社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

「介護老人保健施設における支援相談員のソーシャルワーク実践力の構築に関する一考察」片山徹(2017)

2017-03-21 10:42:04 | 社会福祉学
『社会福祉士』第24号

 介護老人保健施設に勤務する支援相談員を対象に、インタビュー調査を実施。筆者の先行研究によって明らかにされた実践課題に対して、支援相談員自身がそれらをどのように認識しているのかを確認している。
 インタビュー結果がカテゴリー化、コード化されており、その一語一語を読むだけでも、支援相談員が抱えているジレンマのようなものを知ることができ、読み応えがあった。

引用
・(老健のベットを)地域の社会資源の一つと捉え、【ベットコントロール】という側面が単に利益追求という視点だけでなく、幅広くとらえることができている者もいる。組織運営や組織管理という側面において、それらをソーシャルワークの機能としてとらえることができるかどうかによって、支援相談員の実践は変わってくる。
・経営や施設理念への関わり、多職種との協働による実践の効果ろジレンマなど、組織に対する働きかけが、支援相談員の実践にとって重要な位置を占める。今後、そのようなメゾ領域、マクロな領域におけるソーシャルワークとしての関わりのあり方を具体的に示していく必要がある。


 高齢者福祉施設であるたゆえに、同じ福祉畑のスタッフが多く、職種間での相互理解はスムーズなのでは?と勝手に思っていた。しかし施設サービスの要のような位置にある「介護=直接的なサービス提供」をする立場ではないため、その専門性のあり方に支援相談員の方々は大変苦慮されているようだ。
 ソーシャルワークはどの領域にあっても「明確」であるようで、そうではない。「知られている」ようで、そうでもない。そんな業務/機能であると改めて思わされた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「在宅医療 多職種連携ハンドブック」編集医療法人社団悠翔会/監修佐々木淳(2016)

2017-03-13 09:34:12 | その他
 在宅医療の現場で活躍している医師、看護師、管理栄養士、在宅介護経験者(家族)などなど、多様な執筆者で構成された本である。
 在宅で受けられる医療ケアを絵で解説していたり、在宅での療養生活を始めるにあたってのアクセス方法なども書かれており、医療職や福祉職ではない一般の方でも十分に活用できる内容である。

引用
・イノチには、漢字の「命」とひらがなの「いのち」があると思います。(中略)病院では、特に救命救急の場面では、救急車で運ばれてくるまさにストレッチャーの上にある「命」を救うことが第一義である。(中略)これは生命体としての命、biologicalな命です。
・一方ひらがなの「いのち」というものがあります。ものがたられる人生としての「いのち」、biographicalな、いのちです。人はみな、いろいろなものを背負っていきています。


 在宅療養支援は、看取りがゴールであってはならない。という一節があった。
 これから高齢者がどんどん増え、病院や施設での看取りが困難となる。その結果として「在宅介護」「在宅医療」になってしまったではなく、積極的選択肢として、在宅療養を選んだ人(本人、家族、パートナー)が、さらにその結果として自宅で死にゆくことを望み、実現した…。そういう状況にしていかないといけないないと思った。



在宅医療 多職種連携ハンドブック
クリエーター情報なし
法研
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「多職種連携で質を高める」荒井康之、太田秀樹 『治療』Vol.98 No.1 2016.1

2017-03-10 09:41:36 | 医学
在宅医療における多職種連携ついて、在宅医の立場から、その経験を踏まえ紹介している。在宅医療を知りたい!という医師向けに書かれたものと予想されるため、とてもわかりやすい表現で、まとめられている。

引用
・患者さんは、医療を受ける前に、地域の生活者であって、生きがいや尊厳など、その人ごとに大切にするものをもって過ごしている。
・(在宅医療の特徴は)それぞれが専門性を発揮して直接患者さんを支援するだけでなく、ほかの職種に対して情報提供・助言を行うことも重要である点も特徴である。
・在宅医療における多職種連携は、医療職・介護職のみで組まれるものではなく、行政や地域の産業(タクシー、不動産・建築業、地域メデイアなど)、地域住民などの参加も欠かせない。


 在宅で療養する人たちを支えるということはどういうことか?という観点からみても、非常に分かりやすく、すっと頭に入る内容であった。
医師は他職種からみると敷居が高く、連絡が取りにくい存在である‐という指摘がある。ここにソーシャルワーカーが関わることで、敷居をさげ、医療用語や介護保険に関することを咀嚼し、連携を円滑にすすめることができると考えるが、残念ながら「ソーシャルワーカー」という言葉は論文中一度も出てこない。
 ソーシャルワーカーの中では、在宅医療を活動領域にするソーシャルワーカーの存在は、ようやく知られ始め、人数も増えていると感じる。次は他職種にどう知ってもらい、活用してもらえるかだ。と痛感した。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ソーシャルワークとしてのアイデンティティ」小山隆、木原活信、平塚良子、和気純子(2011)

2017-03-06 21:40:00 | 社会福祉学
『ソーシャルワーク学会誌』第22号 2011

 学会企画シンポジウムの報告。3名のシンポジストがソーシャルワークのアイデンティティについて論じている。
 「ソーシャルワーカー」という職名を持つ人以外の活動家がいわゆる社会的弱者を支援することは、ソーシャルワークをしていると言えるのか?などなど、学術的な要素が多く、読み応えのある報告であった。

