社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

「能力開発による働きがいの確保を 取り引きとしての日本の人材マネジメント」大藪毅

2014-12-27 21:25:21 | 経済学
『人材教育』May 2013

90年代から現在に至るまでの「働き方の変化」と「人材育成の捉え方の変化」について概観している。

引用
・日本企業の働きがいとは、時間をかけて成長を遂げた後にようやく実感できるもの。その時は、大変だ、辛いとしか思えないが、長時間かかって成功した時の達成感は大きい。
・人材政策ではよく「Make or Buy」とたとえられる。Makeとは長期雇用の中で企業が自前で人を育てること。一方、Buyは必要な時、必要なだけ買えばいいという考え方。


社会福祉の現場は、人材マネジメントが混沌としている。利用者や相手方の事業者との関係を考えると、長い期間勤務をしてもらい、信頼と安心を体現できる人材が望ましいであろう。しかし一方で、最低限の人員で、目の前の業務をこなすことに必死で、長期的な雇用を視野に入れた人材育成は、期待できない組織が多いように思う。
本コラムを読むことで、問題点がはっきりと分かる一方で、営利を第一目的としないがために、財源に制限がある社会福祉事業において、どうやって腰を据えて人材育成をすればよいのか…ちょっとどん詰まりになってしまった…。
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『「医療福祉経済学」考』 斎藤観之助(2009)川崎医療福祉学会誌 増刊号

2014-12-22 14:42:00 | 経済学
医療福祉の領域を経済学的視点から捉え、その意味や問題点等を検討している。

引用
・医療福祉分野に限らず、いかなる分野の活動も「経済学的視点」から見ると、少なくとも次の3つの事項に焦点を当て把握されなければならない
 ①活動の主体と内容
 ②生産活動と資源
 ③資源の有限性(いずれも生産資源も有限であるから、いかなる財やサービスも無限に生産することはできない)

・医療福祉サービス分野に市場原理を導入することは決して賢明な政策であるとは言えない(中略)。医療福祉サービスは公的な社会保障制度の枠組みの中で拡充していく努力をするしか道はなかろう。

・「資源の有限性」を示すシグナルが価格である。


私は経済学のド素人であるため、本論文はとっても難しく、読み進めるのに相当の時間を要した。
医療福祉サービスのひとつであるソーシャルワーク活動は、「お金」の問題にとても翻弄されている。
ソーシャルワーカーが配置されるか否かは、その組織の「理念」以上に、「予算(財力)」があるか否かに、相当の影響を受けていると痛感する。
それゆえに、何がどうすれば、円滑にソーシャルワーカーが配置されるのかという疑問から、本論文を手にした。
「医療福祉サービスは公的な社会保障制度の枠組みで拡充をしていていく努力」という指摘、理解はできるがスッキリとはしない。
どの努力の方法や手段をどのようにし、そして結果をどのように明示するのか、そこが難しいのだと思う。
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「喪の途上にて 大事故遺族の悲哀の研究」野田正彰(1992)

2014-12-20 05:55:12 | 医学
日航機墜落事故の遺族へのインタビューを通して、大事故遺族の悲哀の過程を分析している。
20年以上前の研究であり、恐らく今の悲哀研究の柱のひとつになっているであろうと読み取れた。

引用
・事故後の遺族の度をすぎた気丈や勤勉には、自己破壊の衝動が隠されている。自分を傷めることによって、死者の苦しみを共有しようとし、また自分を置いて死んでいった死者の注意を呼びおこそうとするのである。
・他人には見るに耐えない身体の破片に見えても、限りなく大切なのである。それは家族の死を確認し、後日、彼らが徐々に死別を受け入れ、現実感を取り戻すためにも必要である。
・一般的には、十分な看護をした上で家族と死別した場合、遺族の自責感は少なく、精神的安定も比較的容易である。反対に突然の死別は、それだけ激しく、ー私は何をしてあげただろうかーと遺族を責めたてる。
・中高年層の悲しみは、最も深い絶望を内に秘めている。彼らはもはや、故人を喪って後に、人生のやり直しはあり得ないことを知っている。かといって、世俗的な役割遂行は放棄できない。これまで通りの自分の務めは、きちっとやらなければならない。
・喪の悲しみは、遺族、喪った相手、死の状況、事故後の環境という四つの要件から構成されている。
 (*事故後の環境…加害者がいかに対応したか。救助者や関係機関の態勢は。など)
・(本書では)遺族の喪の過程に相手が必ずしも望んでいないのに、直接、間接に介入し、そこから経済的利益をえる行為を「喪のビジネス」と呼ぼう。


自然災害、公共交通機関での事故等、ここ数年で愛する人の「突然死」を経験された方は大勢いる。この「突然死」は、かつての戦争による「死」とは異なる点があると指摘されている。なんの前触れも、覚悟もなく、出かけた人が帰って来ないという現実は、想像を絶する。この喪の過程を本書は丁寧に掘り下げている。
ポーリン・ボスは、「あいまいな喪失」を見出し、その喪の過程の複雑さを説いているが、本書はまさにそれであろう。

遺体の状況によって(完全遺体、部分遺体)、亡くなったその場を「その人がそこにいる」と感じる/感じない。にも差があると指摘している。
見つかっていない体の一部を探しだそうとしたか/そうではなかったか。によっても、喪の過程に違いがあると指摘している。

喪の過程には本当に多くの状況が影響を及ぼしているのだと考えさせられた。


喪の途上にて―大事故遺族の悲哀の研究
クリエーター情報なし
岩波書店
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