親には「きつい夏休み」 香山リカのココロの万華鏡
その他 2015年9月8日(火)配信毎日新聞社
小中学校や高校の夏休みが終わった。先に発表された内閣府の調査で、18歳以下の自殺人数を日付別に分析したところ、9月1日が突出して多いことがわかった。不登校の問題を扱うNPO法人などが「学校に行くのがつらいなら休んで」などと呼びかけていたが、2学期の始まりは一部の子どもにとっては苦痛でしかないのかもしれない。
診察室では逆に、とくに子どもを持つ女性から「2学期が始まりほっとした」という声が聞かれることがある。わが子がきらいなわけではない。一生懸命に育児にも取り組んでいる。ただ、夏休み中の子どもは朝食もいつも以上にしっかり食べ、さらに昼食、部活や塾に出かける場合はお弁当も用意しなければならない。うつ病などの不調を抱える場合にはそれがとても負担になるのだ。
ある女性患者さんが「先生、知ってますか」と教えてくれた。最近は子どもの宿題の採点、いわゆる「丸つけ」を保護者に行わせる学校が増えているのだという。その人も夏休み後半は「夏休み学習帳」の採点に追われ、ヘトヘトになったそうだ。「いま病気治療中なので、と先生に申し出れば免除されたのでは」ときいたが、「きっと無理ですよ」と力なく笑うだけだった。
さらに、子どもの「夏休み自由研究」のために体調の悪さを押して家族旅行に出かけた、という男性もいた。「自宅でできる自由研究もあるでしょう」とのんきに言う私に、うつ病のその男性は「それじゃ息子がかわいそう。外国の遺跡めぐりをする子どももいるのに」とあきれた顔をした。
繰り返すが、この人たちは決して「親失格」などではなく、ひと一倍、愛情を注いで子育てをしている母親、父親だ。だからこそ、一生懸命、子どもの夏休みを充実したものにしてあげようとし、学校から求められていることに応えようとする。しかし、人や家庭にはそれぞれの事情や体調があり、すべてを一律にこなせるわけではない。もちろん、子どもはそれをわかってくれるはずだし、学校にも丁寧に説明すれば、「それでも無理やりやってください」とは言わないだろう。ただ、「なるべくみんなと同じように」と考える親たちはそれも言い出せずに、“きつい夏休み”を送ってきたのだ。
9月になり、今年は子どもたちは元気に登校を再開しただろうか。もし、夏休みで疲れきった保護者たちがいるとしたら、少しゆっくり休んでほしいと思う。(精神科医)
その他 2015年9月8日(火)配信毎日新聞社
小中学校や高校の夏休みが終わった。先に発表された内閣府の調査で、18歳以下の自殺人数を日付別に分析したところ、9月1日が突出して多いことがわかった。不登校の問題を扱うNPO法人などが「学校に行くのがつらいなら休んで」などと呼びかけていたが、2学期の始まりは一部の子どもにとっては苦痛でしかないのかもしれない。
診察室では逆に、とくに子どもを持つ女性から「2学期が始まりほっとした」という声が聞かれることがある。わが子がきらいなわけではない。一生懸命に育児にも取り組んでいる。ただ、夏休み中の子どもは朝食もいつも以上にしっかり食べ、さらに昼食、部活や塾に出かける場合はお弁当も用意しなければならない。うつ病などの不調を抱える場合にはそれがとても負担になるのだ。
ある女性患者さんが「先生、知ってますか」と教えてくれた。最近は子どもの宿題の採点、いわゆる「丸つけ」を保護者に行わせる学校が増えているのだという。その人も夏休み後半は「夏休み学習帳」の採点に追われ、ヘトヘトになったそうだ。「いま病気治療中なので、と先生に申し出れば免除されたのでは」ときいたが、「きっと無理ですよ」と力なく笑うだけだった。
さらに、子どもの「夏休み自由研究」のために体調の悪さを押して家族旅行に出かけた、という男性もいた。「自宅でできる自由研究もあるでしょう」とのんきに言う私に、うつ病のその男性は「それじゃ息子がかわいそう。外国の遺跡めぐりをする子どももいるのに」とあきれた顔をした。
繰り返すが、この人たちは決して「親失格」などではなく、ひと一倍、愛情を注いで子育てをしている母親、父親だ。だからこそ、一生懸命、子どもの夏休みを充実したものにしてあげようとし、学校から求められていることに応えようとする。しかし、人や家庭にはそれぞれの事情や体調があり、すべてを一律にこなせるわけではない。もちろん、子どもはそれをわかってくれるはずだし、学校にも丁寧に説明すれば、「それでも無理やりやってください」とは言わないだろう。ただ、「なるべくみんなと同じように」と考える親たちはそれも言い出せずに、“きつい夏休み”を送ってきたのだ。
9月になり、今年は子どもたちは元気に登校を再開しただろうか。もし、夏休みで疲れきった保護者たちがいるとしたら、少しゆっくり休んでほしいと思う。(精神科医)