社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

「意思決定能力を欠如した高齢患者の胃瘻造設の代理意思決定をめぐる「揺らぎ」に関する研究」竹森今日子(2021)

2021-08-19 09:30:00 | 社会福祉学

副題:家族の語りの分析を通して

『社会福祉学』第61巻第4号 2021年

 認知症等により、自分で意思決定ができない家族に代わり、胃瘻造設をするか否か、を検討・決定する家族について、聞き取り調査を実施し、

その思いと決定までのプロセスを「揺らぎ」というキーワードで分析している。

 

引用

・(考察より)家族に共通していたのは、「胃瘻を選ぶべきか否かわからない」という「揺らぎ」であった。

・胃瘻に関する知識と経験が乏しい家族にとって、意思に限らず、看護師、さらには家族や知人などの身近な人から得る胃瘻に関する情報も、胃瘻の理解として取り入れやすいが、取り入れた情報内容によって「揺らぎ」が増減する傾向もみられた。

・(分析から)「揺らぎ」が代理意思決定時のみに限定された感情ではなく、現在に至るまで「患者の利益」を追求し続けている家族の誠実な反応であることを意味している。

 

 新しい知見が得られたという研究ではないが、聞き取り調査からの分析~考察について、丁寧にことばを大切にしている印象を受けた。

 医療技術が発達し選択肢が増えすぎることで、家族を苦しめている側面もある。そのことを理解し、適切な情報(過不足のない情報)を提供し、決定までの気持ちの揺らぎ/浮き沈みを受け止めていくことが必要だと、あらためて感じた。

 

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「生きるためのフェミニズム パンとバラと反資本主義」堅田香緒里(2021)

2021-08-04 16:26:07 | 社会福祉学

「誰かの安全のために、別の誰かの命や尊厳が犠牲にされるような社会はもうごめんだ」そういった思いをベースに、

自身の私的経験/支援者としての実践経験、そして排除と抑圧、平等・不平等などに関する理論を論じている。

筆者は学者であるが、難解なものではなく、平たいことばで、社会の構造を分析し指摘している。

 

引用

・今日の女の生=労働をめぐる状況を見てみると、一方では、高所得キャリア女性の「活躍」が喧伝され、他方では、シングルマザーや単身女性の貧困や低賃金が社会問題化されている。しまいには、両者の格差を示す「女女格差」(橘木俊詔)という言葉まで生まれ、その階級的分断は深まるばかりにみえる。しかし政府は、女性の「活躍」を声高に謳いながら、不思議なことに、そうした女性間の格差や分断・貧困にはほとんど言及せず、またその対策も用意しないままである。

・(路上生活者を排除し、街全体をクリーン=治安を良くする動き…「街の再生」)←管理者注書き

「街の再生」は、かつての寿町(注:横浜市にある地域)のドヤ街や黄金町(注:横浜市のある地域)の青線地帯にあった喧騒や「いかがわしさ」、街に染み付いていた人間の生=労働の臭いを払拭し、そうして街の地理や歴史を消去し、書き換えることに貢献するだろう。果てに待っているのは、フラットでクリーンな「安心・安全な街」である。(中略)臭いたつ人の生そのものより、無臭の美が欲望される。そこに現れる「美」とは一体何だろう。

 

 本文中では、誰のための、何のための…こうした問いが幾度となく繰り返されている。

一般市民と言われる層への問い、国への問い、自身への問い…いろんな問いに、悩み・怒り・惑いながらも分析をし、道を探している印象を受けた。

民主主義とはなにか?フェミニズムとはなにか?という堅苦しい書物ではない。

ただ、「自分は一体何者だ?」という究極の問いを突きつけられ、とても考えさせられた。

 

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