社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

「福祉政策にもとづく制度から排除された人々への支援-独立型社会福祉士の実践を通して-

2010-07-28 07:38:04 | 社会福祉学
高良麻子『社会福祉学』第51巻第1号 2010

独立型社会福祉士として活動している人たちに対して、フォーカス・グループ・インタビューを実施し、福祉政策から排除された人たちへの支援について、独立型社会福祉士の実践を通して検討している。

独立型社会福祉士:地域を基盤として独立した立場でソーシャルワークを実践する者

引用
<福祉政策に基づく制度から排除されている人の発生要因>
①サービス給付要件外 ②サービス不足 ③サービス利用制限 ④サービス提供組織優先視点 ⑤アクセス困難
家族や地域住民などからの排除も確認され、最終的に独立型社会福祉士に行き着いている様子が見受けられた。
④について…近年リスクマネジメントが重視されるなかで、本来のリスクマネジメントを越えた守りの姿勢の結果として、組織にとってたいへんだととらえる対象者を排除している様子がうかがえる。

<制度から排除された人々への支援>
①サービス給付要件外への人々への支援 ②つながる・つなぐ支援 ③包括的支援 ④柔軟・迅速対応 ⑤継続的支援 ⑥問題の顕在化と制度改善 ⑦社会福祉士の育成
⑤について…なにかあったら相談できる人がいるといった「存在」としての支援も含まれている。

<支援における課題>
①対価確保 ②ソーシャルワーク理念と経営とのバランス ③倫理的実践 ④社会的地位 ⑤個人対応


もともと社会福祉は、制度・政策からもれてしまった人への救済事業としてはじまった側面があると記憶している。
それが体系化され、専門化されたことで財政的にも運営を安定させることが可能となったが、その一方でそれゆえに対象からもれてしまう人が出てしまうのも事実である。このことは、本研究でも指摘されている。
対象外とされる人を100%なくすことは不可能に近い。それゆえに、サービスの狭間で苦しんでいる人たちへ、誠意をもって支援にあたる人たちへの後ろ盾をきちんとすることが必要であろう。
独立型社会福祉士は、行政機関へのコンサルテーションも無償で行うことがあるそうだ。
これには愕然とした。
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「病いとともにその人らしく生きる」ための病いの意味づけ 隅田好美(2010)

2010-07-26 09:38:30 | 社会福祉学
副題:-筋委縮性側索硬化症(ALS)患者への質的調査を通して-
『社会福祉学』第51巻第1号 

患者が考える「ALSとともにその人らしく生きる」ということを明確にし、病いの意味づけという視点から検討することを目的とし、ALS患者への聞き取り調査を実施している。

本研究は、対人援助の基本として「その人らしく」や「その人らしい生活を支援する」と言われているが、そもそも「その人らしく」とはどういうことか?と言う疑問から出発している。援助者が考えるそれではなく、患者(当事者)が考える「その人らしい(自分らしい)」について、丁寧に分析されている。

引用
ALS患者が考える「ALSとともにその人らしく生きる」ために必要なこと
⇒<病いの本質を知ること><本人のやる気と協力者>

聴き取り調査を受けたALS患者の発言
⇒①ALSの本当の厳しさを伝えられるのは医学書ではなく患者や家族当事者であり、逆に“医学書は患者や家族に失望を与えるので、ALS教科書になって同病者に希望を与えたい”
②<病いの本質を知る>ことで、<気持ちの切り替え>が可能となると考えていた。<気持ちの切り替え>をすると、できなくなったことではなく、できることに目を向けることができた。

結論…ALS患者の語る「普通の生活」とは
⇒健康時と同様の生活をいうのではなく、「ALSとともに生きている」いまの生活を<普通の生活>と感じることである。

結論…支援者として
⇒傷ついた「その人らしさ」の回復プロセスを参考にした支援を行うことで、「ALSとともにその人らしく生きている」と感じる可能性が高くなるであろう。


