社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

「ケア学 越境するケアへ」広井良典(2000)医学書院

2010-02-18 12:17:09 | その他
ケアは学際的なものであり、ある一方からの働きかけで実現するものではなく、そして様々な意味で、「点」で成されるものではないということを説いている。

引用
・家族や共同体の内部で行われていた「ケア」が外部化され、また独立の制度となっていく…これが「職業としてのケア」の成立ということにほかならない。(中略)バラバラになっていく「個人」という存在を、再び結び付け、あるいは支えるものとして「ケア」という仕事あるいは営みが生まれた…(p.26)
・ケアにあたっては、狭い分野や特定のモデルに閉じこもるのではなく、広くさまざまな領域を見わたし、それらを積極的にとり込み、また必要な調整、コーディネートをおこなっていくことが必要になる。それは対象となる人間自体がさまざまなニーズをもつ存在であり、ひとつの全体だからである。(p.54)
・「スピリチュアリティ」ということについて論ずるとき、それをたんに欧米の議論を輸入するようなかたちで考えるのではなく、日本的な、あるいは日本人にとってのスピリチュアリティとはどういうものか…(p.167)


この本を紹介して下さった方も言っていたが、10年前の書物であるにも関わらず、現在取りあげられている問題と何ら変わりはない。現在につながる形で、「多職種協働」「スピリチュアルケアのあり方」を模索し続けていいるのだと痛感した。

「スピリチュアル=宗教者の支援」と考えがちだが、仏教、キリスト教などがもつ精神についての教えを受け、多くの支援者が肩ひじ張らずに取り組めるようにと願う。

ケア学―越境するケアへ (シリーズケアをひらく)
広井 良典
医学書院

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「逝かない身体 ALS的日常を生きる」川口有美子(2009)医学書院

2010-02-07 20:26:55 | 医学
ALSに罹患した実母の在宅介護記録。
家族の葛藤、本人とのコミュニケーション形態の変化などなど…疾患が進行する過程をとても細やかにそして冷静につづっている。
医療者、福祉関係者等、援助者サイドからは絶対に表現できない/されないであろう「実態」がリアルに書かれている。

引用
・他の疾患はどうだか知らない。でもとにかくALSとは、「受容」するどころのものではないのは確かだった。家族にとってもALSが飽かずに繰り出す障害に、知恵を絞って対抗する日々である。
・介護疲れとは、スポーツの疲労のように解消されることなどない。この身に澱のように溜まるのである。
・ALSの人が家族ともども入居できるケアホームがあったら、利用したい人はたくさんいるはずだが、いまだにそのような場所はない。
・ALSの人の話は短く、ときには投げやりなようでもあるけれども、実は意味の生成まで相手に委ねることで最上級の理解を要求しているのだ。
・(介護をしていた実母が亡くなった後)残された人は燃え尽きてしまうわけにはいかない。これからは、自分の人生をそれぞれに生きていかなければならないのだ。「自分の好きなことをしなさい。」これはALSの介護をしてきた家族にとっては大変難しい。


眼球の動きもとまり、瞼も閉じたままの状態であっても、その人の感情を「脈拍」や「血圧」「顔色」で感じ取る…これは、濃密な時間を共有した者だけがなせるものであり、そしてこういったコミュニケーションのあり方を述べられるのは、家族介護者だけであろう。
本書を読むと、援助者が考える(受けた教育を含む)「支える」ということと、家族介護者が感じるそれとは、やはり大きな違いがあるのではないかと感じる。
それは「職業」としての倫理や方法論というものではなく、もっと根本の、「その人とどう向き合いたいか」にあるのではないかと感じた。

あまりにも圧倒的な記録で、でも冷静で…。何とも表現しがたいくらいに、考えさせられた。


逝かない身体―ALS的日常を生きる (シリーズケアをひらく)
川口 有美子
医学書院

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