社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

「ねたきりエイズ患者」に対する地域生活支援-固有の脆弱性とソーシャルワーカーの役割-

2008-09-17 21:51:53 | 社会福祉学
葛田衣重 小西加保留 『ソーシャルワーク研究』Vol.34 No.2 2008

一つの事例を時系列で分析し、その時期でのソーシャルワーカーのおよび支援チーム全体の関わりを整理している。
大学病院から在宅療養への移行について、「エイズ」であるがゆえの難しさも整理されている。


事例では、母親が主介護者として在宅療養を支えることになったのだが、その母親の言葉…「退院後1か月が非常にきつかった」
これは「エイズ患者」のみならず、すべての患者本人・家族が実感することだろう。もしかしたら、在宅療養を「退院」という時期を機に支えはじめた(主治医を残したままではなく、すべてを切り替えて)、在宅領域の援助者にとっても、言えることかもしれない。
この事例を担当した病院では、在宅で関わる訪問看護師やヘルパーなどに対して、事前に「講習会」を開いたり、定期的に検討会議を開き、地域と病院との連携を十二分に確保していたようだ。
その疾患に特化している病院にとっては、「疾患について」や「疾患に対する予防策」等は、「今更なこと」もあるかもしれない。しかしその「今更なこと」や「当たり前のこと」は、在宅領域では「まだまだこれから!」というものも多くあるのだと思う。
その垣根…というか温度差を軽視せず、互いに歩み寄ることが、在宅療養への移行をスムーズにするための近道になると思う。
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患者・家族・専門職における<認識のズレ>‐筋委縮性側策硬化症(ALS)患者への支援- 隅田好美

2008-09-14 08:43:31 | 社会福祉学
『社会福祉学』Vol.49-2 2008.8

患者・家族、そして専門職へのインタビュー調査を通じて、各々の「認識のズレ」を体系的にまとめている。
どちらか一方に対してのインタビュー調査から、援助の在り方を問う論文は割と多いが、両者に対して、「あの時はどうであったか?」的なインタビューを行う調査はとても少ない。核心に迫る結果も出ているため、大変興味深く、学ぶことが多い。


ALSと確定診断がついたときに、医療者は「今後こうなります。いずれ必要になりますから、こういうものを知っておいたほうがい。」と様々なサービスについて情報提供をすることがある。
もちろんすぐには受け入れられず、月単位でもしくは年単位で、その時々に応じたサービスを利用するよう働きかける。身体的状況に応じて、より生活がしやすくなるように、情報提供をし、効果的にサービスを利用させる…それが「患者支援」であると思っていることが多いであろう。実際、私もそう思い、働きかけていた。
そして、何度説明をしてもサービスを利用せず、その結果生活をする上で、何らかの支障を来してしまった場合、「やっぱり…だからサービスを使ったほうがいいって説明したのに」と思い、そうなってしまった患者・家族を「理解力がない人たち」と援助者間で「レッテル」を貼ってしまったこともある。
本論文を読んで、こういった自分(そして自分たち)の考え方をものすごく恥じた。「理解力がない」のではなく、まさしく「認識のズレ」が根本にあったのではないかと考えさせられた。
進行性の疾患であるがゆえに、援助者は「身体状況」を重視し、先に先にと援助の手を差し伸べる。疾患とのバランスを考えるのは非常に難しいが、もし「本当にあの患者と家族は、病気を理解しているのか?」と疑問に感じた時、援助者自身の説明能力を振り返るのも一つだが、それよりも、患者・家族がいる「位置」をきちんと把握することが、より大切であろう。
「患者に寄り添って援助する」ことを、今一度、考え直したい。
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家に居たい患者さんに看護ができること 角田直枝(2006)

2008-09-13 21:56:39 | 看護学
『緩和ケア』 Vol.16 No.3 MAY 2006
 
主に、在宅医療における看護教育のあり方を検討。
病棟看護師にむけての、エール?檄?という印象を受けた。

1996年に看護教育のカリキュラムが改正され、初めて「在宅看護論」が設定されたとのこと。
引用
「病院の看護師と訪問看護師が研修や学会などで同席する機会も少ない。病院と在宅で働く看護師の協働が立ち遅れてきた結果、看護師の多くが在宅療養を知らずに退院指導や退院調整を行っているのが現状である」


「在宅看護論」が割と新しい科目であることに驚いた。
しかし大学での保健医療ソーシャルワーク教育は、もっと遅れていると思う。
特に医療福祉に関しては、医療機関が社会福祉士の実習機関として認められたのはここ数年(3年くらい?!)のこと。さらに、保健医療でマイナーな位置にある「在宅医療」については、触れられる機会が少ないのではないかと思う。
職能団体においてはどうだろうか?やはり「在宅医療」は、「送り出す先」であり、「ソーシャルワーカーとして活動する場所」ではないようだ。実際に、冠がついて開かれている講座等は、「退院調整」ありきのものであることが多い。
「在宅」をフィールドとして活動するソーシャルワーカーは、どうやって成長していけばいいのだろうか…。

論文のなかで、地域の情報を十分に把握できない病棟看護師は、早いうちから地域(在宅)の看護師に情報を得よう!とあった。
病院であれ地域(在宅)であれ、そういったところでソーシャルワーカーを活用してもらいたいなぁ…。
他職種への浸透が、まだまだであると痛感した
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患者さんの退院に向けての意思決定への援助-ソーシャルワーカーの立場から- 大松重宏(2006)

