大阪府立成人病センター/がん予防情報センターから,
民主党政権下2010年10月のタバコ税大幅引き上げの禁煙効果を検証した報告
KKE147「2010年のタバコ値上げは日本人の禁煙率を有意に高めた」
Tabuchi T等、J Epidemiol. 2015 Aug 15. (Epub ahead) PMID: 26277880
タバコ税と価格の値上げは,タバコ使用と喫煙格差に対する最適な方策であると考えられている.
日本では1998年にタバコ特別税が創設されて以来,2003年7月,2006年7月,2010年10月の3度,
タバコ税/価格の引き上げが行われた.
これにより例えばマイルドセブンの価格は,2003年に250円から270円に8%増加し,
2006年に300円に11%,2010年には410円に37%増加した.
タバコ産業は増税への便乗値上げも行ってきた.
値上げの影響も一部あり,日本の成人喫煙率は,男性2001年48%,2010年33%,
女性2001年14%,2010年10%と低下している.
しかし購買力指数から見た日本のタバコ価格は,2009年時点でとても安いものである.
全先進国の調査からは,2009年時点で日本はタバコを最も手に入れやすい国であり,
タバコ1箱の価格は労働11.5分間ぶんにしか相当していない.
2010年の大幅値上げ後でさえ,労働約16分間ぶんにしか相当していないが,
豪州,カナダ,オランダなど他の先進国では,タバコ1箱の価格は労働30分間ぶんに相当する.
タバコを入手しやすい日本において,値上げが喫煙行動や格差に与える影響を調べることは意義がある.
値上げが禁煙率に与える影響を縦断的に調べた報告は少なく,今回日本での縦断的解析を試みた.
厚労省の国民生活基礎調査,国民健康・栄養調査から,2007年と2010年のデーターを解析した.
国民生活基礎調査は3年ごとの6月に,国民健康・栄養調査は毎年の11月に喫煙状況を調査している.,
国民健康・栄養調査は国民生活基礎調査の対象者から無作為に選択して調査されており,
2007年と2010年の調査は,それぞれ独立・無作為に行われている.
国民生活基礎調査は,2007年229,821人(回答率79.9%),2010年228,864人(79.1%),
国民健康・栄養調査は,2007年3,508人(66.5%),2010年3,684人(68.8%),
のデーターが解析可能であり,両方の調査に回答した20-79歳のデーターを解析した.
現喫煙者は,連日または非連日喫煙者とし,1か月以上禁煙しているものは除外した.
2010年10月のタバコ大幅値上げが,6月の国民生活基礎調査と11月の国民健康・栄養調査の間にあり,
2007年には両調査の間にタバコ値上げがなかったことから,
禁煙率の変化を2007年と2010年で比較した.
全体の喫煙率は2007年6月と2010年6月で,男性は40.9%から37.0%に有意に低下したが,
女性の低下は有意ではなかった.
6月の国民生活基礎調査時には現喫煙者であったが,
同年11月の国民健康・栄養調査時には現喫煙者でなくなっていた者の割合から禁煙率を計算すると,
男女とも2007年より2010年のほうが有意に禁煙率が高かった(男性は3.7%から10.7%に,
女性は9.9%から16.3%に上昇).
2007年と2010年で禁煙率が有意に上昇したのは男女とも,
1日11-20本喫煙者,家系支出の高い人,持ち家でない人,結婚している人,であり,
男性ではさらに,1日21本以上喫煙者,持ち家に住む人,仕事をしている人,
自己申告で健康状態が悪くない人,であった.
2007年と2010年の禁煙率のオッズ比をロジスティック回帰分析で求めると,
男性3.01(95%CI:2.06-4.39),女性1.80(1.13-2.87)と男性の上昇が顕著であった.
オッズ比が高かったのは,男女とも1日11本以上喫煙者であり,
男性では家系支出の少ないほうが,女性では家系支出の多いほうが,オッズ比が高かった.
年齢層によるオッズ比の傾向は見られなかった.
2010年10月のタバコ大幅値上げは,日本人の禁煙率を高めた