「サバイバー 名将アリー・セリンジャーと日本バレーボールの悲劇」を読む。吉井妙子著。講談社。
この著者は、4年前のアテネ五輪の時には全日本女子バレーの柳本ジャパンをテーマにした本を出している。それが、なぜ今、日本のバレー界を去ったセリンジャー氏について書くのか。著者が、今の日本のバレー界をどう考えているのかが、ここから窺える。実際この本は、日本のバレー界でタブーとされている問題に深く切り込んでいるが、それは本を読んで確かめてほしい。
元イトーヨーカドーで、ダイエー、オレンジアタッカーズ、パイオニアでセリンジャー氏の指導を受けた斎藤真由美が語る秘話が、おもしろい。そういえば昔、TBSの「ニュース23」のスポーツ・コーナーに、彼女がよく出てたっけ。96年のアトランタ五輪アジア予選を前に、長い故障から復活したばかりの斎藤は、全日本を辞退したのだった。「ほんの一時(いっとき)の話題のために、選手生活を終わらせることはできない」、という彼女の発言が放送されたが、あの当時と今とでは、TBSの姿勢は全然違う。今は完全に五輪第一、ビジネス第一になってしまっていて、五輪の価値を否定するような発言を放送することは、決して、ない。
この本には残念な点が一つある。セリンジャー氏がダイエーを率いて初めて日本一を決めた試合では(確かユニチカが相手だったと思うが)、当時世界一のアタッカーだったキューバのミレーヤ・ルイスが大活躍したのだが、この本はそれについて全く触れていない。ほとんどのトスがルイスに上がって、彼女が一人で打ちまくって(山内美加を差し置いて)勝ったのだ。少なくとも初優勝は、監督の指導力ではなく、選手の個人技の賜物だった。
つい最近日本バレーボール協会は、次の全日本の監督を、インターネットを使った公募で決める、と発表した。果たしてセリンジャー氏は応募するのだろうか。もし彼が監督になったら・・・・・。「バレーボールは背の高い人がやるものだ」と言う彼のことだから、まず、ロシアやブラジルで代表入りできずにくすぶっている若手選手をスカウトして、日本に帰化させることから始めるのではないか。