新三本の矢、道筋見えず 借金財政、具体策乏しく 安倍首相の新三本の矢
行政・政治 2015年9月28日 (月)配信共同通信社
安倍晋三首相は経済を再生し社会保障を充実させる新たな「三本の矢」を提唱したが、実現への道筋は明確ではない。第1の矢となる「強い経済」は具体策が見えず、第2、第3の「子育て支援」「社会保障」も、巨額の借金を抱えた財政では予算をつぎ込む余力に乏しいのが現状だ。
▽強い経済
安倍首相が打ち出した「国内総生産(GDP)600兆円」は2020年度をゴールに想定している。ただ、政府は名目で年3%前後の成長を実現すれば20年度に594兆円になるとの試算を今年7月に示している。首相の意気込みほどには新鮮味がない。
目標達成には現在の約499兆円から100兆円超の上積みが必要。年3%の成長は日本経済が好景気に沸いたバブル末期の1991年度を最後に経験したことがない非常に高い数字で、政府内からも非現実的との声が出ている。
成長戦略の柱と位置付ける環太平洋連携協定(TPP)交渉の行方は不透明で、アベノミクス政策の弾切れが指摘されている。首相は25日に行った記者会見でも、目標達成への具体策には言及しなかった。
▽子育て支援
首相は、女性1人が生涯に産む子どもの推定人数を示す合計特殊出生率を1・42(2014年)から将来的に1・8に回復させる目標を掲げた。
出生率1・8は、若い世代の結婚・子育ての希望が実現すれば達するとされる数字。政府は昨年末に人口の将来展望を示す「長期ビジョン」をまとめたが、個人への押し付けにつながりかねないとの批判から、最終盤で数値目標と位置付けることをやめた経緯がある。
首相が支援策として挙げたのは(1)待機児童ゼロの実現(2)幼児教育無償化の拡大(3)子どもの多い多子世帯への支援―など。既に政府として取り組んでいたり、財源難から十分な成果を挙げていなかったりする政策が多い。
▽社会保障
社会保障制度の充実で首相が柱に据えたのは「介護離職ゼロ」の実現だ。高齢者を介護するために職を離れる現役世代は年間10万人を超え、首相は「団塊ジュニア世代が大量離職する事態となれば、経済、社会は成り立たなくなる」と危機感をあらわにした。
首相は特別養護老人ホームなどの介護施設の整備や介護人材の育成を進め、現役世代の負担を軽減させる意向だ。
だが、介護職員の不足は深刻。厚生労働省の推計では、25年度には約38万人の職員が不足すると見込む。いくら施設を増やしても、高齢者をケアする人材が足りなければ、介護の充実はおぼつかない。
また、厚労省は高齢者が住み慣れた地域で最期まで暮らす「地域包括ケア」で在宅中心の介護を推進しており、政府内にも整合性を疑問視する声がある。
行政・政治 2015年9月28日 (月)配信共同通信社
安倍晋三首相は経済を再生し社会保障を充実させる新たな「三本の矢」を提唱したが、実現への道筋は明確ではない。第1の矢となる「強い経済」は具体策が見えず、第2、第3の「子育て支援」「社会保障」も、巨額の借金を抱えた財政では予算をつぎ込む余力に乏しいのが現状だ。
▽強い経済
安倍首相が打ち出した「国内総生産(GDP)600兆円」は2020年度をゴールに想定している。ただ、政府は名目で年3%前後の成長を実現すれば20年度に594兆円になるとの試算を今年7月に示している。首相の意気込みほどには新鮮味がない。
目標達成には現在の約499兆円から100兆円超の上積みが必要。年3%の成長は日本経済が好景気に沸いたバブル末期の1991年度を最後に経験したことがない非常に高い数字で、政府内からも非現実的との声が出ている。
成長戦略の柱と位置付ける環太平洋連携協定(TPP)交渉の行方は不透明で、アベノミクス政策の弾切れが指摘されている。首相は25日に行った記者会見でも、目標達成への具体策には言及しなかった。
▽子育て支援
首相は、女性1人が生涯に産む子どもの推定人数を示す合計特殊出生率を1・42(2014年)から将来的に1・8に回復させる目標を掲げた。
出生率1・8は、若い世代の結婚・子育ての希望が実現すれば達するとされる数字。政府は昨年末に人口の将来展望を示す「長期ビジョン」をまとめたが、個人への押し付けにつながりかねないとの批判から、最終盤で数値目標と位置付けることをやめた経緯がある。
首相が支援策として挙げたのは(1)待機児童ゼロの実現(2)幼児教育無償化の拡大(3)子どもの多い多子世帯への支援―など。既に政府として取り組んでいたり、財源難から十分な成果を挙げていなかったりする政策が多い。
▽社会保障
社会保障制度の充実で首相が柱に据えたのは「介護離職ゼロ」の実現だ。高齢者を介護するために職を離れる現役世代は年間10万人を超え、首相は「団塊ジュニア世代が大量離職する事態となれば、経済、社会は成り立たなくなる」と危機感をあらわにした。
首相は特別養護老人ホームなどの介護施設の整備や介護人材の育成を進め、現役世代の負担を軽減させる意向だ。
だが、介護職員の不足は深刻。厚生労働省の推計では、25年度には約38万人の職員が不足すると見込む。いくら施設を増やしても、高齢者をケアする人材が足りなければ、介護の充実はおぼつかない。
また、厚労省は高齢者が住み慣れた地域で最期まで暮らす「地域包括ケア」で在宅中心の介護を推進しており、政府内にも整合性を疑問視する声がある。