リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

日本人は何も知らない

2021年02月08日 12時49分16秒 | 日々のこと
「世界のニュースを日本人は何も知らない2」という本が売れているみたいです。まぁ広告がそう言っているだけなので実際にはたいして売れていないのかも知れませんが、なかなかキャッチーなフレーズがならんでいます。

世界一幸福でも教育レベルが低いフィンランド
貧民に容赦がないアメリカ人
広がる東アジア人差別
子供部屋おじさんは世界の最先端
などなど

よく意味がわからないのもありますが、読んでみたくなります。

日本人の外国(特に欧米)崇拝+自虐歴史観=「向こうではこんなにすすんでいるのに、日本はだめだ」ということを言う人は多いみたいです。最近ではこれの裏返し、つまり日本はこんなにも優れているという内容ののテレビ番組も増えてきました。(最近は少し減っているみたいな感じもしますが)

欧米はすべてにおいて日本より進んでいるという風に見がちな日本人は多いみたいですが、私の足掛け3年程度の短いスイス生活でもナンジャコレというような出来事がいくつかありました。

イタリアに弦を注文して、1カ月たってもなしのつぶて。電話したら3日後に届きました。これは日本にいても体験できますが、要するに忘れていたからです。まぁこれはイタリア人ならこんなもんでしょう、と誰もが思っているかも知れませんが。

バーゼルSBB駅すぐ近くの家電量販店で買った安物のCDプレイヤーが一週間もしないのに故障。たまに正常に動くときもありましたがすぐ動かなくなります。交換をお願いに行きましたら、店員さんが疑い深い目をこちらに向けて言いました。

「ウチが売っているものがそんなにすぐ壊れるわけないわ」
「いえ・・・すぐだめになったんですけど」
「じゃぁ貸して見なさいチェックするから」といってCDをかけると運悪く?ちゃんと作動しました。
「それみなさい。あんたのやり方がまずいだけよ」
「で、でも・・・たまに動くときもあります。何回もやってみてください」

店員さん、面倒くさそうに何度も電源を切ってトライするも、今度はそれ以降一度も正常に作動しませんでしたので、やっと認めていただき、少し追い金してもうちょっとマシな品に交換してもらいました。

とある目的でベルギーに送金しましたが、まだお金が届いていないという連絡。郵便局に行ってちゃんと到着しているか確認に行きますと、実は送金したという記録を破棄したといいます。本当は何か月かは保管しておかなくてはならない送金記録をバーゼルの郵便局は破棄してしまったわけです。ベルギーの郵便局にも問い合わせしましたが、記録はないという。えー、どーなっとんのー!?という感じでしたが、これにはオチがありました。実はお金はちゃんと届いていて、受取人本人が届いたのを忘れていただけでした。チャン、チャン。

対独40年近くになる川口マーン惠美氏の著作『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』には私が体験したような「ドイツあるある」が書かれていてとても興味深いです。冒頭に出しました本はどうでしょうか。こういう本はまず本屋で立ち読みしてから買うのが一番だとは思いますが。

今日は本来なら・・・

2021年02月07日 15時15分33秒 | 音楽系
緊急事態宣言は本来なら今日解除の予定でしたが、3月7日までの延長になりました。基準を下回ったところがある場合は徐々に解除していくらしいですがなかなか微妙なところではあります。

もうひとつ今日は本来ならバロック音楽の旅14の最終日でありました。去年の4月に熟慮に熟慮を重ねて1年延期を決定致しました。もし延期しないで実施していましたら、第1回も危なかったでしょうし、1月、2月と実施予定でありました第5回、6回は確実に実施不可でした。といいますのもこれらの回には大阪、東京から演奏家が来ていただくことになっていたからです。

全6回のレクチャーとコンサートのうち2回中止となると事務手続きの大変さもさることながら、この企画講座の存続も怪しくなってしまうところでした。4月の決断は絶対第3波がある!と思ったからですが、でもまさかそこまでは感染拡大が続かないかもと淡い期待もありました。まぁ安全パイを切ったことがよかったわけですが、本年の実施もよほど感染予防対策をしっかりとしなければならないと思っています。

