Pの世界  沖縄・浜松・東京・バリ

もの書き、ガムランたたき、人形遣いPの日記

「ある風景の中で In a Landscape」 by 榎本玲奈

2014年12月24日 | CD・DVD・カセット・レコード
 久しぶりに素晴らしい選曲と演奏のCDに出会う。若手のピアニスト、榎本玲奈の現代音楽のCDーー現代音楽、という言葉はあまり好きではないが、ーー1948年のケージのCD表題の作品から今世紀にかけての作品を集めたアルバムである。このピアニストが学生の時の演奏を一度だけ聞いたことがある。そのときから何年たったか記憶は定かでないが、こんな演奏をするピアニストになったなんてあの時からすると想像できない。
 僕は批評家でもないし、西洋音楽の専門家でもないから、70分近く録音されている曲のうち、知っている曲はケージの《In a Landscape》だけで、他はまったく知らない(大学生の頃、ぼくはこの曲を演奏できた。結構、笑える話ではあるが)。たいてい1枚のCDを買っても受け付けない作品というのが収録されているものだが、このCDの収録曲、すべて「自分の壺」なのであり、恐ろしいくらいに音楽に身を任せることのできる演奏である。
 このピアニスト、高橋悠治を敬愛しているという。僕が現代音楽に興味を持ち、民族音楽学を始めたきっかけの一つが1970年代から80年代にかけて次々に出版された高橋悠治の著書や彼の思想、当時、高橋悠治 Part1から始まったコンサートとの出会いということを考えると、不思議な感じがする。何か同じような感覚や思想を共有できるのかもしれない。
 学者とバリ芸能のパフォーマーになる道を選んだ僕は、ピアノを演奏する道を放棄したが、今でも企画という立場でコンサートを作る道は残されている。私が20代のころ、高橋悠治や林光が行っていたちょっと不思議な、しかし他を寄せ付けないようなユニークな(時には「ふつうの」演奏者や批評家が酷評するような)企画のコンサートを幾度も体験した私としては、こういう演奏者の音に出会うと、沸々とコンサートの企画が頭を巡ってしまう。やりたい企画は山のようにあるのだから。