新安保法制の撤回を求める信州大学人の会第35回シンポジウムが、憲法ネット103主催の第1回全国どこでも憲法として開催され、国際基督教大学の稲正樹元教授から「日本国憲法改正と憲法研究者の役割」について講演がありました。私は所用で30分ほど遅刻してしまったので、レジュメの中で私が重要だと思ったことを紹介します。
■立憲主義原則の下での憲法改正要否の判断基準
稲氏は、憲法研究としての役割を、高見勝利氏の「私たちは9条に自衛隊を明記する安倍首相の提案とどう向き合うべきか-憲法改正要否の基本ルールとの関連で」(法と民主主義521号)を紹介し、立憲主義原則の下での憲法改正要否の判断基準(判断ルール)として以下の5点をあげている。①憲法は権力の制限規範であるので、権力の創設や拡大を目的としない。②権力の創設や拡大につながる改正には、綿密な理由が必要である。③権力の創設や拡大がどうしても必要とされ、憲法の規定と抵触する場合、改正しか目的を達成する手段がないかを確認する。④改正は憲法規定の合理的解釈や立憲措置などで目的が達成できない場合に限る。⑤改正が国民主権、基本的人権の尊重、平和主義など憲法の基本原理を損なわないか確かめる。
■自衛隊加憲による波及効果
次に山内敏弘氏の「『安倍9条改憲』論の批判的考察」(法と民主主義521号)から、加憲によって自衛隊に憲法的公共性が与えられる結果の「波及効果」について紹介している。①安保法制(戦争法制)の憲法的認知、②際限のない「戦力」の保持、③徴兵制・徴用制の合憲化、④自衛官の軍事規律強化、⑤軍事機密横行、⑥自衛隊のための強制的な土地収用、⑦自衛隊基地訴訟への影響、⑧産軍複合体や軍学共同体の形成。このように軍がこの国の政治・社会・経済・外交・教育などのあらゆる面において臆面もなく大出を振って歩く時代がやってくることを、広く訴えていく必要があると指摘。
関連して浦田一郎氏の「自衛隊加憲論と政府解釈」(法律論叢第90巻第6号)で、山内氏の指摘が全面的に実現するのは加憲された自衛力論に関する政府解釈の変更や2項削除改憲の段階であろうと言い、これに向かう動きがすでに始まっており、加憲段階で直ちに強まる可能性があることを指摘していることを紹介し、9条改憲を国民に経験させ、複数段階改憲構想のなかで2項削除改憲論を導くとしている。
稲氏は最後に「「加憲」の行き着く先を多くの市民に認識してもらう努力を続けていくことが、憲法研究者の果たすべき役割ではないか」と結んでいる。
続いて神奈川大学特認教授の音森健氏から「5月7日の水島朝穂氏の直言を紹介したが、ここでの記載は省かせてもらう。水島氏のホームページでご覧をいただきたい。
会場からの質問で「自衛隊はなぜ違憲なのか」「自衛隊が違憲ではない状態とはどんな状態なのか」という質問があった。これに対して信州大学教授の成澤孝人氏は「憲法第9条2項に戦力を保持しないと書いてあるからだ。日本国民は戦わないことで平和を守ることを憲法に書いた」、根森氏は「前文の平和的生存権、9条1項で戦争放棄をしていることから自衛隊は憲法違反。国民が災害救助をする自衛隊を認めているのだから、国土保全隊に改組すればいい」と答えた。
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