引用
・専門職との協働が深まるほど、それぞれの職種のアイデンティティの確立が求められるため、ソーシャルワークのアイデンティテイを確認し、そしてそれを承認しあっていくことが重要になります。(和気純子)
・アイデンティティの構築は、多領域にまたがるシステム的なものでありますけれども、同時に歴史的でもあり、そして継続的なプロセスであるとするならば、生涯的なアイデンティティの構築支援というものが必要になります。その支援をするのは学会であったり、職能集団でありますので、関連団体、組織が連携を強化しなければ、継続的な支援は難しいのではないかと考えます。(和気純子)
・(ソーシャルワークの)日本独自のアイデンティティはあると考えています。ですが、理論としては基本的にアメリカ流ソーシャルワーク理論を研究しそれを大学の知として標榜しているように思います。そして実際の大学教育は、これとは異なる厚労省が立てる福祉士資格カリキュラムの中に拘泥しているのが現実です。一方で福祉現場はどうかというと、アメリカ流とも、福祉士教育カリキュラムとも異なる現場実践の経験知に基づき実践しているように思います。この3つが混在しており、まさにそこでもアイデンティティ・クライシスが起きているのです。(木原活信)


 「社会福祉士資格保有者=ソーシャルワーカー」であると、長く疑いもなく思っていたが、最近になり、ではそれ以外の職種が担っている支援活動は何?と考えるようになった。
社会福祉士はソーシャルワークの担い手であるが、それは「一」担い手に過ぎない。地域を舞台に支援活動をしている保健師さんやケアマネさんも、ソーシャルワーク活動の担い手であろう。では社会福祉士は不要なのか?というとそうではない。そうではないと言い切れる材料を、私は今もずっと考えている。
この報告書は、その一助となりつつ、さらに深みに落とされるものでもあり…。まだまだ議論がしきれないものなんだな、ということだけは分かった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「在宅医療の担い手としての診療所機能の現状と効率的な療養支援のための地域連携の課題」秋山美紀、武林亨

2017-03-05 08:09:32 | その他
『医療と社会』Vol.23 No.1 2013

 在宅療養支援診療所の届け出をしていない診療所も対象とし、在宅医療提供の実態について、質問紙調査にて確認している。

引用
・質の高い在宅医療を実現するためには(中略)多職種協働による生活ケア全体への支援など、幅広い視点からの整備が欠かせない。
・(調査結果の考察より…)地域連携推進の観点では、医師やケアマネージャーへの介護保険あるいは医療ケアへの教育が求められるほか、地域包括支援センターによるコーディネーション機能への課題が挙げられる。


 在宅療養支援診療所の届け出をしていても、十分な支援体制が実施できていない診療所があるなかで、届け出をしていなくても、看取り支援を行っている診療所もあるそうだ。これはきっと、医師や看護師の「思い」がそうさせているのであろう。
よりよい在宅医療を提供していくためには当然のことながら、「思い」だけでは不十分で、その「思い」をサポートする診療報酬であったり、地域の後方支援が不可欠である。
 本論文では在宅医療の推進、地域包括ケアの推進に際しての課題も述べられている。そこに「社会福祉士」「ソーシャルワーカー」の存在がなかったことが気になり、なんとか声を上げていかねばと痛感した。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「在宅医療の現状と課題」川越正平 『日本内科学会雑誌』第103巻 第12号 平成26年12月10日

2017-03-03 13:33:44 | 医学
 現職の在宅医による論文。在宅医療の歴史的背景が丁寧に整理され、現状を踏まえた課題についてもわかりやすく論じている。

引用
・何らかの重大疾病を発症した患者が、死を避けることはできたものの完治には至らなかった場合、後遺症を残す、慢性化する、その後急性増悪を繰り返す恐れがある、合併症を併発する恐れがあるなどの条件を有しつつ、その後の生活を継続することになる。そのような状況下で長期にわたり必要となる医療やケアのことをlong term careという。
・(在宅医療は)患者背景を踏まえ、生活の様子や価値観をも理解し、その患者にとってふさわしい医療をともに考えて提供する。
・在宅医療とは、患者の尊厳を重視し取り巻く家庭背景や環境を踏まえつつ、生命のみならず生活を支えるために、医療ケアを提供する営みである。


 在宅医が病棟勤務の医師に向け、在宅医療を理解してもらおうという姿勢で書いていると予想される。
そのため、ソーシャルワーカーの立場から見ると、「それは在宅に限らず、病院であろうが施設であろうが、必要な視点では?」という部分も多少なりともあると感じた。
 在宅医療が推奨され、在宅療養支援診療所が創設され、10年が過ぎた。それでもなお、「在宅医療とは」「家族支援とは」という説明が不可欠である現状に、個人的には一番の課題があると感じた。
そして何よりも、多職種連携、チーム医療の記述にソーシャルワーカー(社会福祉士)が登場しないことが残念であり、まだまだ頑張り続ける必要が大いにあると反省させられた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする