社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

「在宅重症心身障害児の母親が直面する生活困難の構造と関連要因」中川薫、根津敦夫、穴倉啓子

2009-09-28 16:36:08 | 社会福祉学
『社会福祉学』第50巻第2号 2009

首都圏在住の在宅重度心身障害児の母親に対する調査を通じ、生活困難の構造と関連要因を明らかにしている。
本研究は、障害者自立支援法施行以前の調査であり、今後は施行後の調査を実施することを踏まえ、その比較検討をも前提としている。

引用
①重症児の家族が抱える困難事⇒「専門職とのコミュニケーションの困難」…今日の重症児は医療依存度が高い児が増え、医療専門職との関わりも増え、医療専門職との関係に介護家族が苦心していることがうかがえる。
②介護家族(本研究では母親)が感じる「生活の制限」・・・ただ単なる生活の不便の経験にとどまらず、それが蓄積することによって自己の喪失につながる可能性がある。
③医学的管理の必要性が高い児の家族に、ケアによる心身の負担が高く経験されていることから、医療的ケアをどのようにケアサービスのかなに位置付けるかは今後の重大な問題である。(中略)医療的ケアを家庭で常時必要としている重症児は増加しているが、利用できるケアサービスが非常に不足している。
④専門職のサポートはいずれの生活困難に対しても効果を発揮せず、むしろ専門職や専門機関とのコミュニケーションが困難事として挙げられている。


引用④は、援助する側にとっては「苦しい意見」である。能力の不足か、人材の不足か…そう感じさせてしまう要因は多くあるだろう。
しかし筆者も指摘しているように、医療が進歩しているのだから、それと同じくらいにケアも充実させるべきであり、「医療の進歩=家族の負担・苦悩」だけであってはならない。
小児は在宅福祉の資源が不足していると、多くの実践家が指摘している。「親が育児をするのが当たり前」ではあるが、親の支援をするのも「地域が担う育児」のひとつであろう。
障害児を生むことだけで自分を責める親がいる。それは、そう思わせてしまう社会の雰囲気・風潮…もあるだろう。
ここで、学生時代の恩師の言葉を思い出した。
自分で歩くことができない、多くの人が用いている「ことば」をうまく使いこなせない、そんな「障害」と呼ばれているものが、「目が悪いから眼鏡をしている」のと同じレベルに感じられる社会であって欲しい。


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「Ⅲ.緩和ケアの調査・研究 2.緩和ケアの質評価・実態調査」 宮下光令(2009)

2009-09-25 15:33:31 | 看護学
『ホスピス・緩和ケア白書 2009』

筆者が取り組んでいる研究活動、ならびに、日本におけるホスピス・緩和ケアに関する研究動向を概観。

数の把握を目的とした実態調査にとどまらず、従事者の自己評価尺度の開発や、緩和ケアの質を評価するための尺度が紹介されており、とても読み応えがある。

「質の評価=何を求められ、整備が必要か?」という点から見れば、実践者たちの指標にもなりうる。


調査方法は多様である…ということを実感させられた。患者対象、遺族対象、従事者対象。そしてその結果から何を生み出し、それは社会にどのように貢献すうるのか…。きっと、このような視点を持ち続けていなければ、研究の意味は皆無であろう。




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「在宅ターミナルケアを支える訪問看護実践の一考察-事例に見られる在宅ターミナルケアの諸相と看護-

2009-09-11 21:34:07 | 看護学
西浦郁恵,能川ケイ,服部素子,井田通子『神戸市看護大学短期大学部紀要』第23号 2004.3

*諸相…いろいろのすがた、様子(「広辞苑」より)

1事例について、じっくりと経過を整理、分析し、訪問看護の関わりかたを考察。自身の実践は、理論に即していたことを結論としてまとめている。

「援助者として心にとめておかねばならない大切なことは、どんなに頑張っても決して苦しんでいる療養者と家族の立場に立てないことである」
 ⇒「寄り添いたい」「状況を知りたい/声を聞きたい」と思うことが大切で、容易に「理解している」と勘違いしないことこそが、援助の根本にあるべきであろう。


研究期間は平成15年6月~12月であるとのこと。おそらくこういった1事例1事例の実践と研究の積み重ねが、現在の在宅ターミナルケア及び訪問看護の実践を作り上げたのだと思う。
いまでこそ、その結論に「目新しさ」を感じない論文となっているが、当時はとても先駆的で、試行錯誤を繰り返す実践者たちの指標になっていたのだと思う。
「訪問看護って何だろう」と悩む看護学生さんや、「看護師さんの役割って何だろう」と感じているコメディカルのスタッフに、答えを導いてくれる分かりやすい論文であると感じた。



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「ケア期間からみた在宅ホスピスケアの問題-短期間(7日以内)で終了する末期がん患者の在宅ケア-」

2009-09-03 09:00:43 | 医学
川越厚、松浦志のぶ、染谷康子、大金ひろみ
『癌と化学療法』35,December,2008

第19回日本在宅医療学会学術集会での報告でもある。

川越氏の実践現場である「パリアン」における、短期間(7日以内)のがん患者と14日以上のがん患者の支援方法を比較検討している。
訪問看護の視点から、訪問頻度や緊急電話の頻度を分析し、「計画的な訪問看護(通常訪問看護)を適切に行えば、訪問看護師が緊急対応しなければならない頻度は低くなり、看護師へかかる負担を軽減することができる」という結論を導き出した。


引用
在宅ホスピスケアは通常、経時的に「開始期」「安定期」「終末期」に分類される。
「開始期」→病院から自宅への移行に伴う不安
「終末期」→死を前にした不安

診療所に在宅ホスピスケアの依頼が入った時点での、患者の療養場所による違い
→在宅で療養…開始期が終了している
 病院で療養…死亡までの1週間以内に開始期と終了期を同時に経験しなければならない


経験では分かっていても、それは理にかなっているのか?と感じることは多くある。筆者も述べているように、この論文は「臨床的な経験知は、エビデンスに基づいているのだろうか」を裏付けする論文である。それゆえに、「ハッ」とするような新しい発見は少ないが、自身の実践を後押ししてくれるような、そんな勇気が湧く論文であると感じた。

患者の新規依頼時に、患者が療養している場所によって、支援方法が異なってくる…という結論はとても重要である。
医療サービスの導入と同時に、介護体制をも構築しなければならないケースこそ、ソーシャルワーカーの果たす役割は大きいと感じる。
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