新型コロナの感染から解放されるのはやはりワクチン接種が国民の70%以上になる頃のようです。アメリカでもワクチン接種が70数パーセントに達するのは年内いっぱいかかるらしいですから、日本だと来年にならないといけないのでしょう。今年の後半からはワクチン接種がすすむでしょうから、多少事情は好転に向かうでしょうけど油断してはいけません。ほぼ以前のような行動ができそうなのはあと1年以上先と思っていた方がいいと思います。

贋作はなぜ魅力的なのか(5)

2021年02月06日 15時15分21秒 | 日々のこと
音楽の分野ではないですが、江戸時代の古文書がネットニュースで話題になっていました。「嘘でつくられた歴史で町おこし 200年前のフェイク「椿井文書」に困惑する人たち」という見出しでした。

江戸時代後期に国学者の椿井政隆によって作られた「椿井文書(つばいもんじょ)」というのあるそうですが、これらの内容が怪しいというのはかなりまえから指摘されていたようです。ここまでならこの連載で扱いましたアヴェ・マリアとかザウチェックなんかの話と同じレベルの話ですが、問題はそのフェイク文書の内容を町おこしに使ったり教育に活用されていたことです。

椿井文書はすべてがでたらめではなく真実もちりばめられているといいます。もっとも全てがでたらめだったらすぐばれてしまうわけで、ひとつのウソを99の真実で覆えばそのウソは真実に見えてくるという、贋作作りのセオリーに則っているわけです。

椿井文書の中にはよく見ると明らかにおかしい(例えばあり得ない日付など)ところもあるといいますが、これはわざと偽物としての痕跡を残したのではないかと言われています。わかる人が見ればすぐわかるという仕掛けを作ってあるというわけです。まぁ一種のおとなのお遊び的な面があったのではないでしょうか。こういうことも承知のうえで、当時はこの文書で紛争をまるく収めた側面もあったようです。

全く素養のない人が地域振興(大体は要するにカネ儲けです)に使ったり学校教育に持ち込んだりするとヤケドをします。国学者椿井政隆はそんな低レベルの人たちよりはずっと高い教養の持ち主だっただろうと思います。

真実を明かせば、市民や子供たちから「なんや、がっかりー」なんて言われるでしょうが、「(椿井文書の内容はそれなりに意味があり)それはそれでおもしろい」(某市議)なんて抗弁しないできちんと真相を明かしたうえで修正していくべきでしょう。

贋作はなぜ魅力的なのか(4)

2021年02月05日 11時01分23秒 | 音楽系
前回のアルビノーニのストーリー、「ドレスデン空襲の廃墟から奇跡の発見」ではないですが、ヴァイスのいわゆる「ドレスデン写本」は本当にドレスデン空襲を生きのびた写本です。もっとも廃墟の中で無事であったというわけではないようですが。もしこの写本が空襲で燃えてしまっていたらヴァイスの最重要写本のひとつが失われてしまうところでした。

さてこのヴァイスにも贋作がありました。メキシコの作曲家マヌエル・ポンセが書いた一連の「ヴァイスの名による」作品です。イ短調の組曲、ホ長調のプレリュード(チェンバロとのデュオ)などがありますが、60年代の日本で出版されたギターピースにはしっかり「ヴァイス作曲」と書かれていました。ポンセはヴァイス以外に、アレッサンドロ・スカルラッティ作とした贋作もあります。

これらは当時沢山の作品をポンセに委嘱していたギタリスト、アンドレス・セゴヴィアとの「共犯」だと言われています。実際のヴァイスの作品が世の中に知れ渡ってきたのは1970年以降ですから、それまではこれがヴァイスだ、と言われたら、その通り信じるしかなかったのでしょう。それにポンセの作品はヴァイスとはかなり作風は異なるものの、バロック音楽のスタイルを踏襲していましたし、それをまたセゴヴィアが華麗に演奏するものですから当時の人は皆信じてしまったのでしょう。

個人的には組曲イ短調のジグなんか大好きです。昔ギターを弾いていた頃によく弾いていました。(とても難しかったですが)作品としての完成度は高いです。でも実際のヴァイスの曲をギターに編曲した場合は、こんなに都合よくギターで弾けません。

