社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

「医療的ケアを必要とする子どもの在宅介護を担う母親の状況」櫻井浩子・西脇由枝(2008)

2018-10-29 06:24:43 | その他
『立命館人間科学研究 17』

 在宅介護を担う母親にバーンアウト調査を通して、要医療的ケア児の在宅介護を担う母親の状況とその関連要因、改善のための援助を中心に考察している。
 少し前の論文ではあるが、母親が置かれている状況を数値で分かりやすく提起している。

引用
・(母親の)一日の平均睡眠時間は5.5時間、子どもが体調不良時の平均睡眠時間は3.2時間、平均睡眠中断回数は2.6回。
・子どもから離れられる時間は、一日平均201.6分、外出時間は138.1分、医療行為時間は7.4時間。
・母親の身体的心理的精神的疲弊を見ると、臨床的うつ群6.6%であった。
・バーンアウト群と臨床的うつ群の合計は子育て中の母親では10%であるが、要医療的ケア児の母親では28.3%と子育て中の母親の約3倍であった。
・要医療的ケア児は医療機器の充電や定期的なケアが必要なため、行動範囲や外出時間に制限がある。


 母親への過度の負担、少なすぎる社会資源…知っていたことではあるが、具体的に数字で示されるとより一層その重みが伝わる。
 「母親」という肩書は、そこまで多くのことを背負わなければならないのかと、しみじみ思う。

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「重症心身障害児とその母親のショートステイ利用に関する一考察-母親の語りからみえた子育ての困難さ-」千葉伸彦

2018-10-22 05:32:29 | 社会福祉学
 『東北福祉大学研究紀要 第39巻』

 重症児を対象としたショートステイサービスについて、主たる介護者である母親へのグループインタビューを通して、その現状と課題を整理している。少し前の論文ではあるが、母親の切実なる願いは、今も変わらぬ課題であろう。

引用
・(2011年に発行されて本によると)全国には約39,500人の重症心身障害児者はがいると推測されており、在宅で生活する重症心身障害児は約27,000人と、約7割が在宅で生活を送っている現状がある。
・精神的負担の解消として、介護者である母親らへの丁寧な相談支援、カウンセリングが求められると言えるだろう。
・(インタビュー調査結果より、)サービス事情所不足に関する困りごととして、7点が整理された。①事業所の増数 ②利用時期の不明確さ ③予約でいっぱい、キャンセル待ち ④新規利用不可 ⑤利用する子ども、家族が多い ⑥医療的ケ 
  アを実施できる事業所がない ⑦緊急時に利用できない
・常時利用できる社会資源の存在が母親への安心できる材料になっていることも事実であると考える。



 「録画したドラマをコールに気にせず、一気に観たい!」。これは以前私が関わった、在宅で神経難病の母親を介護していた娘さん(当時30代)の言葉である。在宅で要介護者とともに生活するしんどさは、当時独身であった私にはピンと来なかった。しかし子どもを産み、昼寝をしている間だけが自分の時間であることを痛感し、先の彼女の言葉はその壮絶さをとても分かりやすく表現していたのだと実感した。
 高齢者のショートステイの受け皿は、現政権の賜物か?!増加傾向にある。しかし医療的ケアを必要とする人のショートステイ先は、高齢者も子どもも、まだまだ十分ではない。ひとつひとつの声を大きなものに変え、サービスの改善につなげていかなければいけないと、あらためて考えさせられた。
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「障碍児への組織的対応としての地域支援のあり方についての一考察」 榊原 剛(2018) 『名古屋女子大学紀要64』

2018-10-17 10:13:34 | その他
 地域包括ケアシステムの構築がすすめられているなかで、児童への対応は充実しているのか?という点から、筆者の専門である教育学の視点から考察をしている。

引用
・小児等は成長・発達していく存在であり、ライフステージに応じてかかわる施設・機関や職種が異なる。したがって、施設・機関間を調整するコーディネーターが必要不可欠であるが、今もってその存在が不明瞭である。
・地域包括ケアシステムは高齢者の医療と介護、認知症対策などを目的に推進されてきた取り組みであり、現時点では小児等についての枠組みがない。
・(吸引等が必要な児童への保護者への)付き添い要請については「障害者差別解消法」に違反しているとの見方もあり、学校等における医療的ケアを誰がどのように実施するのかについては、小児等に対応する地域包括ケアシステムのあり方 
 のなかで、今後十分に議論していく必要があるだろう。


 医療的ケア児と呼ばれるこどもたちが年々増えていくなかで、その子供と家族を支援する取り組みが急務の課題となっている。しかし筆者も指摘しているように、高齢者は身近な存在であるがゆえに課題に着手されやすく、医療的ケア児はまだまだ「他人事」の域にある。
 介護保険制度下の介護支援専門員のように、医療的ケア児とその家族をサポートするためには、コーディネーターは必須である。その担い手をどこに配置するのか。特別支援学校か、役所か、地域の子育て支援センターか…。まだまだ課題が山積みのこの領域に、少しでも陽が当たればと切に願う。
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