社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

「東日本大震災による住家全壊被災者のスピリチュアルペインの経験とプロセスー語りの分析が示すソーシャルワーク実践の課題-」庵原美香(2023)

2025-01-19 11:57:34 | 社会福祉学

『社会福祉学』第64巻第2号

東日本大震災により自宅全壊の被害を受けた方たちに対し、半構造化インタビューを実施。スピリチュアルペインの経験とプロセスを明らかにし、求められるソーシャルワークについて検討している。

引用

・本論文におけるスピリチュアルペインの定義「解釈性、知覚性、関係性の欠如による存在意義の喪失」

・住家全壊被災者は、自分の居場所、想い出の場所を失う【住家・地元ロス】を一様に抱く。そこから【犠牲者の死の重圧】の中、【他者との不安定な関係】また【自責感からの死の後追い】に迫られ【内に秘めた不条理】に直面していく。

・①犠牲者の存在、②自己成長に誘う実存的気づき、③地元への特別な意味とイメージ、④言葉にならない想い、に配慮する災害時ソーシャルワーク実践の課題が示された。

 

本論文は、インタービューから得た言葉を丁寧にコード化し、それらが影響しあう背景を論じている。

また論文内では、住家全壊被災者のスピリチュアルペインの経験とプロセスについて、より分かりやすくまとめられている。

今後も予測されている地震等による自然災害に対して、「ソーシャルワーク」がいまから準備できることがあるのだと、気づかされた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「社会福祉士資格をもつケアマネージャーによる身寄りのない高齢者の在宅看取り支援-スピリチュアリティの観点からの考察-」大賀有紀

2025-01-13 09:36:49 | 社会福祉学

『保健医療社会福祉研究』 Vol.32 2024.3

 

身寄りのない高齢者が自宅で生活し続けたいと望んだ時、ケアマネージャーが過度に疲弊せずに役割を遂行するためには、何が必要なのか?

…この疑問を検討するために、基礎資格として社会福祉士資格をもつケアマネージャーを対象にインタビュー調査を実施、考察を深めている。

 

引用

・中堅、ベテランのケアマネージャーにおいても、【ひとり死に伴う葛藤】と【解決できない問題への対処】の循環がみられたことが特徴であった。

・葛藤と対処の繰り返しは、人を最期まで全人的存在としとらえているからこそ、生まれるものである。人を全人的存在としてとらえ、その人の核心を守る、その人が自らの存在意義を感じられるように働きかけるというスピリチュアルなニーズもふくめて支援をしていくことが、人の尊厳の保持につながっていくと考える。

・身寄りのない高齢者の自宅で生活し続けたいというニーズを充足し、彼らの権利を擁護していくためには、ケアマネージャーが【ひとり死に伴う葛藤】と【解決できない問題への対処】を循環的に経験し続ける覚悟が必要であるといえる。

 

病院や施設等、一つの組織で看取り支援を行った場合は、葛藤や課題、喪失の苦しみ等を共有しやすい。在宅での看取りは、他職種他機関がベースであり、時間的、環境的にもそれらが共有しにくいのは、必然であろう。しかし電話、FAX、対面等で、一緒に切磋琢磨できる時間は、一組織内で形成されるチームには劣らないくらいに、やさしくて難しくて、やるせなくて…いろんな要素が凝縮されているかけがえのないものであると体感している。

本論では社会福祉士を基礎資格としているケアマネージャーを調査対象としているが、「社会福祉士」により過ぎずにすべてのケアマネージャーが共感できるものだと感じた。「覚悟が必要」、専門職であればそれは当然のことではあるが、ケアマネージャーの高齢化も進み、人員不足に加速がかかっている。専門職が覚悟を過度に抱えすぎないよう、いろんな策をいろんな方面で模索して欲しいと願う。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「困った人のこまりごと―保健所精神保健福祉相談員の日常ー」芦沢茂喜(2024)

2025-01-04 17:20:28 | 社会福祉学

保健所に勤務する精神保健福祉士さんによる事例紹介。「精神疾患をもつ困った人」と捉えられがちな人たちへの関わりを丁寧に紹介している。

引用

・精神疾患が疑われる場合、「まずは受診」と多くの人は考えます。でも、受診を目的に関わろうとした場合、こちらが決めた目的に本人を従わせたい気持ちが強くなり、本人に拒否されたらより強い説得を試みようとします。(中略)大事なことは受診ではなく、関係性。関係性を築くことができなければ、受診に限らず、他のことも話すことができません。逆を言えば、関係性を築くことができれば、他の話であっても本人との間ですることができます。

・私たちは一人では生きておらず、何らかのつながりを得ながら、社会生活を送っています。何を問題として捉えるのか?それを問題として捉えた人の声が大きければ大きいほど、そのことに焦点が当てられ大きな問題として捉えられてしまう。でも、本当に問題なのかと見方を変えてみると、問題は問題ではなくなる。大事なことは問題に見られてしまう行動を取ってしまう、取らざるをえない本人の理由。

 

つい最近、区役所の精神保健福祉士の仕事はなんぞや?!と怒り半分、あきらめ半分の事例に遭遇したこともあり、本書での実践内容は「うますぎる。すごすぎる」と感じた。決してキレイごとでは済まない実践であろうから、苦労や負担ははかりしれない。私が遭遇した教科書的、事務的な対応しかできない実践者がいる地域と、周りを上手に巻き込みながら一緒に困りごとに取り組んでくれる実践者がいる地域。支援にも大きな地域格差があるのだと、痛感してしまう。それは首長の方針によるものか?実践者たちの自己研鑽の証によるものか?…

なにであれ、生きづらさを抱えている人が、息をしやすい地域が増えて欲しいと切に願う。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする