社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

「わが国のがん医療現場の心理士による研究の展望」 兒玉憲一、栗田智未、品川由佳、中岡千幸

2010-06-13 04:49:47 | 心理学
『広島大学大学院心理臨床教育研究センター紀要』第7巻 2008

がん医療の現場で働く心理士(臨床心理士、心理職)は、どのような研究をどのような目的や方法で行っているか…について研究している。研究内容についての研究という、おもしろい見方の論文である。

心理士による研究論文のレビューとして捉えれば、他職種にとっても読みやすく、「心理職とはなんぞや?」を知るための手がかりとなる。

2008年末現在、がん医療に携わっている心理士は全国で300名以上と予測されている。

引用
「エンドオブライフケアにおいて、心理学的介入が必要な時期」
①発症前 ②病気の診断と治療開始 ③病気の進行と死にゆく過程 ④患者の死と離別

「心理学者の主な業務」
①心理学的アセスメント ②患者・家族のための心理学的介入 ③医療チームメンバーのコンサルテーション及びサポート ④グリーフセラピー ⑤研修プログラムの開発と評価


筆者も指摘しているが、どの職種も患者・家族の「心理的サポート」には興味を持ち、また担っていると認識している。それゆえに、「心理職」と名乗り専門特化していくには、相当なスキルと知識が求められるであろう。ソーシャルワーカー同様、専門性を見出し、位置づけていくことの難しさを感じた。

また前回紹介した佐藤氏の論文に、看取りを経験した職員への支援の必要性が指摘されていた。職員へのサポートは、間接的ではあるが、質の高いサービス提供に貢献できると言えよう。この部分での心理士さんの本領発揮を期待できれば、嬉しい。


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「終末期ケアにおける医療ソーシャルワーカーの役割と課題」片岡靖子

2010-06-10 11:27:10 | 社会福祉学
『九州保健福祉大学研究紀要』(8)2007

医療ソーシャルワーカーの配置がない医療機関に勤務する、医療スタッフへのフォーカストグループインタビューの調査結果を報告している。
さらに先行研究と照合し、医療福祉問題を整理した上で、どのようにソーシャルワーカーが貢献できるかを提案している。

本研究での「終末期ケア」の定義
「何らかの傷病により回復の見込みがなくなった患者や家族を対象とし、生から死へと移行する過程において生じる精神的、身体的、社会的、霊的な諸問題への対応を援助していく過程」


アメリカのホスピスケア(Rusnackら)
「患者本人にとっての代弁者、カウンセラー、教育者、擁護者、支持者、調停者、協働者」

調査結果から⇒・死の受容に対する心理社会的援助について、医療ソーシャルワーカーに介入して欲しい…(先行研究と照合:誰にどのように告げるのかといったことを判断するための情報収集や調整を医療ソーシャルワーカーに期待している)


ソーシャルワーカーの配置がない機関へのインタビュー調査は、珍しいと思う。それゆえに、ソーシャルワーカーへの理解が十分でなかったり、「これはソーシャルワーカーがいたら解決するのに」といった項目が、機関が抱えている問題として回答されていた。こういった声がもっともっと出てくれば、ソーシャルワーカーの存在価値が明白になるのに…と感じた。








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「ソーシャルワークにおける終末期ケアの意義」佐藤繭美(2009)

2010-06-08 20:10:18 | 社会福祉学
副題:介護老人福祉施設及び知的障害者施設職員の終末期ケアに関する意識の比較検討

『現代福祉研究』第9号(2009.3)(法政大学)

介護老人福祉施設(516カ所)と知的障害者入所更生施設(547カ所)に勤務する相談援助職を対象としたアンケート調査。
2つの施設で実施されている(意識されている)「終末期ケア」についての相違を比較検討している。

「生活の場」として浸透し、対象者の年齢からも「死」が当たりまえのように存在している(認識されている)高齢者施設と、「訓練」「教育」という点から出発した知的障害者更生施設では、その捉え方に大きな違いがある。
同じ相談援助職といえど、その「場」によって捉え方が異なる。そこから発生する問題点、今後の課題等、分かりやすく指摘している。

