば、現状のセーフティネットを利用しやすい。若年層での非正規就労がその後も続くとすれば、勤続経験を条件とする既存のセーフティネットから漏れてしまうことに加え、日本で重視されている「企業特殊的スキル」(とは本書では書いていないが企業内で雇用される中で蓄積されるスキルのこと)が身につかず、能力が開発されない。公共職業訓練や資格取得などのスキルは、就業経験のある人には有効ではあるが、就業経験のない人には就業や賃金上昇に貢献しないというのである。これは、現在勤めている(勤め続けている)企業での経験が特に重視される日本的雇用慣行の影響も大きいと思われる。
最低賃金を上げるとか、「求職者支援制度」(雇用保険の加入歴に関わらずに受けられる公共職業訓練と現金給付)などを本書で検討するものの、効率的・効果的ではないことが示される。海外の就労支援など、効果が出ているものを挙げると
・個別カウンセリング
・訓練では得なく就労を目指す(派遣の仕事も選択肢?)
・その間のある程度の所得補償
・企業への雇用助成(就業経験の少ない若者を雇用した際の助成金)
・特に学校卒業から初めての就労につまずいた人の就労支援(コスパがよい&必然的に雇用保険関連サービスの対象外)
であった。卒業や失業後、すぐに個別カウンセリングにつながることは重要で、すぐに仕事を見つけられないものは強制的に職業訓練を義務付ける、という国もあるようだ。
日本ですでにある仕組みの中で、これらの目的に沿っていそうなものは
・ジョブカフェ
・地域若者サポートステーション
・生活困窮者自立支援法の中の就労支援
・トライアル雇用
・特定求職者雇用開発助成金(通称・特開金)
・ジョブカード
かな?
ただ、本書で示されている疑問として、非正規雇用の増加は、サービス経済化や、生産物市場における不確実性の上昇(需要変動が大きいものに対して派遣や雇用期間の定めのある雇用で対応する)、ICTの普及(スキルがすぐに汎用化してしまうので、より新しいICTに対応できる人を雇用する必要性)などがある。つまり、正社員雇用自体の需要不足があり、現状の就労支援はミスマッチ(構造的失業)にしか対応できないのではないか、というものがある。これについては指摘で終わっていた。
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まず、就労支援がセーフティネットのひとつだという位置づけは、この仕事をしている者としてはうれしいが、業界の意識としては低いと思われる。目の前の若者たちには困窮者も多いが、困窮していない家庭の若者も多い(家庭環境の良い人の方が支援サービスにつながりやすいという偏りがある)ことがその理由ではないか。実際には就労支援と合わせて生活支援(福祉的ソーシャルワーク)が必要なことが多く、就労支援としての気概やスキルが身につきにくい業界でもあると思う。
現場にいるものとして面白いと思ったのは、
「すぐに支援につながった方が効果が高い」ということ。支援機関にいる者としては、来たくれた時点をスタートとするしかなく、「もっと早くつながっていれば」というたらればをあまり考えることがなかった。「必要な人に情報が届くように」とは思っているが、その必要性を考える前に、自動的につながるくらいの流れが必要(そういう国もある)なのかもしれないと思った。
若者に必要なのは訓練ではなく就業なのだ、というのは私がいる支援機関でも同じ考えなので納得。何よりも経験。そして就業してきたという履歴が大切で、その入り口に立たせてもらえる企業を日々探しているのが私の仕事である。
その方法として、目の前にいる若者を見てもらい、情が移ることを期待する(?)面があるが、相手によってはこのようなマクロ的な視点(就業経験が何よりも正規就労や生活回復、今後の就業人生に大切で、その入り口に立つことのできなかった事情を持つ若者にチャンスを!というような)が効く会社もあるのではないかと思った。