社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

「2009年度学界回顧と展望 保健・医療分野」黒田研二(2010)

2010-12-27 10:23:08 | 社会福祉学
『社会福祉学』第51巻第3号

政権交代によって影響をもたらした保健・医療施策を軸に、「高齢者医療制度、医療保険制度」「医療供給体制をめぐって」「地域連携と医療ソーシャルワーカー」「介護保険制度と地域包括ケア」「介護予防を巡る議論」「精神保健・医療・福祉の改革」「障害者制度改革と精神医療の行方」の7項目分けて論じている。

引用
先行研究を引用して⇒
・「医療経済研究機構」(2007)の調査によると、病院における「退院準備・在宅ケア移行支援活動」の実施で最も多くの役割を担っているのは医療ソーシャルワーカーである。利用可能な社会資源・制度の探索・交渉・情報提供に、ソーシャルワーカーが関与する病院は9割ほどを占め、具体的なサービスの紹介や転院先との交渉、家族関係の調整などにも幅広く関わっていた。

・MSWの業務実績の向上には、病院システムのなかで理解を得るとともに、業務遂行上の裁量の幅を広げることが有効だと考えられる。


 医療ソーシャルワーカーの専門性をどのように確立し、どの業務内容を開発していくか…これは長年のテーマであろう。より高い専門性を習得するため、そして専門性の特化をはかるため、「認定社会福祉士」の創設が見込まれている。医療ソーシャルワーカーの職能団体も、その流れを受け、カリキュラムの作成に着手している。

 養成機関のみならず、現場に出てからも継続的な教育の場を提供していくことは、専門性を維持・向上していくためには必要不可欠である。何をソーシャルワーカーの専門性とするのか。「あれも。これも。」と盛り込み過ぎると、かえって混乱を招くことにもなる。的を絞った、そして現場に即した教育の場を提供し、そして活用していくことが、専門職としても使命でもあると考える。


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『緩和ケアで注目を集める「グリーフケア」とは何か』Care Net.comインタビューより…岩本喜久子

2010-12-24 20:57:52 | 社会福祉学
医療情報専門サイトからの引用。
米国でグリーフケアのトレーニングを受け、現在は札幌医科大学病院で実践及び研究をされている岩本氏へのインタビュー。
グリーフケアについて、グリーフケアにおけるソーシャルワーカーの役割について触れている。

引用
・グリーフケアは日常生活のリハビリ⇒悲しみに押しつぶされないで生活できるようになる。これが1つのリハビリ作業ではないかと思って、グリーフケアというより「リハビリ作業」と説明することがあります。

・アメリカの場合は、家族のケア、患者本人の心理的アセスメントなどを行うために、ソーシャルワーカーが各病棟に必ず配置されていて、その給与は医療保険のメディケアから出ています。また、医療従事者自身も、患者本人・家族の精神的な健康に喪失がいかに影響しているか、すごく理解しています。だからこそ、政府がソーシャルワーカーに支援しているのだと思います。

・(グリーフケアにおいて)私はソーシャルワーカーなので、役割的にもカウンセリングはしません。私は、その人の力を引き出すお手伝いだけをさせていただきたい。人それぞれが持っている潜在的な回復力、レジリエンスを信じて、それを引き出すこと。それがソーシャルワーカーの本来の役割だ、と思っています。



役割と業務内容、そして援助方法…これらの違いを整理し、グリーフケアにおけるソーシャルワーカーとは?を今一度理解しなおす必要があると痛感した。
ソーシャルワーカーのみならず、グリーフケアを実践に取り入れようとするひとたちは、「カウンセリング」を強調しているような節がある。それを提供できるからこそ「専門家」だという意見もある。
しかし岩本氏や「ソーシャルワーカーだからこそ行わない」と断言されている。これは職種毎の役割が整理され、各々の専門性が確立しているアメリカで教育、実践をされてきたからこその言葉であると感じた。

「ソーシャルワーカーだからこそ!」と声を上げ続けることで、日本においてもその必要性が浸透していくよう、邁進しなければいけないと感じた。
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「大切な人を亡くした子どもたちを支える 35の方法」 ダギーセンター (日本語版)2005

2010-12-22 11:05:12 | その他
言わずと知れた、全米遺児遺族のためのグリーフサポートセンターからの出版物。
その取り組みの中で得られた、子どもの悲嘆作業を支援する方法について紹介されている。
ちょっとした事例も提示されており、どういう状況で、どのような反応が出るのか。そしてその時に、大人(専門家も含む)はどのように対応すべきかについて述べられている。
グリーフケアを実践する方にとっては、必須の書物であろう。

引用
「正直でいよう。子どもに決してうそをつかないで」…おとなは子どもを守りたいと思うので、つらいことを話すのは大変難しいことです。しかし理解しにくい話を子どもに話すことはおとなとしての「責任」のひとつです。

「亡くなった人について話す機会を積極的につくろう」…亡くなった人を思い出すことは傷ついた心を癒すために大切な過程です。思い出す、ということは単純になくなった人についての話をすることです。(中略)亡くなった人の名前を口にすることは、その人に対する感情を分かちあってもらってもいいのだと子どもたちに伝えるひとつの方法です。亡くなった人について話すことはタブーではないと子どもたちに伝えることになります。

「健康に注意し、規則正しく食事をし、水を充分飲むように促そう」…深く悲しむことは、精神的に参ってしまうだけではなく、体力をも消耗してしまいます子どももおとなも深く悲しむグリーフの過程で体力的にも精神的にもエネルギーを出し切って、脱水状態になります。

「子どもに必要な助けを積極的に探そう」…軽いうつ状態、不安、行動上の問題といったことは、身近な人の死を経験したあとの子どもにはよくあることです。(中略)以下のようなサインが続き、日常生活に影響があれば、医療機関やカウンセラーに見てもらうべきでしょう。
・健康的な生活の妨げになるほど、ひどく落ち込みいらいらする
・何事にも興味や喜びがなくなる
・悲しみで眠れない
・食欲が増す、あるいは減退する
・頭痛、胃痛、その他の身体的症状
・倦怠感やエネルギーがなくなる
・死についてばかり考えたり、誰かの死を望んだり、自殺についての話をする
・集中できない
・社会からの引きこもり
とくに死を経験したあと6カ月くらいの深い悲しみのなかにある間は、一見うつのように周囲から見えたり感じられたりするのだ、ということを覚えておいてください。

「限度やルールを定め、子どもたちに守らせよう」…深く悲しんでいる子どもにとっては日常生活において、限度やルールを決めることは助けになります。(中略)不安定な時期に安定感をもたらすことが大切だ、ということです。



大きくうなずく部分や、「そういう弊害もあるのだ」と考えさせられる部分など、大切なエッセンスを知ることができた。
問題は、これをいかに業務に組み込んでいくかだ。
遺族ケアが未だに一般的ではない日本では、医療機関や社会福祉施設(機関)において、患者/利用者が生存している間からの延長として、家族支援のひとつとして、遺族へのグリーフケアは十分に行われていない。

多くのひとが適切な時期に、適切なケアを受けれるためには、受け皿を広げるしかないのだが…。


大切な人を亡くした子どもたちを支える35の方法
ダギーセンター
梨の木舎




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「死別から共存への心理学 スピリチュアル・ペインとケア・カウンセリング」品川博二・赤水誓子(2005)

2010-12-15 10:37:54 | 心理学
 臨床心理士による書物。
ケア・カウンセリングという観点から、遺された人への支援について紹介している。学術的な論点よりも、筆者自身が実践で学び得たものを、論として組み立て紹介している印象が強い。

引用
「ケア・カウンセリング」とは?…看護者・介護者らをはじめ広くケアリングの臨床に携わる者が、援助者・被援助者の両者に「肯定的で相互的な人間関係」を構築するために活用するカウンセリングの理論と技術である。

スピリチュアル・ペインとは?…「今、ここで」のリアルな関係のなかでこの「相手の痛み」を感じ取ることである。(中略)相手を推論や分析で対象化し、能動的に把握することではない。それは受動的な「訪れ」としか言いようのない、自己の内側から沸き起こるパッション(苦痛)である。肉体によって分けられる自他の境界を超えて、「相手の痛み」が「我が痛み」として融合的に感知される、この関係的な体験様式をスピリチュアルと表現しているのである。

故人と残された方々との、「生と死を越えた関わり」の再構築に向かって、グリーフ・ワークは実践されるのである。



スピリチュアルペインは、未だ定義が確立されていないという状況のなかで、多方面の領域からの議論は大変意義深いと考える。臨床心理士である筆者は、スピリチュアルペインは、ひとが相手の痛みを感じることによって初めて生じるものだ、と説いている。これは私にとってはとても新鮮な考え方である一方、咀嚼しきれない解釈でもある。