この研究での「終末期ケア」の定義
「死の看取り」と同義語。回復の見込みがない病と宣告された時から6ヶ月程度をさし、死亡場所が施設以外の場合も含む。

調査結果(一部)
入所者を看取った経験がある⇒高齢者施設…91.5%(うち遺族ケアの実施35%)、知的障害者施設…73.9%(遺族ケア36.7%)

終末期への話し合い(対本人・家族)⇒話し合いをしている高齢者施設…約90%、全くしていない知的障害者施設…約40%

高齢者施設の80%以上が「終末期ケアの教育を希望」し、約90%が「看取り後の職員へのフォローを希望」している。

引用(p.16)「ソーシャルワークの固有性や専門性が問われているいま、社会福祉分野では終末期ケアにいかにして貢献できるかを検討する必要がある」


「終末期ケア」の定義を「回復の見込みがない病と宣告された時から6ヶ月程度」としたのは、おそらく施設職員を対象とし、対象者が回答しやすいような「操作」が必要であったからかもしれない。
そう仮定した上で…高齢者施設には、「終の棲み家」だと「覚悟」して入所される方もいる。そういう方にとっては、一瞬一瞬が「終末期」であり、「やりたいことを実現し、やり残しがないように整理していく」時期であると思う。
施設という組織のなかで、入所者ひとりひとりの「やりたいこと」を実現していくことは、容易ではない。
そしてまた筆者も指摘していたが、「終末期ケア」を医療分野に委ねるのではなく社会福祉分野でも、徹底的に考えていかねばならないと思う。
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「高齢者を対象とした在宅ターミナルケアにおける介護支援専門員の役割」

2010-06-06 07:13:02 | 社会福祉学
堂園裕美、岡田進一、白澤政和 『生活科学研究誌』Vol.6(2007)

在宅ターミナルケアの支援を経験したことのある介護支援専門員3名に対する、非構造化面接による調査の報告。
高齢者の在宅ターミナルケアには必要不可欠の職種でありながら、これまでは「役割」の具体的な提示に踏み込んだ調査がなかったとのこと。
調査結果では、介護支援専門員の「ことば」「想い」がそのまま書かれており、そこに注目することで、介護支援専門員の実際をも知ることもでき、とても興味深かった。

この論文での「高齢者の在宅ターミナルケア」の定義
死期の近い状態にある高齢者が、原因疾患の有無に関わらず、自宅において身体的状態の安定してい時期から、死の瞬間まで自らの人生を自己決定する自律した生活を維持するための包括的なケアおよびその死後に残された者へのケア」

引用
・「在宅ターミナルケアでは、利用者や家族のニーズを充足することそのものが、人生の幕引きの準備となり、やり残したことへの整理につながる。」
・調査結果から得られた、在宅ターミナルケアにおける介護支援専門員の役割(6つ)
「インテーク」「自己決定支援」「協働」「家族介護者への対応」「物理的環境調整」「ケア全体の評価」


死後に残された者へのケア…をターミナルケアの定義に含みながらも、実際は介護支援専門員各々の裁量(時間のゆとり)に委ねられていることについて、今後の課題としている。
これはもっともなことで、筆者も指摘しているが、その担い手が明確にされていない現状が大きな問題である。
介護報酬や診療報酬が唯一の担い手への経済的な保障の術であり、それが担い手の「時間の確保」につながる。その業を担いたい、もしくは担っている現場の人は多くいるだろう。あとは、それを保障する後押しが必要だと痛感する。




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「英国・子どものホスピスの現状」多田羅竜平(2008)

