社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

「終末期がん患者のスピリチュアルペイントそのケア:アセスメントとケアのための概念的枠組みの構築」

2010-10-26 20:13:41 | 哲学
村田久行 『緩和医療学』Vol.5 no.2 2003

スピリチュアルペインを「自己の存在と意味の消失から生じる苦痛」と定義。ペインが生じる要因を「人間存在の時間存在、関係存在、自律存在」から考察し、スピリチュアルケアを提供するための指針を提案している。

スピリチュアルケア、スピリチュアルペイン、スピリチュアリティについて、多くの先行研究を踏まえて、丁寧に論述されている。学術的な面が強く、言葉のひとつひとつを読み込みのに時間がかかったが、スピリチュアルについての理解を深めるために、とても勉強になった。

引用
・(先行文献から引用)終末期がん患者のスピリチュアルペイン⇒「人生の意味・目的の喪失、衰弱による活動能力の低下や依存の増大、自己や人生に対するコントロール感の喪失や不確実性の増大、家族や周囲への負担、運命に対する不合理や不公平感、自己や人生に対する満足感や不安の喪失、過去や出来事に対する後悔・恥・罪の意識、孤独、希望のなさ、あるいは、死についての不安といった広範な苦悩」

・スピリチュアリティとは⇒内的自己と他者との相互作用、超越者との相互作用を伴った「つながり」である。


時間存在である人間、関係存在である人間、自律存在である人間…この側面からペインの構造を解明し、それを支援するための指針が提案されている。患者が失っていると感じている側面について、支援者は「その側面はまだ有しているのだ」と知らせていかねばならない。そのためには冷静であり、敏感であり、俊敏でなければならないと感じた。そしてなによりも、感受性が豊かであることが求められると感じた。
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「緩和ケアに関連した2010年度診療報酬改定について-在宅の視点から」吉田大介

2010-10-14 08:37:49 | 医学
『緩和ケア』Vol.20 NO.5 SEP. 2010

徳島で在宅医療を実践している医師による解説。
診療報酬の内容と、今後の課題を在宅医の立場から提起している。

引用
・2008年4月の改訂において、退院時共同指導料が新設された。(中略)筆者としてはこのメンバーに医療ソーシャルワーカーが含まれていないことに不満を覚える。
・今回介護支援連携指導料が明記され、その中に社会福祉士が成員として明記されたことは意義深い。

がん診断時に身体的苦痛をとるという面では緩和ケア医の出番がなくとも、心のつらさのうち、①療養環境、②家族との関係、③仕事などの社会的役割、④経済的問題、などが社会的痛みとして患者を苛み始めることは間違いなく、それゆえ早期から緩和ケアを必要となる。そういった状況に対処し、適切な援助を与えられる職種としてMSWが最適であり、かつ重要ではないだろうか。


緩和ケアの対象者は、余命告知を受けている「終末期患者」にとどまらないという理解は、すでに現場での浸透しつつあると感じる。筆者が指摘されているソーシャルワーカーの必要性、他職種からに認めてもらえることに嬉しさを感じる。
病院から在宅へと移行し、生活をしながら闘病をすることは、とてもしんどく、楽しいことばかりではない。その時に、ソーシャルワーカーが尽力できることは、多くあると確信している。



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『「障がい者」表記が身体障害者に対する態度に及ぼす効果-接触経験との関連からー』栗原李佳・楠見孝

2010-10-06 20:29:47 | その他
『教育心理学研究』2010,58

 大学生を対象とした質問紙調査を踏まえ、「障がい者」という表記が障害者に対する態度に及ぼす影響を、接触経験の関連から検討することを目的としている。(*身体障害者に限定)
 「障害」「障がい」についてのアプローチを、社会福祉学ではなく教育学という学問から見ることで、今までとは異なった側面から捉えることができた。

引用
・大学生に対する質問紙調査の結果⇒身体障害者のイメージは、「社会的不利」「尊敬」「同情」の3つが抽出された。
・表記の効果⇒「障害」を「障がい」とすることで、身体障害者との接触経験がある者については、「尊敬」に関わるポジティブなイメージが促進された。
・表記を変えることで、交流への効果は間接的で、直接身体障害者に対する交流態度を改善させるものではなかった。


 もともとは「障碍」という表記であったものが、当用漢字の制限を受けて使用できなくなったため、「障害」に変わったそうだ。このことは恥かしながら、初めて知った。
 「障害」でも「障がい」でも、どちらであっても「あなたはあなた」である。そこまでいきつけば、この議論は嬉しくもムダな議論になるであろう。
 アメリカでは、「disabled」「handicapped」という表現の他に、“「challenged」:神から与えられた挑戦”と呼ぶこともあるそうだ。問題は中身であって、表面(呼び方)ではない。しかし、当事者や周りの人たちが心地よく生活できるような配慮の一つに、呼び方もあるのだと思う。

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「英米における医療従事者のための死生観教育」Carl Becker

2010-10-04 10:26:52 | その他
諸外国における、医師・看護師養成課程における死生観教育の取り組みを紹介している。
すでに出版されている書物からの抜粋ということもあり、読みやすく分かりやすい

引用
・英国の看護師教育では、1971年から正式な死生観教育のプログラムが導入された。アメリカでは、1975年度あたりから導入された。

・カナダやイギリスの看護学部における死生観教育の中心テーマ
①家族と患者の精神とコミュニケーション
②喪失感と負担の対応と治癒
③死に対する不安やスピリチュアルペイン
④死の間際にかかわる決定権や倫理的問題
⑤ホスピスと看護師の役割や責任、など

・カナダの電子通信教育(学部生に限らず、現役の医療従事者も対象)において取りあげられるカリキュラムの内容
①緩和ケアの複数モデルとそれらが前提とするコミュニケーション
②末期患者の家族の期待や精神的なニーズと、介護者自身のストレスとその対処法
③決定方法、自己決定と代理決定、尊厳死宣言や医療に対する希望の文字化
④家族内のコンフリクトの予測と予防、決定に関する和解など。医療チームの中のコンフリクトの予測と予防、協力態勢の支援法
⑤死にゆく子どもにまつわる特殊の問題。苦悶、喪失感、悲嘆などに対するカウンセリング
⑥他言語、他文化、他宗教や世界観に対する感受性。臓器提供、組織提供、献体、など


学部生と比較し、現役の医療者をも対象としたカリキュラムは、とても具体的で活用しやすいものが用意されている印象を受けた。
ソーシャルワーカーについては多く触れられていなかったが、以前見学をしたアメリカのホスピスのソーシャルワーカーによると、養成課程(特に大学院レベル)では、死生学について学ぶことは「普通」であると言っていた。

今後は日本でも、この側面の教育が期待されるであろう。それを学部レベルで終わらせず、定期的にトレーニングできるシステムがあってこそ、根付く学問であると思う。



緩和ケア 2010年 09月号 [雑誌]

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「在宅ケアからみた死生観-死と向き合う場としての在宅ー」前野宏

2010-10-03 20:24:51 | 医学
『緩和ケア』Vol.20 No.5 SEP.2010

在宅緩和ケア専門のクリニックに勤務している医師の論文。
自身の経験を踏まえ、在宅で死を迎える患者、家族の死との向き合い方や医療従事者の姿勢について述べている。

学術論文ではなく、実践報告という印象が強く、広く多くの人が理解できる内容になっていると思われる。

引用
・ギリシャ語で「時間」を表す言葉が2つある。それは「クロノス」と「カイロス」である。「クロノス」は一般的な時間を意味する。「カイロス」は人間の内的な時間、長さではなく、意味を持った時という意味である。
⇒上記を踏まえ、近代医療は治癒しない状況であっても長く生きるために治療をし続ける…「クロノス」。一方で、病気が治らないのであれば、延命治療よりも「今」という時を大切にする…「カイロス」。


本論文では、いくつかの事例を紹介し、「患者が死と向き合い、死の準備をするのに自宅に勝る場はないであろう」と述べている。気持ちの整理、思い出の品の整理、お金の整理などなど、そういった作業は死と向き合うことを後押しし、そして伴走もするだろう。そういった意味で、筆者の見解にはとても共感できた。
しかし家族にとっても、「患者の死と向き合うためには、在宅という場はふさわしい」という見解には、素直に共感することができない。それは症状が安定せず、患者本人の精神状態の変動が著しい場合、家族にとっては、患者亡きあと「思い出したくない空間」にもなりえる。それは、疼痛管理や介護体制を十分に整備することで、起こらない事態かもしれない。しかしやはり未だに、「急に退院しろと言われた」「何がなんだかよくわからないまま、日々を消化している」と思う患者・家族はいるであろう。

在宅は「居心地のよい場所」であることは間違いない。しかし万人にとってそうなのか、少し斜めの角度からも「在宅緩和ケア」を眺めることも必要だと考える。


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