社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

「選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子」 河合香織(2018)文藝春秋

2019-03-13 15:33:38 | その他
 出生前診断では「陰性」であったが、生まれたきた子どもはダウン症を患っていた。
医師の誤診と、生まれてきた子どもの「苦痛」に対する謝罪を求めて裁判を起こした家族への取材をもとにしたノンフィクション。進化する医療技術と、それに追いつかない生命倫理について、問題提起している。

引用
・急速に技術が進むなか、生まれる前に命の選択をする技術的なハードルは下がってきている。そして出生前診断を受ける人は増え続け、それは心の準備のためだと言う人も少なくない。だが新型出生前診断を受けた後、確定診断となる羊水検査で染色体に異常があると診断された妊婦のうち九割近くが中絶を選択しているという現実もある。どのような言葉と理由で装飾しようと、私たち社会が直面しているのはあまりに野蛮な問いなのだ。
 誰を殺すべきか。
 誰を生かすべきか。
 もしくは誰も殺すべきではないのか。

・胎児に重篤な疾患がわかった場合も、妊娠を継続し、出産後は積極的な治療をせずに安らかに看取るという取り組みは欧米で始まっており、「胎児の緩和ケア」と呼ばれている。
・産科医へのインタビューから→「胎児自身に選択の余地はないのです。障害を抱えて生まれたとしても、たとえ生命がわずかであったとしても、家族に見守れらながら生をまっとうするのが子自身の本望でしょう。医療は本来そのためにあるのです」


 子に障害があることを理由に中絶をすることは刑法の堕胎罪にあたるという。しかしながら多くは「経済的理由」ということを援用し、中絶手術を法を侵さずに受けている(もしくは手術を行っている)。これはあらためて活字で読むと、恐ろしく重大な事柄だと認識するが、今の日本では「あたりまえ」の逃げ道として成り立っている。
 子を育てることは本当に大変で、きれいごとではすまされない。だからこそ、障害がある赤ちゃんだと診断を受けたときに、生むのか/生まないのか(堕ろすのか)に、女性は苦しむのであろう。

本書では、生命倫理と法律の「詰めの甘さ」を様々な立場にある人への取材を通して、具体的にそして鋭く追求している。
選ぶこと、生むこと、育てること。選ぶこと、殺すこと、罪を感じながら生き続けること。
これからより一層、命の選択の機会は増えていく。どうか法律がきちんと整備されることを・・・。

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選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子
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「介護経営イノベーション」森一成、渡邊佑(2019)総合法令出版

2019-03-06 06:25:47 | その他
 離職率が高い特養において、コーチングとアメーバ経営を用いてその課題を改善(改革)。その手法をわかりやすく説明している。
 「そんなにうまくいくものだろうか?」と思う部分もあるが、従業員の立場から見ると、こういう経営者、管理職、組織であって欲しいと強く感じさせられる。

引用
・多くの人は幹や枝、葉や花しか見ようとしませんが、本当に大切なのは普段は見えない部分、土の中にある根っこなのだということです。
・コーチングでは、企業の仕組みや従業員の業務改善などには言及しません。対話によるコミュニケーションを重ねることでクライアント(企業の場合は幹部や従業員)の目標達成に必要な考え方や視点などへの「気づき」を促し、自分で考えさせ、自発的な行動の手助けをしていきます。


 コミュニケーションの大切さ、自発的な行動を促進させる働きかけ・・・もっともなことであるが、ほとんどできていないのが現場の本音なのかもしれない。それは「時間がかかるから/手間がかかるから」。
私の身近な管理職を見ていると、離職率を下げる特効薬ばかりに目をつけ、中・長期的な目標は設定していない様子がうかがえる。確かに、今日の夜勤がいない。明日の遅番がいない。という問題には早期解決が必要であり、時間の猶予はない。
しかしその穴埋めをするのと並行して、中・長期的な目標への動きがないと、まさに自転車操業であり、解決は永遠に来ないような印象すら受ける。
 職員養成、人材確保のためには、現場との兼務ではもはや限界があり、そのための専門要員が必要なのだと痛感している。


介護経営イノベーション
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総合法令出版
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