これらのポンセの贋作で惜しむらくは、アルビノーニの場合と異なりストーリーが付与されてなかった点です。ヴァイスはドレスデンの宮廷オーケストラのリュート奏者でしたが、作曲されたのが戦前ですから「ドレスデンの廃墟・・・」という手口はまだ使えませんでした。もしそれらしいストーリーに彩られていたらもっと別の展開をしていたかもしれません。でもそうでなかったこともあり、今ではこれらの曲をヴァイス作曲だと言っている人は誰もいません。「真相は実はこうだった」みたいなところで済んでしまったのは、ヴァイスにとってもポンセにとってもまたセゴヴィアにとってもよかったのだと思います。

ものごとをどうみるか

2021年02月04日 13時19分26秒 | 日々のこと
せんだってミャンマーでクーデターとされる事件が起こりました。テレビメディアの多くはアウンサンスーチーを擁護、国軍を悪とみたて報道を繰り返しています。こうような対立軸をみせるのはどっかの知事さんがよく使う手でとても分かりやすいですが、報道を鵜呑みにするとあぶないかも知れません。

アウンサンスーチーは国軍がロヒンギャを追放したことを擁護していますし、法整備をして海外企業が進出しやすいようにするという政策にもあまり指導力を発揮していません。(日経新聞およびテレ東WBSによる)

テレビのアフタヌーンショーなんかを見ていると、ミャンマーの国軍は悪で(確かに民主主義の世界でのクーデターはよろしくないでしょう)アウンサンスーチーがまるで悲劇のヒロインみたいな印象を持ってしまいますが、そう一筋縄でいくよう話ではないのでしょう。

今回の国軍の行動を擁護するつもりは毛頭ありませんが、軍による政治=悪という図式もどっかで刷り込まれたことではあります。歴史的にみたら、日本では長く武士(今風にいうと軍でしょう)が政権を握っていました。その時代がすべて悪であるわけではありません。むしろヨーロッパの腐敗した貴族政権みたいに堕落していかなかったという点では優れていたと言えるかも知れません。

政治家個人だと麻生太郎という政治家もテレビに映っている姿だけを見ていると、少し頭が悪くて傲慢な印象がありますが、インターネットテレビの番組を見るととても紳士的で思慮深い方との印象を持ちました。彼は特定の記者たちが嫌いで、その記者たちの質問にいつも苛立ちを見せる、というかその記者たちに乗せられやすい人だろうとは思います。ある意味正直な人なんでしょう。テレビメディアからその部分だけ切り取って報道されて「少し頭が悪いくて傲慢」という人物像が出来上がったとするならば恐ろしい話ではあります。

ごく最近では森喜朗の「女性は話が長い」発言がアメリカにまで飛び火していますが、この人もメディアの餌食にされやすい人です。20年以上前に「日本は神の国だ」発言でさんざんメディアからたたかれましたが、よく調べてみるとこの発言はなんでも神社関係の人たちの集まりでの発言だそうで、日本には八百万の神がいるというのを「神の国」と言ったようです。神道的な立場の考えからも多くの国民の意識として日本に神はひとつだけとは思っていない現状からも、ごく普通のことを言ったに過ぎないと思います。まぁメディアから攻撃されやすい人は意識してしっぽを踏まれないようにしないといけないとは思いますが。

私たちはひとつのメディアだけの情報を鵜呑みにするのではなく、いろんな角度から吟味する必要があります。そもそも政治関連の話は複雑な要素が含まれていますので、当事者でない限り一方の話を信じないことが重要なのではないでしょうか。


贋作はなぜ魅力的なのか(3)

2021年02月03日 22時06分44秒 | 音楽系
アルビノーニのアダージョという曲があります。なんでも第二次世界大戦時のドレスデン空襲の廃墟の中から楽譜が発見されたというストーリーがあり、またその甘美な旋律に人々は「あの空襲の中でよくぞこのような美しい曲が残ったものだ、まさに奇跡だ」なんて思ったのでしょう。実はこの曲はレモ・ジャゾットという人が1950年代の終わり頃に作曲、出版した曲です。