「これまでにもいくつかの症例をみてきたから、今後どのような経過をたどるのかを知っている。患者・家族にとってははじめての経験だろうから、症状の進行に理解やサービスが遅れないように、援助者が教えていかねばならない」
これは、過去に私が関わったケースに対して、私を含め医療・福祉関係者がカンファレンスで述べたことである。
その時は「何か違和感があるけど、実際に生活をしていく上で、生活のしづらさを最低限度におさえるためには、正しい認識であろう」と思っていた。しかし「身体症状の進行」にだけ注目し、その人や家族がどのような過程を経て「決断をしていくか」については、目を向けていなかったように思う。

知っていることを伝え、目にみえる「生活のしづらさ」を軽減させるだけではなく、「どう決断していくのか」の伴走者が必要である。
それは分かっていても、なかなか支援が難しい。本当に大切で、時間をかけるべき部分に手が行き届いていなかったのだと、過去を反省した。



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「地域包括支援センターにおけるソーシャルワーク実践への課題-実態のある支援関係の形成にむけて-

2010-07-22 14:05:09 | 社会福祉学
川向雅弘『ソーシャルワーク研究』36-1 2010 

地域包括支援センターでの経験をもとに、昨今のコミュニティーワークの課題を提起している。
介護保険法によって求められている機能と、対人援助職としての本来的な機能がもたらしている地域包括支援センターの現状と課題について述べている。
現場での苦悩を客観的に言語化していこうという姿勢が、ひしひしと感じられた。そして、「現場のひとだから、ここまで表現できる(言い切れる)のであろう」と、その思いきりの良さも感じられた。

引用
・介護保険職種の後方支援への役割にシフトしたことは、地域包括支援センターを特に個別支援場面で孤立させている。
・「支援=介護保険サービスの利用」とするサービス利用至上主義への偏重に無意図的に取り込まれている上、それが「実践の貧困」「支援関係の貧困」に繋がることに現場ワーカーが無自覚であることが、実践の課題をより深刻にしている。


政策、事業が整理されてきているなかで、それは誰に焦点をあてて行っているのか。
サービスにひと(利用者)をあてはめていやしないか?という疑問を投げかけられている気がした。
当たり前に整備されているサービスは、使いやすいのもあれば、「?」と感じるものもある。それを見直し、もっと「近いもの」「個別に対応しやすいもの」に変えていく勇気も必要なんだと感じさせられた。
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「ホスピス・緩和ケアにおけるソーシャルワーカーの教育研修ニーズと教育プログラムモデル」正司明美

2010-07-21 14:02:59 | 社会福祉学
『山口県立大学社会福祉学紀要』第13号 2007年3月


ホスピス・緩和ケア領域に従事しているソーシャルワーカーの教育に対するニーズについてアンケート調査を実施。その結果を踏まえた教育プログラムについて提案している。
理論・技術について、参考となりえるものを紹介し、その具体例についても簡単にではあるが提示されている。
組織単位での具体的な教育プログラムの立案に、大いに活用できると感じた。

引用
<がん患者の心理について>
・患者はどの過程においても生への執着を捨てない。言い換えれば、常に生への希望を抱き続ける。
・身体的症状コントロールが、適切に行われている場合には、このまま生がずっと続いていくかのように感じる。
・死を前にしたとき、自然感情(恐怖・怒り・嫉妬・悲哀・愛)の回復と解放がなされることが、死を受けとめていく力になる。これは、患者の自然感情が開示され、分かち合うことができることによって実現される。


教育プログラムモデルについては、ホスピス・緩和ケア領域のみならず、ソーシャルワーク全般に活用できる部分も多い。
昨今、ホスピス・緩和ケアが注目を浴び、そして在宅での看取りも推進されているにも関わらず、アンケート調査の対象となったのは病院にとどまり、在宅療養支援診療所のソーシャルワーカーが含まれていないことには、さみしさを感じた。
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「医療ソーシャルワーカーの業務困難性調査指標開発の試み」大松重宏

2010-07-18 21:25:56 | 社会福祉学
『ソーシャルワーク研究』Vol.36 No.1 2010

医療ソーシャルワーカーは、どのような業務に対して「困難」と感じているのか?を明らかにするためにアンケート調査を実施。そしてその結果をもとに、今後、広く活用されるような「調査指標」の開発を試みている。
調査研究を行うための基盤を開発するための研究であり、その関係性を整理しながら読む必要がある。

