ご近所のお医者さん:犬・猫由来の新感染症=日野病院(日野町) 玉井嗣彦名誉病院長 /鳥取
2019年4月24日 (水)配信毎日新聞社
前回、本欄で紹介した犬・猫由来の新感染症であるカプノサイトファーガ属菌によるものは、現在、保健所等への感染症法に基づく届け出は不要です。しかし、口腔(こうくう)内常在菌として、国内の犬の74~82%、猫の57~64%が、3種の属菌の一つであるカプノサイトファーガ・カニモルサスを保菌しているデータがあります。同様にカプノサイトファーガ・サイノデグミの保菌率は犬86~98%、猫84~86%です。カプノサイトファーガ・カニスは近年報告された新菌種のため、現在調査中です。
いずれにしても、犬・猫の保菌率が高いことから、全ての犬や猫が保菌していると考えた方が良いでしょう。なお、これらの菌は犬や猫の口腔内に常在している菌ですので、犬や猫は保菌していても症状は示しません。
飼っている犬や猫の保菌状況を検査できますか、また、菌の排除は可能ですかという問い合わせがありましたが、犬・猫の保菌検査に対応している民間検査機関はありません。本菌は犬や猫の常在菌ですから、排除することはできません。従って、飼っている犬や猫が保菌していることを前提に、過度なふれあいは避けましょう。
本症は主に犬や猫による咬傷(こうしょう)・掻傷から感染しますが、傷口をなめられて感染した例も報告されています。これまで、ヒトからヒトへの感染の報告はありません。
潜伏期間は、1~14日(多くは1~5日)で、発熱、倦怠(けんたい)感、腹痛、吐き気、頭痛などを前駆症状として発症し、重症化した例では敗血症が最も多く、その約26%は亡くなるとされています。
診断上、血液培養が行える検査施設であれば、菌の分離及びカプノサイトファーガである可能性が高いことを確認することは可能です。ただ、生育が遅い菌であり、分離・同定に一定程度の時間を要することから、必要な治療は菌の同定を待たずに始めることになります。その際、犬や猫の咬掻傷歴を伝えることはとても重要です。
本症が疑われた場合には、患者さんの臨床所見に応じて、早期に咬傷に対する抗菌薬としては、ペニシリン系の他、テトラサイクリン系や第3世代セフェム系抗菌薬が一般的に用いられています。ただ、カプノサイトファーガ・カニモルサスには、専門的になって恐縮ですが、βラクタマーゼを産生する菌株もあるため、ペニシリン系の抗菌薬を用いる際にはβラクタマーゼ阻害剤との合剤が推奨されています。
ペットといえど、感染予防のためには、本感染症だけでなく、一般的な動物由来感染症予防の対応が必要ですが、このようなリスクを理解した上での可愛がりようが必要です。
2019年4月24日 (水)配信毎日新聞社
前回、本欄で紹介した犬・猫由来の新感染症であるカプノサイトファーガ属菌によるものは、現在、保健所等への感染症法に基づく届け出は不要です。しかし、口腔(こうくう)内常在菌として、国内の犬の74~82%、猫の57~64%が、3種の属菌の一つであるカプノサイトファーガ・カニモルサスを保菌しているデータがあります。同様にカプノサイトファーガ・サイノデグミの保菌率は犬86~98%、猫84~86%です。カプノサイトファーガ・カニスは近年報告された新菌種のため、現在調査中です。
いずれにしても、犬・猫の保菌率が高いことから、全ての犬や猫が保菌していると考えた方が良いでしょう。なお、これらの菌は犬や猫の口腔内に常在している菌ですので、犬や猫は保菌していても症状は示しません。
飼っている犬や猫の保菌状況を検査できますか、また、菌の排除は可能ですかという問い合わせがありましたが、犬・猫の保菌検査に対応している民間検査機関はありません。本菌は犬や猫の常在菌ですから、排除することはできません。従って、飼っている犬や猫が保菌していることを前提に、過度なふれあいは避けましょう。
本症は主に犬や猫による咬傷(こうしょう)・掻傷から感染しますが、傷口をなめられて感染した例も報告されています。これまで、ヒトからヒトへの感染の報告はありません。
潜伏期間は、1~14日(多くは1~5日)で、発熱、倦怠(けんたい)感、腹痛、吐き気、頭痛などを前駆症状として発症し、重症化した例では敗血症が最も多く、その約26%は亡くなるとされています。
診断上、血液培養が行える検査施設であれば、菌の分離及びカプノサイトファーガである可能性が高いことを確認することは可能です。ただ、生育が遅い菌であり、分離・同定に一定程度の時間を要することから、必要な治療は菌の同定を待たずに始めることになります。その際、犬や猫の咬掻傷歴を伝えることはとても重要です。
本症が疑われた場合には、患者さんの臨床所見に応じて、早期に咬傷に対する抗菌薬としては、ペニシリン系の他、テトラサイクリン系や第3世代セフェム系抗菌薬が一般的に用いられています。ただ、カプノサイトファーガ・カニモルサスには、専門的になって恐縮ですが、βラクタマーゼを産生する菌株もあるため、ペニシリン系の抗菌薬を用いる際にはβラクタマーゼ阻害剤との合剤が推奨されています。
ペットといえど、感染予防のためには、本感染症だけでなく、一般的な動物由来感染症予防の対応が必要ですが、このようなリスクを理解した上での可愛がりようが必要です。