社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

「障害者支援施設における施設内虐待の予防に向けた一考察」藤江慎二、松永千惠子(2021)

2022-12-31 13:21:43 | 社会福祉学

副題:傷害事件・暴行事件についての裁判調書の事例分析から 

『社会福祉学』第62巻第2号

 

施設内虐待事件の裁判調書をもとに、事件を詳細に分析し、虐待予防について考察を深めている。

日ごろはニュースなどで概要を知ることにとどまっているが、裁判調書は場面を詳細に記録しているため、

その残酷さと身勝手さに、目を覆いたくなった。

 

引用

・(分析結果から)「職員が職員として働き続けられる」ように、「業務をこなすという作業人ではなく、対人援助の専門職として働き続けられる」ように、施設・法人、そして行政機関が職員へのフォロー体制を整えることが必要である。

・(事件の要因・背景を分析した結果として)①施設の人材育成の問題が虐待行為と関連していること、②職員間コミュニケーションの不足が虐待行為の慢性化に影響していたこと、③施設・法人の虐待問題を隠蔽しようとする考え方は職員間に広がり、職員の退職にも影響を及ぼしていたことが明らかになった。

 

 残念なことではあるが、勤務先の特養でも不適切ケアが後を絶たない。その都度、市に報告し、第三者機関の弁護士さんに相談をし、「意識を高めてもらう」という目的で研修をし…。それでも半年過ぎると、同じことが繰り返される。市は事故報告を義務付けるだけではなく、虐待予防のための講師を派遣したり、人員不足の部分について真剣に向き合ってくれないかと、憤りを感じることもある。

 最初から、自分が虐待をする側になると思っている人はいない。本論文でも指摘していたが、「人員不足→未経験であっても充足のためであれば採用→経験者が少ないために教育が行き届かない→燃え尽きて(疲弊して)仕事を辞める→人員不足…」という負のループから抜け出すためには、一組織の情熱だけでは不可能である。今後、介護職の増員が不可避である現実をみると、自治体が本腰を入れないと、どうにもならない域に達してしまうだろうと恐怖すら感じる。

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「小学生を対象とした図書における障害者の扱われ方と障害者理解への影響に関する一考察」岡﨑千紘、石田祥代(2022)

2022-12-29 12:23:26 | その他

『千葉大学教育学部研究紀要』第70巻

小学生のための課題図書を対象に、それらから与えられうる障害者のイメージを検討し、読書による障害者理解の可能性について提示している。

引用

・受容的態度とは、相手を否定も肯定もせずにありのまま受け容れることであるが、これが行為や支援と同視されてしまうということは、「ありのままを受け容れること」もいわば「やってあげる」という意識から生まれることにつながりかねない。

・小学校の学級図書や図書室に障害がテーマの図書を配置する場合、以下の事項に注意する必要があると考えられる。

①現代の障害者観に合っている

②児童の読書能力に適している

③心理描写が極端でなく現実に即している

④古い図書の場合、児童が時代背景を理解している

⑤同じ障害をテーマにした図書が身近に複数配置されている

 

パラリンピックがやドラマなどを通して、「障害がある人」「病気を抱えて生きている人」の存在が、以前よりも目に見える存在として登場しているように感じる。

どんな素材であっても、子どもに渡しっぱなしであっては意味がなく、その素材を通して、どう感じ、どう考え、どう向き合いたいかなどを、じっくりと話すことが必要であろう。

その素材づくり、素材選びの責任は大人にあるのだと、責任を感じさせられる論文であった。

 

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「介護職の魅力を発信する効果的な活動についての調査」戸館康秀(2021)『介護福祉士 2021.3 No.26』

2022-12-23 11:45:17 | 社会福祉学

副題:「介護の仕事と社会変化の関係性からの一考察」

 

慢性的な人員不足である介護職について、将来的に就きたいと感じてもらえるような「仕事としての魅力」をいかに伝えるか。

その実践と、実践後に行った調査内容を報告している。

 

引用

・介護職の魅力を発信するためには、社会の変化と学校教育を把握したうえでの「体験活動」が有効的で、多様な介護業務を理解してもらうには、対人援助者としての基本となるコミュニケーションを通じて「感謝の気持ち」を体験してもらうことが効果的であることが明確となった。

 

 乱暴な言い方をしてしまえば、「感謝してもらえるから」「こちらも笑顔になれるから」という仕事としての魅力は、どの職業にもある。そのためそれを「介護職の魅力」のひとつと認識してしまうと、職業としての根幹をなしているもっと大切な部分を伝えきれないと、私は考えている。

