本当は臆病な男が、おおぼらをふきながらも、あれよあれよと思う間に、すこし場違いなやりかたで難問?を解決し最後にはハッピーエンドに。
大人にとっては結末が想像できるが、途中のドキドキ感を楽しめる話。
できないと卑下するより、自己暗示をかけてみることが必要なこともあるかもしれません。
・いくじなしのベジャン(大人と子どものための世界のむかし話18ユダヤのむかし話/高階美行・編訳/偕成社/1991年初版)
夕方暗い中でよくみえず、ロバのつもりでイノシシを連れてかえったベジャン。これを聞いた王さまがベジャンを城によび、イノシシにまたがって家までつれてかえったというベジャンの勇敢さに感心し、たくさんのほうびをあたえます。
ライオンがでてきて商人の往来がなくなってこまった王さまは、ベジャンにライオンを退治させます。
風に揺らぐアシの音にもふるえあがるほど臆病なベジャンは、木の上にのぼれば大丈夫だろうと木の上にのぼります。そこにライオンがやってきますが、怖くなって木の上のほう、上のほうへとのぼったベジャンは、木の枝がおれて、ライオンの上におち、一緒に行った兵隊がいっせいにかけよってライオンをつかまえてしまいます。
次に、フランクと戦うことになった王さまは、ベジャンに助けをもとめます。
フランク軍にむかう途中、アシの茂みのそばをとおりかかるとベジャンは織物をつくるという自分の仕事を思い出し、アシを刈り取り馬にくくりつけます。それを見た兵隊も同じようにアシを刈ると、馬にくくりつけて進みます。
途中、大きな沼につきあたるが丁度もっていたアシのたばを沼のまんなかに投げ込むと橋ができあがり、沼をとおりぬけることができる。
やがて戦いになるが、ベジャンは急に体がかゆくなり、もっていたパンをそばにおいて、服をぬいでシラミをとりはじめます。そのとき、フランク軍から、犬が飛び出してきてベジャンのパンをさらって逃げます。それをみたベジャンは、刀をふりかざし、さけびながら犬のあとを追いかけると、それをみた兵隊は、ベジャンとおなじように、すっぱかだで相手にせまっていきます。びっくりしたフランク軍は大混乱におちいってしまい、敵か味方の区別もできず、同士討ちをくりかえし、ひとりも生きのこりません。
王さまが高官たちとベジャンをむかえにでると、こっけいな戦いぶりをとがめられると思ったベジャンは落馬してしまいます。
王さまからなぜ落馬したときかれたベジャンは、王さまがおむかえくださったので馬から飛び降りたのですとこたえると、王さまは感心し、ベジャンに金貨の雨をそそぐ。
やがてベジャンは大臣に任命されます。
ストーリーの全体に無駄な部分がない。コミカルなやりとりが結果OKに結びつくというパターンは、いろいろな国の昔話でも同様である。
フランク軍が敵、味方の区別がつかなくなって大混乱におちいるというのは、一方が裸で、おこりようもない事態であるが、そうしたことを感じさせないところが昔話。
・ゆうかんな仕立て屋さん(グリム童話集 下/佐々木田鶴子・訳 出久根 育・訳/岩波少年文庫/2007年初版)
ちびの仕立て屋が、パンの上のハエを一打ちし、七匹をやっつけたことから布ベルトに「一打ちで七匹」と刺繍し旅に出ます。
山のうえにすむ大男は仕立屋のちえに、自分が殺されてしまうのではないかと恐ろしくなり逃げ出す。紆余曲折するが、最後には、仕立て屋が王さまになるという話。
・ごうけつネスニー(世界のメルヒェヘン図書館5 火の馬/小澤俊夫・編訳/ぎょうせい/1981年初版・・北コーカサス・チェチェーヌ族)
こわさのあまり刀をふりまわして、ハエを三匹ころしたネスニーが、「この刀は六十三人の巨人をうちころした刀なり」と自分の刀に書きつけ、小麦粉の袋を背中にかついで、旅に出ます。
やがて、ネスニーは、村人をとって食べるというサイの背中に木から落っこちて夢中でしがみつきます。サイは村人が矢で射殺してしまいますが、ネスニーは「どんなにうまくてなずけてここまでつれてきたか見ていただろう」と話します。
次に、敵がおしよせてきて戦いになりますが、馬に乗ったネスニーが、こわさのあまり木の枝にしがみつこうとすると、木が根もとから引っこ抜かれてしまい、手ににぎった木で敵を打倒してしまう。
この手の話では、自己PRする場面がかかせないようで、ここでは「六十三人の巨人をうちころした刀なり」と書いたのが、次の展開につながりますが、なぜ六十三という数字がでてくるのか知りたいところ。
また、いやだとしぶるネスニーを、おかみさんが有無をいわさずおくりだす場面が楽しい。
・弓の名手ムハメド(シルクロードの民話4 ペルシャ/小澤俊夫・編 鳥谷謙・訳/ぎょうせい/1990年初版)
「戦にて打ち破りし敵幾千」「おそれてにげ去りし敵幾千」と弓に書いて旅をする男。実はハエを何匹かつぶしただけ。
このおおぼらふきの男が、ある王さまの戦争にまきこまれます。馬をあやつることができない男は、おそろしさのため木に抱きつくが、木が根こそぎぬけてしまい、木を抱えたまま敵に乗り込みます。すると敵は男に圧倒されて勝敗が決まります。
それだけで終わらりません。。
王さまの国ではライオンとの約束で、毎年14歳の娘を差し出すことになっていました。
男は、このライオンを退治してくれたら娘婿にすると言われるが、逃げ出す機会を見つけようと思いながら森にいきます。
ライオンにあって恐ろしさで木の上に逃げるが、ライオンが足元にいるのをみて、木にしがみついていられなくなった男はライオンの背中に落ちてしまいます。そのままライオンにしがみついて町へいくと斧の使い手がライオンの首を切ってしまいます。そして、・・・・。
・豪傑ナザル(子どもに語るトルコの昔話/児島満子 編・訳 山本真紀子 編集協力/こぐま社/2000年初版)
トルコの昔話「豪傑ナザル」は、あまりにも臆病なだんなが、おくさんから家からしめだされ、あてもなく旅にでて、一休みしたとき顔にむらがったハエを木刀で追い出すが、そのとき40匹のハエが死んでしまいます。
それで自信をつけたナザルは、木刀に「一打ちで40ぶち殺し 豪傑ナザル」と書きつけます。
ある一軒の家に着くが、そこにはおそろしい大男40人の家。大男たちはナザルを殺そうとまさかりやおので眠っているベッドの上から殴りつけたり、石うすを落としたりするが、大男たちが相談しているのを事前に聞いたナザルはこの危機を逃れます。
勝ち目がないと思った大男たちは「ロシア皇帝おかかえの力士を投げ飛ばしたが、6か月たってもまだ地面に落ちてこないんだ」とおおぼらをふぃたナザルに、おかかえ力士ももうそろそろ地面におちたころだから帰るようにいう。
大男たちは袋にあふれるばかりの金貨をつめてナザルの家まで運んでくれる。帰る途中、大男たちは悪魔から「豪傑ナザルなんてとんでもない。やつは臆病者の代表みたいなものだ」と告げられ、これを聞いた大男たちは真っ赤になっておこりナザルの家に向かいますが・・・・・。