リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

少年たちは秀吉の前でどういう曲を演奏したか(5)

2021年07月07日 18時27分26秒 | 音楽系
では具体的にパレストリーナやアルカデルトのどういう曲であったのか、というのは特定が難しいでしょう。現代において人気のある曲は必ずしも当時の人気曲とは限りませんし。

ただカラヴァッジョの絵に楽譜が描かれたアルカデルトの作品5曲(当ブログ内で「カラヴァッジョ」で検索)は間違いなく当時人気があった曲に違いありません。でもこれらの曲は現代ではほとんど知られていません。今年の2月に私とソプラノの佐地多美さんが演奏したのが稀な演奏例ということなのかも知れません。

作家星野博美さんのご指摘、ポルトガルのイエズス会の人たち(少年たちもここです)が当時日本に布教を広め始めてきたスペイン勢力の音楽を秀吉の前で演奏するはずがない、には目からうろこが落ちる思いでした。

音楽史的側面からもおかしなところがある「秀吉御前演奏曲=皇帝の歌説」ですが、もう多くの人はエライ方の思い込みで出したこの説の前には思考停止状態になっています。影響力のあるマスコミのみなさんにはもう少ししっかりしてもらいたいところです。特に視聴料を支払っている放送局には。


注)皇帝の歌:スペインのヴィウェラ(ギターの胴体にリュート式の調弦の弦を張ったスペイン特有の楽器)のための曲。作曲はルイス・デ・ナルバエス、1538年出版の曲集に所収。この曲はフランドル楽派のジョスカン・デ・プレの「千々の悲しみ」を元にしたヴィウェラ独奏曲。ジョスカンは15世紀後半に活躍した。ナルバエスもジョスカンも、遣欧使節とは時代的にも社会的にも地域的にも接点はなさそうである。