その後この曲は映画や劇伴なんかに使われて、当のトマゾ・ジョヴァンニ・アルビノーニの作品よりは有名になってしまいました。アルビノーニのアダージョが世に出た当時はまだバロック音楽復興運動の胎動期であり、この曲がバロック音楽時代のアルビノーニ作だと言われたら、「なるほど、さすがにいい曲だ」ということになったのでしょう。でもそれだけだったらここまでは広がらなかったでしょう。やはりドレスデン空襲云々のストーリーがものを言ったのだと思います。このストーリーと甘美な旋律、そしてまだあまり知られていない古の作曲家の名前、これだけ揃ってはじめて贋作が世に出て著名曲になるわけです。

しかし70年代初めのバロック音楽復興の動きを経て、バロック音楽が本格的に広まっていくにつれて、この曲がトマゾ・ジョヴァンニ・アルビノーニの真作だとは誰も思わなくなって今に至っていますが、いつごろから疑われだしたのでしょうか。カラヤンも録音したといいますから、当時は誰もが贋作に騙されていたわけです。1973年録音のレコードのジャケットにはしっかりとアルビノーニのアダージョと書かれています。



でも85年の当盤再発売のクレディットには作曲アルビノーニ、編曲レモ・ジャゾットとなっていますので、この頃には真相が明らかになってきたのかも知れません。まぁきちんとバロック音楽を勉強してきた人なら1分も聴いたら変だと思わなければいけませんけどね。

火曜特売、節分、恵方巻

2021年02月02日 17時08分54秒 | 日々のこと
近所のスーパーAにお昼過ぎに買い物にいきました。駐車場は比較的すいていましたが、売り場にいくと・・・



行く先は人、人、人です。今日は火曜特売、節分、恵方巻が重なっていたのです。私が買うもの少しでしたので一応かごに入れてレジに行こうとしましたが、ずらりと長い列です。


みなさんソーシャルティスタンスはとっていますが、場所によっては超密集のところもありました。

列の前にはてんこもりのカゴをもった人が多くいるので、多分20分くらいは並んで待っていなくてはいけないだろうし、この密状態はいやなので退散して別のスーパーVに行くことにしました。ここはエブリディ・ロー・プライス式なので何曜日特売というのはやっていません。スーパーVに行って見ますと、粛々と恵方巻やら節分用の巻きずし?が販売されていて普段と変わらずゆったりと安全に買い物ができました。

昨年ユニクロが何とかというキャラクターだったかの宣伝をしたらこのご時世なのに客が殺到して顰蹙を買いましたが、このスーパーAも現在まだコロナ禍の最中だということを忘れているようです。企業としての社会的責任が問われます。

贋作はなぜ魅力的なのか(2)

2021年02月01日 16時06分26秒 | 音楽系
少し前の話ですが、生徒さんの一人が「新発見のリュート作品がありますが、ご存じですか。とてもいい曲ですよ」とおっしゃって楽譜を見せてくれました。

コンピュータでタブセットされた楽譜にはSautschekという作曲者名が書かれていました。聞いたことのない名前です。生徒さんがおっしゃるには、プラハ出身の人を中心とした一族の一人でバッハやヴァイスなどとも親交があったリュート奏者だそうです。

作品はシャコンヌやパッサカリアといったカッコいい名前がついている割には平凡な作品ばかりでしたが、一応エルンスト・ポールマンの「ラウテ、テオルベ、キタローネ1970年版」というリュート関連の過去の文献が一覧できる本を参照しましたが名前は出ていません。まぁここに出ていたら新発見ではないわけですね。

ネットで調べても原典となる写本や当時の印刷本情報は見つからず、さらに調べていくと作品も一族のストーリーもナントカというロシア系の名前の人の創作というかデッチアゲということがわかってきました。一族のストーリーとかリュートを弾く人が弾いてみたいようなタイトルの曲を並べて魅力的に見せてひっかかるようにしていたわけです。

ちなみにプロの人でひっかかった人はいないようで、録音もないようです。CDなんか出していたらちょっと恥ずかしい話ですよね。

ザウチェックの場合、曲のスタイルがあまり当時の曲に寄せてない、作品のクオリティそのものも低い、一族のストーリーだけで原典が示されていない、などでわかる人にはすぐわかるものでした。でももっとハイクオリティの曲で、原典となる写本を偽造してこれが原典でござい、なんてやったら結構ひっかかるのではないでしょうか。原典と言っても現代では現物を示す必要は全くなく、PDFを作ればいいのです。うむ、やってみる価値はある・・・かも。(笑)