2010-06-03 19:50:14 | 医学
『週刊医学界新聞』第2778号 2008年4月21日

英国にある子ども専門ホスピスについて紹介。
歴史、制度、課題等、とても分かりやすい論文である。


・1982年 英国オックスフォードに、世界最初の子どものホスピス「ヘレンハウス」が設立される
・イギリスの子どもホスピスは、母体は全て慈善団体であり、運営の95%は寄付でまかなわれている
・対象児童:神経疾患をはじめとした、長期療養を必要とする難病の子どもたち
・入院の目的:レスパイトケアが多い
・「ヘレンハウス」には常勤換算で1.4人のSWが配置されている
・死別後のケア-「ヘレンハウス」では、約半数が継続的なケアを希望し、平均2年程度続けられている


死別後のケアは、平均2年程度続けられている…ということであれば、今の日本で、どのくらいの人が適切なビリーブメントケアを受けられずに苦しんでいるんのか、と切なくなる。
どうすれば、この状況を打破出来るのか…。とても悩む。

*日本では、今年から2012年にかけて、全国で3カ所(北海道、神奈川県、奈良県)の子どものホスピスが開設されるそうだ。もっともっと普及して欲しい。





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「オーストラリアの高齢者緩和ケアの現状と課題」福田裕子(2009)

2010-06-02 10:22:39 | 看護学
『海外社会保障研究』Autumn No.168

オーストラリアにおける高齢者緩和ケアの現状を、主に文献研究によって報告している。
統計として報告されているものは、その年代がマチマチであり、純粋な「現状」とは言い難い印象を受けるが、オーストラリアの取組と、我が国への問題提起については、大変参考になる。

オーストラリアは、誰でも、どこでも、いつでも、緩和ケアが受けれられるように、国家予算を組み、積極的に取り組んでいる。


①オーストラリア保健高齢省が規定する緩和ケア対象
「特定の疾患に限らない。すべての高齢者ならびにその家族と介護者」
②オーストラシリアの高齢者緩和ケア⇒Triangle of care(ケアの三角形)
 急性期病棟、緩和ケア病棟、コミュニティ(在宅、介護施設)
 *各々が役割を明確に持ち、ケアの漏れがないようにシステム化されている
 *急性期病棟、緩和ケア病棟にはSWが配置され、コミュニティ(特に在宅)では、看護師が中心となって連携を図っている様子
 緩和ケア病棟の役割…急性期病棟から在宅移行の際に、調整期間としての入院を受け入れる。家族のレスパイトケアのための入院を受け入れるなど。
③家族ケア…介護給付金の支給、ビリーブメントケアを実施を明確化(地区別で、SWやカウンセラーらが行う)


論文の筆者もコメントしていたが、国家戦略として予算を組み、来るべき高齢社会への対応を真摯に行っている面は、我が国も見習うべきことであろう。
また高齢者に関しては、疾病に限らずに全ての人が緩和ケアの対象となる(他の年齢層については触れられていないため不明)。
適切なケアを提供できるように、スタッフ教育についても、国家予算が組まれている。

羨ましい!という言葉しか出てこない






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「日本における生命倫理の現在」 松井富美雄(2005)

2010-06-01 19:31:07 | 哲学
哲学からみた、生命倫理の定義、ならびに医療問題に対する日本の認識(対応)の現状を報告。
6ページからなる論文であるが、専門用語が羅列されているわけではなく、哲学が専門ではない人でも読みやすい。

生命倫理学とは…
1978年にジョージタウン大学ケネディー研究所から出版された書物によって、初めて明確に定義がされた。「人間の行為が道徳的諸価値や諸原理に照らして吟味される限り生命諸科学やヘルスケアの領域におけるその行為の体系的研究」

医学の倫理的問題(例:脳死、安楽死)の解決には、奥底に潜む文化的・歴史的要因にも注目する必要がある(*哲学はその手助けとなりうる)。

引用宗教は人格のかけがえのなさや一回性の観点から生命の瞬間を問い直すことができる。


なるほど、倫理的問題は確かに「医学」や「法学」だけでは片付けられない。しかしどうしても、医療者の視点から医療問題をとらえがちである。研究の多くは、医療職によって行われているのも、その要因であろう。
「ひと」「生命」をトータルに考えるならば、哲学という学問も不可欠であると感じた。



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