社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

「介護福祉施設等の介護支援機器導入に関する促進要因と阻害要因-介護福祉職員へのインタビュー調査」高野晃伸、名倉弘美、他(2021)

2023-01-27 11:49:47 | 社会福祉学

『人間福祉学会誌』 第20巻

 

介護福祉現場における介護支援機器について、その導入の促進要因・阻害要因を明らかにするため、インタビュー調査を実施し、

結果をまとめている。国が導入を推奨する目的と、施設や職員が介護支援機器に求める役割に違いがあることが確認できた。

 

引用

・本研究における介護支援機器の定義:厚生労働省が示している介護ロボットの定義(中略)を参考に、そこに移乗支援系を加えた 4つ

                 (A:移乗リフト、B:スライディングシート・ボード、C:見守りセンサー、D:重量センサー)に

                  分類。また「介護ロボット」を含む、利用者の自立支援や介護者の負担軽減につながる介護機器も

                  対象。

・本来、介護福祉現場での業務はサービス業であるため、生産性や効率性を重視するのでは無く、ホスピタリティを最も大切にする場所のはず

 である。介護保険導入やユニットケアの推奨などにより、個別性を尊重した生活支援の考えが浸透しつつあるが、多くの現場では、限られ

 た時間や職員数の中で業務をこなす状況となり、その結果、「おむつ交換が早く行える」「限られた時間の中で一人でも多くの人が入浴でき

 る」など、素早さや効率化が優先されている状況が根強いと思われる。

・(調査結果より)介護支援機器導入を促進する要因は《職員の課題改善》《事故防止》などが多いことから、介護福祉職員の業務に焦点が

  置かれて割合が高いといえる。(中略)。導入の阻害している要因として《非効率》《金銭的理由》が挙げられている。

 

私が20数年前に障害者施設で介護をしていた時は、移乗リフトがトイレ、共有スペースなどに置かれており、使用することに抵抗はなかった。

そして入居されていた方も、抵抗なく受け入れていたように思う。「よっこらしょ」という言葉ではなく、他愛のない話をしながら、車いすから

便座に移ったり、車いすからベットに移ったり、目線が変わる瞬間に窓の外を一緒に見ながら「雨だね」とか「日差しがまぶしい」とか、そう

いった言葉があったと記憶している。

しかし一方で、すべての入居者に使うものではないから、使わない時の置き場所や、いざ使うときに適切な場所に運んでくるときの

手間を考えると、結局無いものとして介助した方が楽…これも率直な意見であろう。

 

介護支援機器の本来の目的はそうではないのかもしれないが、介護職に健康な身体で長く従事してもらうための策として、

よりよく活用してもらいたいと願う。

 

 

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「医療的ケアを必要とする子どもへの保育実践の機能-認可保育園でのフィールドワークによる探索的研究-」二宮祐子(2021)

2023-01-24 12:09:30 | その他

『子ども家庭福祉学』21巻

医療的ケア児を受け入れ、実践をしている認可保育園での実践について、研究者が短期間ではあるが参与観察をし、

さらに保育者にインタビューをすることでその実践内容をまとめている。

インタビュー内容は、保育士の思いが率直に、丁寧に取り上げられており、研究論文でありながらも、あたたかい気持ちにさせられた。

 

引用

・(医療的ケア児が増加する現状を踏まえ)今後は、これまで希望するサービスが受けられなかったり、

 サービスの申請そのものをあきらめたりしてきた潜在的ニーズが顕在化することが予想される。

 目下のところ、受入体制の整備に関心がむけられがちではあるものの、やがては、保育の内容そのものが問われるようになるであろう。

・医療的ケア児の育ちに寄与する保育所保育の専門的機能として、6つのカテゴリが明らかにされた。

  ⇒様々な感情の経験・仲間関係の形成・試行錯誤の促進・自己主張と自己抑制の促進・様々な職員との相互作用・様々な子どもとの相互作用

・<インタビュー調査回答より>(医療的ケア児にせよ,周りの子どもにせよ)子どもって、相手のことがよく分からないときは、

 どんどん押していく傾向があって、相手が迷惑がっていることもあまり分からずにグイグイ押してしまう。その時、「イヤ」って言うこと

 が自分の思いを表に出すチャンスになる。(エピソード略)お世話してくれる大人との関係だと心地よいことをしてもらえるだろうけど、

 相手が子どもの時はそういうことばかりじゃなくて。そういうときに素直に「イヤ」って言えることは、子ども同士の関係のなかで(学ぶもの

 として)大きいですね。

・(調査結果を踏まえた考察において)「個別的な配慮」のあり方について考察した結果、〈絶対的な配慮事項〉と〈裁量的な配慮事項〉の

 両方に目配りしながら対応しなければならないという難しさがあることが示された。

 *絶対的な配慮事項:医師から指示書など生命の保持に必要なこと、裁量的な配慮事項:保育者の個人的判断で行われること

 

