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川まで歩いていって水を汲んでくるだけだった。雪を融かせば済むことだが、テントから出て少し雪の中を歩いてみたかった。水温はかなり低いから、雑菌の心配などしなくてもよさそうだったし、どうせ煮沸するつもりでいた。
人気のない単独の冬の上高地、この時は夜だった。足元の雪が崩れ、危うく暗い梓川の流れに飲み込まれかけた。登山事故で滑落はかなりの割合を占めるが、酔っぱらって川にはまるなどという事故はあまり聞かない。もう随分と昔のことだが、今でも思い返すとあの時のヒヤッとした気分が甦る。人並み(?)に事故の経験はあるが、登攀中にはない。
そう、山にアルコールは欠かせない。酒類を厳選の上持っていったが、山行のパートナーだったNやHは、不真面目で飲まなかった。時々使い物にならないYが来ると、この男は酒飲みで、ばかりかすき焼きを食べることが山行の目的と言い、山は堕落した。登攀のメンバーではなかったが、たまに来たTDS君も大酒飲みで、酔うと乱れにみだれ、果てしない暗黒へと落ちていったものだ。もう一人Wというのがいたが、これはまたYにもまして使い物にならず、悪場でよく固まった。そのくせ、冬の富士山や八ヶ岳で敗退を繰り返し、もう懲りただろうと思っていたら利尻だアラスカだと。
今はもう、重い荷物を背負うことすらしない。一緒に行った仲間も皆、山から去った。Nだけは、いまだに一人で細々と山歩きを続けているようだが、あれほど岩に強かったHの頭の中になど、山は完全に消えてしまい、ブーリン結びさえ覚えていないだろう。
山を止めようと何度も思った。ところが下界に帰れば、そういう気持ちは嘘のように消えてしまった。しかしいつのころからか、歩行の苦しさや、山の夜の寒さが、山に行くことを足止めするようになって、久しい。
入笠牧場へいらっしゃい、という目的のブログがよれてしまった。まだ昨夜の貞氏との痛飲の影響か。これから仙流荘へでも風呂に入りに行こう。
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