Pの世界  沖縄・浜松・東京・バリ

もの書き、ガムランたたき、人形遣いPの日記

気持ちのいい一日~新聞社にて

2013年06月17日 | 浜松・静岡

 空気の流れがゆるやかで、太陽もジリジリ照りつけるほど強い日差しではなくて、ほどよい加減で、空も真っ青ではないけれど、でも青味をおびているような浜松のお昼。ボクは13時の約束で、浜松駅の近くの新聞社のオフィスまで歩いて出かけた。すっかり暑くてトボトボ歩く予定が、なんだかすべてがボクのために用意された空間のようで、その中にぴったりと収まったせいか、なんだかさわやかな気分で、足取りが軽い。本当ならば暑いはずで、溜息が繰り返されるような味のする空気で充満している世界だとついさっきまでは想像していたのに、なぜかすべてをからめとって、自分のものにしたくなるような空気なのだ。これが綿菓子だったら、割りばしを幹にみたてた巨大な樹木を作って、そんな枝葉を一気に飲み込みたくなるようそんな衝動にかられるといえばいいのだろう。
 新聞社に行くのは久しぶりだ。沖縄にいるときは、新都心にある真新しい新聞社のロビーでよくイベントやら、ちょっとした原稿なんかのことで打ち合わせをした。新聞社には独特の香りがある。それは、あの新聞の「紙」と「インク」のすえたような「新聞」の匂いではなくて、表現するのがちょっと難しいのだが、たとえていえばほとんど入ることのない学長室のようないやに権威的な香りを感じるのだ。
 僕は熱弁をふるうわけでもなく、淡々とイベントの話をした。向こうも、ただ相槌をうったり、資料に線をひいたり、文字なのか、記号なのかわからないような何かをそこに書き込んだりしている。時たま質問をするが、とりわけ抑揚も、感情も殺したような実に淡々とした表現だ。いいと思う。今日の天気にはぴったりだ。天気がそうさせているのだろう。会話までが何かにからみとられてしまうような、そんな綿のような細さ。ゆるやかな風にゆっくりと舞うようだ。
 会話を終えて、記者はボクをエレベータホールまで送ってくれて、小声でこういった。
 「私ね、沖縄が大好きなんですよ。一年に一度は行くんです。一緒にいた部長、彼も同じなんですよ。沖縄の芸能のことも詳しいのです。」
 そのときの記者の顔は、さっきの濃淡のない表情とは別人で、まるで何か美しい記憶を想い浮かべて、ささやかな笑みを浮かべる少年のような表情になっている。なんだかうれしかった。ボクはきっと「ああ、そうなんですか」くらいの返答しかできなかっただろう。なぜならエレベータの扉がボクをあっという間に飲み込むかのように大きく開いたからね。気の利いた言葉も語れないほど数秒の間の出来事だったのだが、たぶんボクもそんな会話の中で、この瞬時に満面の笑顔を浮かべたに違いない。静岡に来て、ここでも「沖縄と繋がる」。扉のしまったエレベータの中がとたんにするはずのない「新聞臭さ」で充満して、不思議な心地よさを味わった気がした。そうだ、この感じって、今日の空気と一緒だ。