子どもにとって居心地の良い環境とは?と考えたとき、「自分のことが最優先されて、否定されないところ。」とは限らないということを

この論文を通して思わされた(生命の維持は最優先ということは言うまでもなく)。

子どもの感覚はとても鋭くて、遠慮がない。それをうまく生かし、相互作用に導いていけるなんて、保育士はすごいな~とただただ感動した。

決して高待遇ではない保育士に対し、医療的ケア児が増加していく状況を踏まえると、あらたな専門性が求められていくのは容易に想像できる。

そこをどのように支えていくのか、議論が必要となっていると考える。

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『療育者の困難感に関する研究 ―「子どもの療育をする上で困難に感じていること」への自由記述回答からの分析 ― 』横畑泰希・板川知央(2019)

2023-01-23 11:33:09 | 社会福祉学

『未来の保育と教育-東京未来大学保育・教職センター紀要』第6号

 

児童発達支援に従事する療育者が抱える困難について、自由記述方式の調査で明らかにしている。

人材不足が困難さを生んでいるという単調な展開ではなく、じっくりと現場の声に耳を傾け、問題点と課題を分かりやすく提示している。

 

引用

○(回答内容より抜粋)

 ・日頃から、発達障がいとはなにかについて考えていますが、自分の中で答えが出ません。

 ・同じ事業所の人間でも、療育を専門に長期にわたり行っているものがいないため、相談しても不安が常に付きまとう。

 ・時間的にも余裕がない為、勉強する時間も限られている。療育がマンネリ化していても、余裕のなさから、そこから抜け出しにくい。

 ・障害特性による心ない言葉の言い合いからの利用者同士のトラブル(に対する対応が難しい*管理者追記)

 

○調査結果より、困難感は3層構造として考えられる。(そういった中で)一つのタームが療育者の困難感の本態を表すものとして浮かび上がっ

 てくる。それは「混乱」である。

 第1層:表層 現実的問題としての困難感(子どもとの関わりに対して困っていること)

 第2層:中間層 中核的問題としての困難感(療育者を取り巻く環境の問題)

 第3層:深層 基底的問題としての困難感(自分問題)

 

 本論文で提示されている3層構造の困難感は、それだけの支援(サポート)を療育者側も必要としている、ということに繋がるのだと思う。

自身の感情や価値観といったデリケートな部分をある意味さらけ出し、技術として提供している部分もある。

それゆえに、受け入れられなかったり、つまづいた時には、そこへのサポート(スーパービジョンを含む)が繰り返し行われる必要があるのだ

と思う。しかしながら現状としては、スーパービジョンの機会は事業所や個人の努力(金銭面も含めて)にゆだねられており、

そこまでの教育の確保はなされていない。そこを無視して人材の育成や確保はできないのに、どうして手が行き届かないのだと、

歯がゆさを感じる。福祉の現場はどの領域に対しても、あと2歩、3歩以上の公的な後ろ盾が欲しいと感じた。

 

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「意思疎通のとりづらい終末期がん患者に関わる家族の行動とその支援の検討ー医療者と遺族の視点からー」長谷川素子、吉田沙蘭(2022)

2023-01-21 13:34:15 | 心理学

『Palliative Care Research』2022年17巻3号

 

意思疎通のとりづらい終末期がん患者に対する家族の関わり行動とその支援について、

双方に対する半構造化インタビューを通して明らかにしている。

本研究における「意思疎通のとりづらい終末期がん患者」の定義:せん妄や傾眠、倦怠感や疼痛等により患者の意思を家族が読み取りづらい状態

 

引用

・意思疎通のとりづらい終末期がん患者に対して家族が行う関わり行動…3つの大カテゴリーに分類できた

  従来の患者に対する関わりの継続、患者の安心・安楽への働きかけ、患者の思いを推測する行動

・意思疎通のとりづらい終末期がん患者に対応する家族に対して医療者が提供する支援…9つの大カテゴリーに分類できた

  家族からの情報収集(例:家族の理解や受け止めを聞く)、家族への説明、家族への感情的なサポート、関わり方の提案、

  関わり方の提案を伝える工夫、関わりにおける家族に必要な情報の補足(例:患者の気持ちを家族に伝える)、

  関わりに対する家族へのフィードバック、患者と家族に対する医療者の態度の見直し(例:家族の意向を尊重した態度を取る)、

  多職種連携

 

 本論文は、終末期にあるがん患者とその家族を対象としているものであるが、重度の認知症者とその家族にも当てはまる部分が多い、

と感じた。どのステージ(場面)のおいても、利用者(患者)中心の働きかけが支援の柱にあると思うが、意思表示が困難な方に対しては、

より丁寧に扱われるのだと思う。支援者が患者の気持ちを(時には推測を含めて)家族に伝えるという行為は、それまでの関係性や

支援期間の長短に大きく影響するであろう。間違った一言や、適切ではない一言で、傷つき、後退する家族(遺族)も存在する。

そういった慎重さも決して忘れてはいけないと、強く思う。

  

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「ふれあいの先に見えたもの~子どもが高齢者の心を動かした!~」宮脇真美、谷尾美貴恵、山名紀子『鳥取県社協HP』より

2023-01-15 09:45:58 | 社会福祉学

幼老複合施設における、子どもと高齢者のふれあい交流の実践報告。

具体的な交流内容とその効果について分かりやすくまとめてあり、現場での取り組みの参考になる。

 

引用

・アンケート調査より。保育士と介護士はともに、交流自体は肯定的にとらえているが、目指す「交流の形」がうまく共有できていないことが分かった。⇒「自然なふれあいを目指す」ことを確認

・具体的な取り組み⇒おやつの共食、おやつ後のお楽しみ(ジェンガ・トランプ・将棋など)/お昼寝トントン(高齢者による未満児の寝かしつけ)/郵便ごっこ遊び(感染症流行時)

 

保育園児が近隣の高齢者施設に訪問し、歌や劇を披露する。こういった取り組みは広く行われているが、コロナ禍で中断している地域も多いであろう。感染症対策、生活リズムの違いなど、高齢者と子どもとの交流には気を遣うことが多く、望ましいことは理解していても、実践に踏み切ることは難しいのが現状である。それでもなお、異年齢交流はやはり、楽しいし、メリットが多い!ということを教えてくれる。そんなとても暖かい実践報告だと感じた。

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「アクティブシニア介護助手雇用の効果と課題」佐伯久美子、人見優子、山口由美(2022)

2023-01-09 13:22:44 | 社会福祉学

副題:A県介護老人福祉施設の介護長を対象としたインタビュー調査を通して 『介護福祉士』(2022.3)No.27

アクティブシニア介護助手雇用の効果と課題について、インタビュー調査を実施し、分析。分析方法としては、テキストマイニング分析を使用している。この分析結果を踏まえ、今後の方向性を明らかにしている。

*管理者注釈:テキストマイニング分析とは?(日経リサーチより引用)

 テキストマイニングとは、文章を定量的に扱うための分析手法であり、アンケートの自由記述や、コールセンターへの問い合わせ内容、TwitterなどSNSでのクチコミ分析といった分野で活用されている。

 

引用

・アクティブシニア=定年後の元気な高齢者

・アクティブ介護助手の雇用は、多様な人材確保・育成の一つとして、また介護予防や働く機会の提供といった目的で進められている。

・アクティブシニア介護助手を雇用することによる効果と課題(管理者が一部中略、まとめ)

 ①アクティブシニア介護助手は、身体的な感覚が利用者に近く老いへ共感し、若い世代の職員にその感覚を伝えたこと。逆に年齢が利用者に近いが故に、専門的態度の課題があげられた。②多世代の職員による家族に近い関係が発生し、施設が家庭的な環境へと変化した。

・分業の効果を得るためには、介護職員とアクティブシニア介護助手の両者が介護の方向性や目的を一致できるような研修が大切になる。

 

介護は嫁の役割とされてきた時代を受けてか、介護職は依然として女性が多い印象を受ける。そして求人広告を見ても、介護助手は「家事の延長」というニュアンスの文句が多いように思う。敷居を下げるための広告であり、悪意はないことは承知している。しかし実際は、人員不足でバタバタと動き回る介護職員の様子をうかがいながら、利用者のコールや訴えにどの程度対応してもよいものか…そんなジレンマを抱えながら就労している人も少なくないと思う。

元気な高齢者が増えている。この現実をうまく活かし、人員不足に充当していこうとする方向性は間違ってはいない。しかしどの職種であってもそうであるが、職員同士が円滑に分業をしていくためには、その潤滑油となるべく、コーディネーター役が必要である。それが介護の長なのか、事務の長なのか、用務営繕の長なのか。それによっても、長期的に働くことを希望するアクティブシニア介護助手を増やすことにもつながると考えている。

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「障害者差別解消法とバリアフリー・ユニバーサルデザイン」飯塚潤一、福井恵(2018)

2023-01-04 10:23:50 | その他

副題:できるところから始める障害学生・教職員支援『大学図書館研究』108号

障害者差別解消法施行に伴い、大学図書館にもその順守義務が生じた。具体的にどのような取り組みが求められ、そして実現可能なのかを大学図書館の取り組みを通して紹介している。法律の説明を丁寧にし、それを読み解きながら実践に落とし込める方法を提示しているため、HOW TO本としても活用できる印象を受けた。

 

引用

・図書館利用に制限があるものは誰か(中略)

 ①入館する、②本を探す、③OPACで蔵書・文献検索、④書棚から書籍を選ぶ、⑤(閲覧席で)本を読む/学習室で勉強する/PCを利用する/AVブースでDVD等を視聴する、⑥本やAV教材等を借りる、⑦図書館司書に相談する、⑧退館する、などのアクセスに対して、相当な制限を受ける状態にある者

・(障壁を減らす取り組みに対して)事業者の人員・財政状況等を踏まえて…

 「当事者を交えて」

 「できることからすぐに始める」

 

 図書館利用というと、段差解消や利用機器の制限というところまでは思いつくが、手に取る情報量にも差が出てくるというところまでは、リアルなものとしての発想が及ばなかった。

 ハード面の解消のみでは解決しにくく、すべての人にとって、まったく障壁のない環境というのは存在しないであろう。だからこそ、人的サービスでカバーできるもの(他機関連携を含む)を活用し、その障壁を少しでも減らしていくことが必要なのだと感じた。

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