どのような業務を困難と感じているのかを知ることは、それにマッチした研修のプログラム開発につながる。


どの組織にも共通した(浸透した)指標があれば、新人SWへの指導内容、有志での研究会テーマの立案にも応用できると感じた。
「何かが不安」「何かの研究をしてみたい」と漠然と思っていても、それを具体化し、行動に移すのはとても大変。
本論文で絞り込まれた31項目の業務困難性の調査指標は、そういった場面においても有効であると感じた。
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「生活保護ケースワーカーの専門性修得のプロセス-生活保護実践からの考察-」

2010-07-16 15:47:21 | 社会福祉学
内田光範『山口県立大学社会福祉学紀要』第13号 2007年3月

一般行政職として入職した人が、生活保護課に異動となった際、いかにして生活保護ケースワーカーの専門性を修得するのかを明らかにするためにアンケート及びインタビュー調査を実施。その結果を論文としてまとめている。筆者自身も生活保護ケースワーカーの経験があるため、その事情を踏まえた展開が興味深かった。


・平成16年10月現在:社会福祉主事保有者⇒74.9%、社会福祉士資格保有者⇒2.8%
・ケースワーク実践における「倫理観」についての調査結果⇒公務員としての基本的な姿勢として、権利の尊重、守秘義務、プライバシーの尊重ということを理解したうえで、対人援助という観点から、被保護者としての信頼関係を築こうと努めている。


施設、病院、在宅…どの領域においても、生活保護ケースワーカーとの連携は不可欠である。しかし実践のなかで、「生活保護の専門家」と呼ばれているものの、それはもしかしたら「法律を良く知っている/法律に基づいた事務作業は円滑に行える」だけなのでは?と感じることもあった。
何かあと一歩の踏み込みが欲しいと感じることもあったが、この論文を読むことで、「一職員の素質を否定するのではなく、採用・研修・実践・再研修」といったシステムに着目すべきだと痛感した。
自治体によっては「福祉専門職」で採用を実施しているところもある。採用の入り口で制限を設けるのが難しいのであれば、筆者が指摘しているように、せめて研修は徹底的に行って欲しいと願う。






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「死を迎える者と遺される者のケア 公衆衛生学からのアプローチ」アラン・ケリヒラ(中村圭志・訳)

2010-07-12 19:53:12 | その他
『死生学・5』医と法をめぐる生死の境界 東京大学出版会-6章

死・死を迎えること・喪失/遺される者への支援について、公衆衛生の立場から説いている。
筆者は英国の学者。日本の現状と照らし合わせながら読む必要があるため、理解に時間がかかる。しかし、政策的に取り組む必要性についての裏付けや、対人援助に焦点を絞らず、コミュニティーを対象とした支援(教育)の在り方については、参考になることが多い。

補足「公衆衛生」とは?
国民の健康を保持・増進させるため、公私の保健機関や地域・職域組織によって営まれる組織的な衛生活動。母子保健・伝染病予防・成人病対策・精神衛生・食品衛生・住居衛生・上下水道・屎尿しによう塵芥処理・公害対策・労働衛生など。

[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]

引用
・思いやりとは、他者の苦を我が事とする能力である。そしてそれはあらゆる質の高いケアと支援にとっての基盤をなす、重要な社会的・心理的・倫理的な質である。(中略)思いやりはあらゆるケアの不可欠の成分である。

・(健康と病気に関する)無知は無知なる反応を招く。恐れがあるときには、支援を求める行動も遅れがちとなる。
・無知は、無反応という悲しい結果をも招き得る。


「死」や「遺される」ことはどういうことを指すのか…を知らないことで、精神的に良くない状態を引き起こすと指摘している。文化的に、死をタブー視していることに、警笛を鳴らしているように感じた。
また、死にゆく人や遺された人を支援するスタッフに対しての支援体制も、必要不可欠であると指摘している。
日本では、「どのように終末期支援を行うか」を検討するのにいっぱいいっぱいで、それに関するスタッフ教育にとどまり、スタッフのメンタルサポートはなされていない印象を受ける。
よいケアを提供するためには、支援する側は「穏やかな状態」でいることが求められる。そのためには支援者側の環境整備も必要であると、痛感させられた。







コメント (3)
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