「認知症ケア」や「看取りのケア」は、看護職にもあるが、介護職が生活の場としての介護施設や利用者の自宅で提供できる、高い専門性の一つであり、もっともっと大きな声で主張してもよいものだと考える。

 以前は家族介護の延長として、素人に毛が生えた職業とみられていたこともあるが、税金を投入し、薄給ではあるもののそこから給与が発生しているのだから、れっきとした「専門職」なのである。

「資格や経験がなくても、正社員として雇用してもらえて、賞与まで出る。こんなにチャンスがつかみやすい職業はない」と、特養に勤務していている友人が言っていた。きっかけはなんであれ、介護の世界に飛び込んだ人たちが、その沼にはまり、抜け出せないくらいにその職業に惚れ込んでもらえるようにするための策も、同時に取り組んでいくべきことだと考える。

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「動物医療ソーシャルワークと動物看護師」山川伊津子(2020)『Veterinary Nursing 』Vol.25 No.2

2022-12-14 12:04:53 | その他

 とても耳慣れない言葉に興味を持ち、本論文を手にした。日本では聞きなれない分野であるが、米国では学問として成立しており、専門家の育成も行われているとのこと。人間を対象としたいわゆる一般的な「社会福祉」「ソーシャルワーク」に携わっている人、動物に関することに携わっている人、どちらにとっても、とても刺激的な報告であると感じた。

 

引用

・アメリカでは、人と動物の両者に関わるケースを扱う対人援助としてVeterinary Social Work(動物医療ソーシャルワーク、以下VSW)がある。

・アメリカのテネシー大学ノックスビル校では、(中略)VSWの説明として以下のように記載されている。

  ○動物と人の双方が関わる局面での人のニーズに対する支援の提供

・ASW宣誓では下記が謳われている。

  ○人と動物の関係において起こる人のニーズへの対応

・具体的にはVSWを4つの領域に分類している。

 ①動物に関わる悲嘆と死別 ②動物介在介入 ③対人暴力と動物虐待の連動性 ④共感疲労と葛藤のマネジメント

・動物が身近な存在となった現代社会において、人は動物から多くの利益を享受する一方で、双方に関わる問題も様々発生している。これらのケ 

 ースに介入していくのが動物医療ソーシャルワークであり、人と動物のそれぞれの専門職の連携・協働が必要となる。

 

 専門職を確固たるものにしていこうと、さまざまな業務に「ソーシャルワーク」や「認定●●」といった言葉をつけ、資格化をはかろうとする施策が多いように思う。この動物医療ソーシャルワークもそのひとつなのでは?と、疑いを持ちながら読み進めた。しかし読むことでその疑いは薄れ、筆者が指摘しているように、超高齢社会を迎える日本において、今後はより明確化されるべき分野であることも分かった。動物との接し方で見えてくる人間の多面性を理解し、支援に結び付けていくためには、こういった学問があるのだと新しい知見を得ることができ、とても嬉しい気持ちにさせられた。

 

 

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「保育所が備えるソーシャルワークの連携機能-効果的な連携の構築に向けてー」飯塚美穂子(2021)

2022-12-09 18:55:35 | 社会福祉学

『社会福祉学評論』第22号 2021

 

 保育所が備えるソーシャルワークの連携機能の活用の実態と課題について、インタビュー調査を通じて明らかにし、考察を深めている。

参考文献、引用文献ともに、古いものを扱っていることは気になるが、保育の質を問われている昨今、保育所を多面的に理解することに大変役に立つ。

 

引用

・乳幼児とその家族に日々向き合う保育所においては、子どもを守り、家庭で生じる様々な課題の解決を図るためのソーシャルワーク実践がよりいっそう不可欠になってきている。

・(インタビュー調査回答より)「保育所だけで見守るつもりはないし、抱えきれる問題ではない。親子が卒園するまでに、卒園した後も見守ってくれる場所とかルートを作りたい」

・保護者との距離が近い存在であるからこそ生じる困難さもあるという『保育所の限界の認知』を踏まえた<適切な役割分担>が求められている。

 

 保育所に通う子供たちは、一日のうちの半分近くを園で過ごす。中には、起きてすぐに園に行き、寝る直前まで園で過ごす子供もいる。子供にとっての居場所である保育所で、痛ましい事故や事件が続いている。保育士は多忙であるが、薄給である。それが現実である。そして求められることも多く、学びきれないくらいに深い専門領域であると感じている。

 保育所の機能が適切に運営されるためには、保育所単体ではなく、関係機関や地域の支えも重要である。保育所・保育士を支えていくことは、地域が子供たちの健やかなる成長を支えることに直結する。

 そんなことを考えさせられる論文であった。

 

 

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