社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

「死が近い高齢者をケアする際の葛藤:ケアスタッフが僧侶と研究者に語ったこと」岡村毅、小川有閑ら(2021)

2023-03-10 10:30:59 | その他

『日本老年医学会雑誌』58巻1号

 

僧侶と研究者の共同研究。終末期ケアに従事する介護職、看護職らを対象に調査を実施している。

宗教者に対する期待、医療機関に対する失望など、率直な言葉が印象的である。

引用

(インタビュー調査、発言要旨より)

・かつては施設での看取りは考えられなかった。ただでさえ、自転車操業な大忙しの毎日の中の片手間としてやっている。片手間でやっちゃいけないことを片手間としてやらざるを得ない今の職場環境はつらい。

・本人が求めているものにこたえられる何かを宗教者は持っていると思う。

・入退院を繰り返すことは本人にとっては苦痛であり、本当はゆっくり休みたいと思っているのではないだろうか。

・死に至る段階は医師や看護師から伝えたほうが説得力がある。

 

 特に認知症を持つ方に対して、本人の意思を汲み取れないこと(汲み取りにくいこと)による葛藤が多い印象を受ける。そして本人の「生きていたい」という意思よりも、「生きていて欲しい」と思う家族の気持ちが優先されていることも少なくないと、私自身も現場で体感している。本論文のインタビュー調査の発言の中に、「最期の最期の段階で、家族がやはり点滴をして欲しい、酸素をして欲しいと言ってくる」というものがあった。これは私も多く経験していることで、そこまでにどれだけ対話を重ねても、家族はぎりぎりまでできることを模索し、「できることはすべてやってあげられた」と思うことで、家族の死の受容に結びついていくのだということも、多く経験している。それでもなお、「まだ医療処置をし続ける意味があるのだろうか?」と感じることも、少なからずある。

 本論文を通して、医療者や福祉職だけでは入りきれない、受容と諦め(という表現は稚拙であるが…)の間に、宗教者が関わることで、本人・家族・ケア提供者の葛藤が軽減していくのではないか、思った。

 

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『死者の力 津波被災地「霊的体験」の死生学』高橋原、堀江宗正(2021)岩波書店

2023-03-05 10:47:29 | その他

被災地住民と宗教者への聞き取りに基づいた、調査研究をまとめている。

宗教者が真摯に住民に寄り添う姿が読み取れる。

引用

・「悲しみや苦しみを一皮ずつ剥いていく」のが宗教者の役割であり、葬式の機能なのではないか。

・霊にまつわる相談に対する宮城県の宗教者たちの対応

 →宗教者の多くが「心霊現象」に対して合理的、あるいは心理学的に理解しているにもかかわらず、

 「幽霊を見た」「霊に取り憑かれている」といった相談者の主張を頭ごなしに否定せず、受容するというのが基本姿勢である。

・宗教者たちの傾聴活動は、生きている被災者への傾聴だけではなく、縁ある死者への傾聴でもある。

 

 調査に協力された宗教者の方々は、「霊は存在しない」という解釈をもちながらも、それを訴える相談者を丸ごと受け止める。

そしてそこから、ただひたすらに話を聞く。筆者も指摘しているように、医療者(心理職を含む)では決して提供できない、

「答えを出さない(何らかの診断や処方等を出さない)支援」は、宗教者の唯一無二の役割なのだと思う。

死者の存在によって生かされている、そのように感じる遺されたひとも多くいるであろう。そのことをそのままで良しとする、

そんな空気感?土壌?雰囲気?空間?…それが本当に大切なのだと思った。

 

 

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