2008-09-11 21:29:24 | 社会福祉学
『緩和ケア』Vol.16 No.3 MAY 2006

国立がんセンター中央病院・ソーシャルワーカーによる論文。
この病院で行われている、がんの告知→療養先の移行などに対する援助を紹介している。


「在宅ケアを希望する場合でも、患者の病状、全身状態、家族の介護力などを十分に評価し、緊急入院が可能な医療機関や、在宅ケアが不可能になった場合に入院できる緩和ケア専門施設やその他の医療機関も調整する」とある。
しかし残念ながら、私が関わった患者さんには、きちんと「紹介」として入ってきた人は少なく、紹介状を手に持って、自身で依頼をしてきた人もいた。
著者も触れていたが、「見捨てられ感」を持って、この専門病院を離れてきた患者さんも少なくはないと、私は感じている。
大規模な病院ゆえの悩みだとは思うが、可能な限り「網」を張って、患者さんを一人きりにしないように働きかけて欲しいと、切に願う。
(がんセンターでも、外来受診にソーシャルワーカーなどが同席するなどのサポートを実施しているとのこと)

大規模な病院こそ、「網」はソーシャルワーカーになるのだと思う。いかに院内に存在をしらしめていくのか、おそらくこれも、大きなテーマなんだろうと思う。

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ホスピスケアにおけるソーシャルワーカーの存在価値と役割 関根真希子(2001)

2008-09-02 18:13:22 | 社会福祉学
『医療社会福祉研究』Vol.10 No.1 2001.12

主に、聖クリストファーズ・ホスピス(イギリス?)でのインタビュー調査や、著者自身の実践を踏まえて論じている。
ホスピスケアの先駆的な存在である、聖クリストファーズ・ホスピスでの実践内容が詳細に紹介されており、ある意味「理想的なもの」は何か?が分かる。そこでのソーシャルワーカーの立場、役割も明確に存在しており、学ぶべきことが多い。
ホスピスケアの理念や価値、目的や展開方法は、ソーシャルワークの定義や価値、援助の原則と多くの点で共通点を持っていると指摘。ソーシャルワーカーの定義や倫理綱領と照合し、立証している。

引用
①病院治療が患者の退院(=死)によって完結するのに対し、患者亡き後も家族が自立して生活できるようになるまで援助が続けられる。このことは、ホスピスケアの大きな特徴である。
②(聖クリストファーズ・ホスピスでは)家族や遺族へのケアやサービスは、ソーシャルワーカーが中心となって行っている。ソーシャルワーカーは、患者や家族/遺族の住む地域を念頭に入れ、彼らが地域の一員として快適に過ごせるようにあらゆる援助を行っている。
③全人的視野に立ち、生活の場を基本とし、地域の中で患者を家族から切り離さず、家庭の延長としてケアを行う場合、ソーシャルワーカーの役割は、非常に重要となる。


7年前の論文であるが、未だに真新しさというか…「こうであって欲しい」と感じてしまうのは、ホスピスケアでのソーシャルワーカーの実践が十分に浸透してない表れであろうか。

引用について…地域であってこそ、ホスピスケアだからこそ、ソーシャルワーカーの存在価値があることを、痛いほど感じた。しかし私自身の実践では、そこまで深くは介入できていなかったのが現状であった。自分自身の技術面が大きな理由であるが、その技術をいかに習得し、実践に結び付けていくかという教育が、ここ数年でようやく始まったということも一つであると思う。
ソーシャルワーカーは自身の専門性を現場に浸透させ、存在価値をいかに植えつけていくかが、いつの時代も「使命」になっていると思う。在宅でのホスピスケアも、例外ではない。
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患者・家族と医療者の溝にあるもの、その越え方 林里都子(2008)

2008-09-01 22:15:46 | その他
『緩和ケア Vol.18 No.1 JAN.2008』

福井県内の病院で実践されている、医療メディエーションの紹介。
メディエーションとは、「対立する2人以上の当事者がいる場合に、中立者(GRM)としてのメディエーターが当事者を援助しエンパワーすることで話し合いを促進し合意形成、葛藤の乗り越えへと至らせる仕組み」。

これまで「苦情」「クレーム」として扱われていた事案について、現場で直接クレームを受けた者では解決できなかった事案について、GRMに依頼が入り、当事者同士の面接のコーディネートをするとのこと。

「クレーム」とされてきたもののなかでは、実際の面接をしていく中で、互いの考え方や感じ方の隔たり、食い違いが根本にあり、「言った、言わない」を放置した結果、「クレーム」として患者側に根強く残ってしまったものもあったとのこと。
このような「溝」を超えるには、「きちんと向き合う」「話をする・話を聴く」ことがポイントである…と指摘している。


追記
医療メディエーターとは「医療対話促進者」とも訳される。医療機関従事者を対象とした研修を受け、認定を受ければその職に就けるようだ。
この論文の著者である林さんは、看護職出身の様子。

 医療の領域に、また新しい職種が参入していることに驚いた。医療メディエーターの面接に際しての姿勢や、医療者と患者との間の「立ち位置」について読むと、それはソーシャルワーカーととても近い印象を受けた。
しかし医療メディエーターは、最終的に訴訟につながる可能性があるという事案にも対処しており、「院内の危機管理」に大きな役割を果たしているようだ。
様々な職種が存在しているからこそ、自身の専門性をきちんと認識しなければ、生き抜けないかもしれない
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