さて注目の4月の米小売売上高は市場予想に沿った内容で堅調との判断となった。前月比0.9%増え、市場予想(1.0%増)をやや下回ったが、高インフレに負けず、消費は引き続き堅調に推移していることを示した。3月分は1.4%増と、前回発表の0.5%から上方修正されている。この結果を受けて当面の成長の下振れリスクに対する懸念が後退、この日の米国株式市場は大きく上昇した。前週までの悲観的見方は後退し楽観論が前面に出たものの、言うまでもなく市場センチメント自体が不安定化しており、本日そして明日は不明という展開だろう。ベア・マーケット・ラリー(弱気相場の中での短期反発)というのもある。
ただし、足元で経済指標が好調に推移することは、連邦準備理事会(FRB)にとって、インフレ抑制に向け強気の引き締め策を遂行する後押しとなる。
実際にこの日ウォール・ストリート・ジャーナル主催のイベントで講演したパウエルFRB議長は、インフレ抑制に向けて強気の引き締め方針を再確認する発言をしたが、背景には好調な経済環境があるとみられた。パウエル議長は、ウクライナ情勢や中国主要都市でのロックダウンは経済の不安材料を並べたうえで、「米国経済は実質的な強さを示し続けている」と話した。そして、インフレが明らかに低下している証拠を確認するまで、「FRBはさらに積極的な行動を検討する必要がある」とし、「金利が『中立』と広く見なされる水準を超える状況になっても、ちゅうちょしない」と言明。経済を過熱も冷やしもしない金利水準を「中立金利」と呼び、FRBは2.5%前後の水準に置いている。この水準を超える利上げは、景気を冷す可能性が強まるが、インフレが収まらなければそれ以上の利上げも厭(いと)わないという強気方針を語った。
このあたりは、最近の発言の中で一連の強硬的なインフレ抑制の引き締め先が経済に“多少の”痛みを伴うとの見方を示し始めているところから、景気にマイナス効果が生まれる覚悟というか予見があるのだろう。その上で自身が5月のFOMCに際し記者会見で6、7月の50bp(0,5%)の連続利上げにまで言及するという異例の行為の背景に、市場に対し警戒感を起こさせ事前に反応させることにあったことを、(金融市場との対話について)「極めてうまくいっている」と表現した。つまり先週にかけて長期金利が3%を突破したり、株価が急落したりということも含め、FRBの緊縮策への反応であり、それは狙った効果が表れているとの受け止め方をしているということだろう。
前月比0.9%の伸びの小売売上高も、40年ぶりの高インフレ環境にもかかわらず上方修正された前月比で6777憶ドル(約88兆円)つまり0.9%増えたのは評価できる。強烈なインフレ抑制策に耐えられるということだが、本当に耐えられるのか経済実験のようでもある。
本日発表の4月の住宅着工件数は予想値に沿った結果になったようだ。冒頭で株式含め急騰してもセンチメントは不安定と書いたが、本日の株価の展開が見もの。FRB執行部が思い描くようにコントロールは出来ないだろう。