ひとは一人では生きておらず、親族や近隣のひと、そして援助者と呼ばれる社会資源とともに生活をしている。しかし例えば、そのひとが長く単身生活をしていて、実は生き別れた子供がいたとして、「最期に会いたい」と切望している…でも会えない状況にある。これが私の理解では、すでにスピリチュアルペインになるのだが、筆者の解釈に照合すると、「こどもが生き別れた親を憎んでいる。もしくは会いたいと思っている。と、死にゆくひとが感じ取っている」ところまでいくとスピリチュアルペインになるようだ。

スピリチュアルは、やはり奥深い…。


死別から共存への心理学―スピリチュアル・ペインとケア・カウンセリング
品川 博二,赤水 誓子
関西看護出版


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「緩和医療 痛みの理解から心のケアまで」小川節郎ら(2010)東京大学出版会

2010-12-08 15:30:21 | 医学
 主に「がん」を対象とした「痛み」痛みについて概説している。執筆者は全員医師であるため、特に身体的な痛みの緩和、使われている薬の説明については詳しい。

引用
スピリチュアルな苦痛の表現(参考文献からの引用「恒藤暁、岡本禎晃 『臨床緩和医薬学』p16-21、日本緩和医療薬学会編」(2008))
①不公平感「なぜ私が?」
②軽価値観「家族や他人の負担になりたくない」
③絶望感「そんなことをしても意味がない」
④罪責感「ばちが当たった」
⑤孤独感「誰も私のことを本当には分かってくれない」
⑥脆弱感「私はだめな人間である」
⑦遺棄感「神様も救ってくれない」
⑧刑罰感「正しく人生を送ってきたのに」
⑨困惑感「もし神様がいるのならば、なぜ苦しみが存在するのか」
⑩無意味感「私の人生は無駄だった」

がん患者のストレス-6つのD(参考文献からの引用「筒井末春・監修『がん患者の心身医療』p.16-17、新興医学出版社(1999))
①死(Death)
②家族や医療者への依存(Dependency)
③人生目標の中断(Disability)
④人間関係の途絶(Disruption)
⑤容姿の変貌(Disfigurement)
⑥疼痛などによる不快感(Discomfort)


症状の出現によって様々な痛みが生じるのは、がん患者に限らない。それは本書でも指摘しているように、諸外国では当たり前の認識となっている
日本では現時点で、問題が浮上し、その解決として理論を組み立て、さらに実践で立証する…この焦点が「がん」に定まっているのだと思う。他の疾患、そして疾患や年齢を問わず、痛みを感じている多くの人たちに、きちんとケアが行き届くように、粘り強くそして早急に、取り組んでいかねばならないと痛感する。
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「特別養護老人ホームの看取り介護についての入居時の意向確認に関する研究」鶴若麻理・仙波由加里

2010-12-03 11:06:01 | その他
『生命倫理』Vol.20 No.1 2010.9

 看取り介護を実施している特別養護老人ホームを対象とし、郵送調査を実施。入居時の看取りに関する意向確認の実態を把握。浮かび上がった問題点及び、今後の課題を提示している。

引用
「アドバンス・ケア・プランニング」とは⇒意思決定能力の低下に備えて、当事者が受けたいケアについて医療者や家族と話し合い、あらかじめ意思決定しておくことであり、その対応プロセス全体を指している。

調査結果から…
・入居時の意向確認は高齢者や家族に対して76.2%の施設が実施
・意向確認実施者は、生活相談員、看護職の責任者、介護支援専門員、介護職の責任者など、多職種にわたっている
・入居時に意向が聞けない理由⇒①本人の判断能力がない、②信頼関係がない、③入居時に行う手続きが多いため、④施設における生活のイメージが構築されていないため
・意向を聞きにくい理由⇒①死について語ることへのタブー、②精神的ショックを与えるから、③看取りに関して高齢者、家族とも実感がないから、④施設への期待を損なうから、⑤トラブルになるから、⑥最期は病院搬送が当然との考えがあるから


 実際に看取り介護を実施している施設を対象としているせいか、意向確認の実施率は高い印象を受けた。一方で、未だに「死」に関する教育(当事者、援助者ともに)が不十分がゆえに、意向確認へのとまどいが存在していることを痛感した。
 本人の判断能力如何を問うのであるならば、やはり早期の看取りに関する教育が必要ということであろう。それが要介護認定を受けた時点なのか、定年退職を迎えた時期なのか、はたまた成人となった時なのか。どの時期が最適なのかは分からないが、本論文の著者が指摘しているように、「生」の延長に「死」があるという意識を持ってもらえるよう、まずは援助者が意識を持たねばならないであろう。
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