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雪わたり/宮沢賢治・作 堀内誠一・画/福音館書店/1969年初版
この作品は、1921年の12月と翌年の1月に『愛国婦人』誌に掲載された宮沢賢治のデビュー作で、この作品で得た原稿料が生涯で唯一のものであったという。
昔話では、狐はずるがしこくて悪役という役割。狐が作る団子は、牛糞や馬糞というのが相場になっているが、この「雪わたり」では、だされた団子をおそるおそる?食べた四郎とかん子が、そのおいしさにびっくり。誤解が解けた狐の生徒が大喜びし歌い始めます。
雪の降り積もった日、四郎とかん子は野原に遊びにゆき、「かた雪かんこ、しみ雪かんこ。きつねの子ぁ、よめぃほしい、ほしい」と森で狐をからかう歌を歌っていると本当に狐がやってきます。四郎と小狐の紺三郎のかけあいが面白いので、かん子が、つい「きつねこんこんきつねの子、きつねのだんごは兎のくそ」と歌ってしまう。それを聞いた紺三郎は笑って、きつねは人をだますなんて無実の罪を着せられていたと話し、11歳までという幻燈会に二人を招待します。
十五夜の月が登った夜、二人は紺三郎との約束を思い出し、出かけようとすると、兄たちも行きたいと言います。12歳までという入場券をみて、兄たちはふたりに鏡餅をもたせてやります。
二人が森の奥に進んでゆくと、林の空き地には、沢山の狐の生徒と立派な燕尾服を着た紺三郎が待っています。紺三郎は二人に挨拶をすると、間もなく幻燈会がはじまります。やがてスクリーンに「お酒のむべからず」と映し出され、太右衛門と清作が酒に酔って野原にあるへんてこなおまんじゅうやおそばを食べている二枚の写真が映し出されます。
幻燈会がやすみになったとき、可愛らしい狐の女の子が黍団子を二人の前に持ってきますが、太右衛門と清作が悪いものを知らないで食べたところを見たばかりですから手がでません。きつねの学校生徒が食うだろうかとひそひそ話し合っているのを見た四郎は、紺三郎がだますはずがないと思い。二人は黍団子を平らげます。黍団子はおいしく、狐たちは信用してもらえた事に感激し、狐の生徒はどんな時でも嘘はつかず、盗まず、そねまないという歌を歌って喜びます。
幻燈会の後半では、「わなを軽蔑すべからず」「火を軽蔑すべからず」という2枚の狐の絵が映されて、幻燈会が終了します。
紺三郎は四郎とかん子に信じてもらえた事にふれ、狐達は、大人になっても、嘘をつかず、人をそねまず、今までの悪い評判をすっかりなくしてしまうだろうと閉会の辞を述べて解散となります。
二人がおじぎして家にかえりはじめると、狐の生徒たちがおいかけてきて、どんぐりや、くり、青光りの石をプレゼントしてくれます。
この作品はいろんな人が絵を描かれているということ。
創作意欲をかきたててくれる作品ということでしょうか。
「かた雪かんこ、しみ雪かんこ・・・」「キック、キック、トントン。 キック、キック、キック、キックトントントン」といった、リズミカルなフレーズに魅かれ、思わず口ずさみたくなります。
そして、子狐の紺三郎と四郎、かん子との掛け合いだけでも楽しめます。
高校生のころまで雪国に暮らしていましたが、かたくなった雪の上(大理石よりもかたくという表現は、賢治さんならでは)をわらぐつで、歩いたとき「キュキュ」という音がします。履いているのが、わらぐつでないとこの情景がなかなかうまく伝わらないのですが、堀内さんの冒頭の絵には、こんな音が聞こえてきました。
また、狐からどんぐりやクリのほか、青びかりの石をプレゼントされる場面がありますが、石っこ賢さんと呼ばれていた賢治さんのことですから、どんな種類の石だったのでしょうか。