社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

「ささえあうグリーフケア 小児がんで子どもを亡くした15人の母親のライフ・ストーリー」

2010-08-25 12:07:50 | 社会福祉学
金子絵里乃(2009)ミネルヴァ書房

小児がんによって我が子を亡くした母親に対するインタビュー調査を通して、グリーフケアの過程とそれに伴走するセルフヘルプグループの存在(役割)について分析。
インタビュー調査によって明らかにされる母親の声は、とても心に響く。

引用
・(インタビュー調査より)「悲しみと共に生きるということで、結局やっぱり悲しみから立ち直るとか克服するとか、そんなことってできないと思うんですよ」

・グリーフケアにおけるソーシャルワーカーの役割
子どもの闘病中-予期グリーフを表出できる機会を作る、病院以外に相談できる場と母親をつなげる、生活環境を整える

ターミナル期や看取りの時をどこで過ごしたかということよりも、母親が穏やかな環境のなかで子どもと最期のお別れをして看取ることができたかどうかが、子どもを亡くした後の母親の生活に与える影響は大きい。


闘病中~子どもが亡くなった直後~数年後…時系列で語られる母親の「悲嘆」の様子は、心を打たれる。読めば読むほど、グリーフケアは誰にでも起こりうるものであり、そしてケアは必須であること。そしてその担い手には、「たやすくなれるものではない」ということを痛感した。
本書はセルフヘルプグループに参加している母親を対象としているため、それに出会えなかったひと、グループが存在していないところで死別を体験したひとへのアプローチ/ソーシャルワーカーの役割にについての言及は十分ではなかった。しかし筆者が述べているように、セルフヘルプグループが有効であること、それがどこに住んでいてもアクセスできるように、社会に働きかけていくことも、ソーシャルワーカーの重要な使命であるだろう。

筆者が問うた「グリーフケアとは何か?」。それはとても共感できるものであった。
『死別を体験した人が、自己をケアしていくプロセスなのではないだろうか。場所や関係性にかかわらず、これがグリーフケアの根底にある本質のように思う』
…それにきちんと向き合い、伴走していくことが専門家に求められているのだと思う。


ささえあうグリーフケア―小児がんで子どもを亡くした15人の母親のライフ・ストーリー
金子 絵里乃
ミネルヴァ書房

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『死別に伴う「悲嘆夢」が遺族の喪の作業に与える影響 夢から覚醒後の諸反応の検討』

2010-08-19 19:48:08 | その他
濱崎碧/山本力『心理臨床学研究』第28巻 第1号 2010年

故人の登場する夢は、遺された人々にどのような影響をもたらすか。
遺族の手記をもとに分析をしている。
「喪の作業」に故人の登場する夢はどのような影響を与えるのか。知識として持っていると、援助の際に効果的に活用できると感じた。

引用
故人の登場する夢⇒「悲嘆夢」
・悲嘆から前に踏み出すことは故人のことを放置するようで自責の念を呼び起こしがちである。しかしながら、故人の遺志やメッセージに触発されて行動を起こす場合は自責の念は生じにくい(←悲嘆夢によって、一歩を踏み出せることもある…という考察)。
・喪の作業を成功させるためには、悲嘆というpassion(受苦的な経験)からワークというaction(能動的な行動)へと主体的に切り替える必要がある。(中略)遺された人が、夢と言う形で「故人が来訪してくれた」と考え、故人に感謝するという新たな認知は、passionからactionの転換をもたらす力の一つにある。


喪の作業のプロセスには、様々な出来事、もの、ひと…が存在する。「夢」もそのひとつであろう。
遺族から語られる言葉を重んじ、それを受け止め、伴走していくために、援助者は多くの知識や技術(少し乱暴な表現かもしれませんが…)、そして経験が求められる。
「悲嘆夢」というものがあるのだと、勉強になった。

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『精神は在宅の「懐かしさ」で支えられる-在宅ホスピスの可能性-』徳永進

2010-08-16 15:59:21 | 医学
『臨床精神医学』39(7)

人はなぜ「在宅ホスピス」を望むのか?という素朴な疑問に対し、筆者の臨床経験を踏まえた所見が記されている。
「在宅ホスピス」がブランド化されつつある現在、少し立ち止まって、「なぜ在宅での看取り?」「在宅医療?」を素直に振り返ることができた。

引用
・病院やホスピス病棟では生まれない「懐かしさ」が家にはある。
・死は人工物で囲んではいけない。人間だから、自然の中で死を、というわけにはいかないが、生活の場が可能ならそこがいい。暮らしの匂いがするところが、人間にとっては自然に一番近いところだと思われる。


私は「在宅での看取りがベストである」とは考えていない。
長く一人暮らしをしてきた人が「せめて最期くらいは、人の中で過ごしたい」と望んだり、「家族に迷惑をかけずに逝くことが、自分にとっての最良の死に方だ」と望む人と出会ったからだ。突き詰めて話をすれば、「自宅が一番だけど…」ということになったかもしれない。しかし「一人では生きていけない」ことを身をもって実感し、考え抜いた末の答えであったから、それが彼らの「意思」であったと思う。
どんな選択であれ、それが病院、施設、自宅であれ、彼らが望んだ選択が最優先されることが一番だと考える。
今後は、自宅ではない「在宅」を最期の場として選択される人が増えていくだろう。
自宅ではない「在宅」で、「懐かしさ」を感じることは難しい。せめて「暮らしの音」を感じながら、それが「安心感」につながるよう、援助者は意識していかねばならないと感じた。


臨床精神医学 2010年 07月号 [雑誌]

アークメディア

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「子どもと家族の緩和ケア」 上別府圭子・東樹京子 『臨床精神医学』39(7)

2010-08-09 11:46:25 | 医学
子どもの緩和ケアの特徴と、臨床精神医学の接点について述べている。洋書からの引用が多い。
3つの症例が紹介されており、子どもの「悲嘆」の表現方法やそれに対する家族の反応、さらに援助者としての姿勢・課題等、とても分かりやすい。

引用
十分な緩和ケア提供を阻む障壁(洋書からの引用)
⇒「子どもが先に死ぬのは順番が違うという抵抗感」「子どもが死ぬときに味わう医療提供者側の失敗感」をあげ、その結果、この領域への<回避>が生じている。

子どもの緩和ケアと成人のそれとは、根本的に大きな違いはない…とした上で、子どもの緩和ケアの特徴を成人と比較して紹介(洋書からの引用)
⇒「緩和ケアを必要とする状態が多様であり、疾患もばらばらで希少疾患も多く、多くの学問や専門家を必要とする」「発達についても配慮せねばならず、<1人の>子どもであっても時間の経過によって<変化している>…など


子どもは年齢によっては、ケアの提供決定や病気の告知について「2番目の存在」になりやすい。
一方で、治療が長期間に及ぶことで、「理解できにくい年齢」から「おおよそのことは理解できる年齢」に変化していく。
感情や身体の発達は、人間としての喜ばしい成長である一方、援助者にとってはとても難しく、そして一番大切にしなければならない側面であると感じた。

臨床精神医学 2010年 07月号 [雑誌]

アークメディア

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「複雑性悲嘆の理解と早期援助」瀬藤乃理子・丸山総一郎(2010)

2010-08-08 09:24:10 | その他
『緩和ケア』Vol.20 No.4 JUL

死別後の遺族には、「悲嘆反応」がある。それが正常な反応である場合と、何らかの治療を必要とする重篤な反応の場合がある。
重篤な反応についてのアセスメント、それに対するケア提供者の姿勢についてまとめている。日本では聞き慣れない「複雑性悲嘆(CG)」の定義を踏まえ、それらを説明している。

引用
複雑性悲嘆:complicated griefとは?⇒死別に関連した特殊な障害で、重い精神症状や社会的機能の低下を引き起こし、専門的な治療を必要とするもの。

CGの特徴として最も受け入れられている見解⇒①6カ月以上の期間を経ても強度に症状が継続していること、②故人への強い思慕やとらわれなど、CG特有の症状が非常に苦痛で圧倒されるほど極度に激しいこと、③それらにより日常生活に支障を来していること

死別を扱うケア提供者に重要な視点(洋書を引用している)⇒①複雑化した死別と複雑化しない死別の反応の違いを理解する、②より脆弱な方向へと向かわせる個人の危険因子を同定する、③回復を阻害する要因を正しく評価しモニタリングする、④不適応を予防し最小限にするための行動をとる

医療従事者ができる家族・遺族援助
・死別後のリスクの高さの予測
・死別後の相談窓口としての役割…など


以前読んだ1990年代の洋書で、「複雑な反応をしめす悲嘆」を扱っていたが、20数年を経てようやく日本でも注目を浴びるようになったのだと感じた。
この論文の筆者も指摘しているが、日本においては「悲嘆」についての議論がまだまだ十分ではなく、またケア提供者への教育も浸透しているとは言えない。
「現在の医療制度の枠組みの中で行うことは困難な面が多いが、今後は医療の一環として取り組まれることが望まれる」という提言は、もっともだと思った。

緩和ケア 2010年 07月号 [雑誌]

青海社

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「高齢者の終末期ケア ケアの質を高める4条件とケアマネジメント・ツール」

2010-08-04 10:50:39 | 社会福祉学
樋口京子・篠田道子・杉本浩章・近藤克則/編著 中央法規(2010)

質の高い終末期ケアの条件提示と、それを実践するためのツールを紹介。
多くの事例を分析し、かつ多職種によって検討・立案されただけあって、とても具体的にまとめられていて現場でも活用しやすい印象を受けた。
また、ツールを活用した事例研究については、その事例を読むことで、自身でどう取り組めるのか…といった糸口を見出すことができると感じた。

引用
・悲嘆反応とグリーフケアについて
慰めや励ましを必要とする時期は死別前後だけではなく、四十九日法要や一周忌の頃までも続いていた。家族が看取ったことの意味づけを完了できるように、死別の意味づけの促しや家族に対するグリーフケアの立案・実施を進めていく必要がある。

・ツールを活用した事例紹介の一節から…
☆介護スタッフに対しては、看護師から終末期ケアの観察ポイントやケア技術のレクチャーを受ける場を設けたり、緊急時の対応を具体的に作成したりした。
☆家族へのグリーフケアの必要性を感じた介護スタッフがアルバム作りに取り組むようになったり、介護スタッフへのグリーフケアとして、カンファレンスや看護師のかかわりといった動きもみられた。
☆「死は日常生活の延長にあるもの」と、死を待つのではなく本人らしく今をどのように生きるか、そのための支援は何かを自然と考えるようになっていた。
☆「本人の意思」を軸にして考えるようにすると、多職種間でのケアの視点のブレを防ぎ一貫性を持つことができる。


これまで、医療職向けの「看取りマニュアル」的なものは多く出ているが、社会福祉従事者もしくは社会福祉施設での看取りについては、ここまで具体的に活用できるものはなかったように思う。
介護職と看護職の役割分担、介護職だからできること、看護職だからできること…そういった当たり前のことを、ツールを活用することで分かりやすく共有しやすくできると感じた。

高齢者の終末期ケア―ケアの質を高める4条件とケアマネジメント・ツール
樋口 京子,杉本 浩章,近藤 克則,篠田 道子
中央法規出版

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「緩和ケアにおける面接」山田了士『こころの科学』No.149/1-2010

2010-08-02 10:29:28 | 医学
がんの緩和ケアにおいて、援助者が患者/家族と面接を行う上での留意点について、精神科医の立場から紹介している。
昨今クローズアップされているスピリチュアルペインについて、症例を通して説明されていることろが、大変わかりやすかった。

引用
・スピリチュアルペインとそのケアの理解について…小澤竹俊氏、村田久行氏の解釈を引用
「存在とは時間存在(未来があり、それに希望が伴うなど)、関係存在(大事な人とのかかわりなど)、自律存在(自分で意思や行動を選べること、他人の役に立つなど)の三つの柱からなり、このどれかが障害されることによってスピリチュアルペインが生じる」

・がんの進行した患者さんでは次がない可能性がどうしてもある。「わかったつもり」にならないように注意しながら、その日しか聴けないかもしれない話の中で、患者さんにとって何が一番大事なのかを理解する。


『人の理解の立体把握』…これは学生時代の恩師が、ゼミや実習前指導において、徹底的に教えてくれたことである。この考え方と小澤・村田両氏の解釈による「スピリチュアルペインが生じる要因」は、とても近いものであると感じた。
ソーシャルワーカーは特に、家族問題の解決支援等で「関係存在」の修復に機能を発揮できると考える。また『人の理解の立体把握』の考え方に立てば、その理解を専門性のひとつとして教育を受けているソーシャルワーカーは、やはり全人的ケアの実現には不可欠だと、思わずにはいられない。

こころの科学 149号

日本評論社

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「子どもの悲嘆とその対応-積極的な受け身の姿勢で寄り添う-」

2010-08-01 15:56:59 | その他
石井千賀子、左近リベカ『緩和ケア』Vol.20 No.4 JUL 2010

子どもの悲嘆の特徴とその対応について簡潔に述べられている。
また、年代別の「死」の理解と表現についての紹介もあり、実践に活用できる要素が盛り込まれていると感じた。

引用
・子どもの悼みの表し方…大きく3つに分けられる
①不健康児タイプ-不眠や心配事が、身体の痛みや体調の変化として表れる
②心配無用児タイプ-何事もなかったように元気でフツウに振舞っている
③問題児タイプ-急に感情を爆発させたり、口答えをして周囲を困らせる

・積極的な受け身の姿勢⇒グリーフケアの基本として、子どもとの「安心し合える関係づくり」のために、doing(行動すること)よりもbeing(そばにいること)が大切である。「being」とは、子どもを主体とし、「積極的な受け身の姿勢」で、ケア提供者が寄り添うことである。


積極的な受け身…これはグリーフケアにとどまらず、対人援助においては他の場面でも期待される姿勢であると考える。大切なことを決断する時もそうであろう。
寄り添うことは、時間を必要とすることであり、それゆえに人員も必要となる。
専門的なスキルと同時に、やはり人員問題も絡んでくるのだと、しみじみ思う。
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