新型コロナワクチン「1日最大100人」、クリニックでも可能
2021年5月15日 (土)配信河内文雄(医療法人以仁会理事長)
ゴールデン・ウイーク明けから本格化している、新型コロナウイルス感染症の高齢者向けのワクチン接種。かかりつけ医を持つ住民にとっては、身近な診療所での個別接種を希望する例は少なくない。予約から接種後の健康観察までワクチン接種に取り組むハードルはあるが、多くの診療所がそうしたニーズに積極的に応えている。
その一つが、5月12日から接種を開始した、医療法人以仁会稲毛サティクリニック(千葉市稲毛区)。現在1日100人の接種を行っている。理事長の河内文雄氏に現在の取り組みをご寄稿いただいた。
当院のご紹介
当院は、JR稲毛駅前にある「イオン稲毛」の店内にあります。1日当たりの外来患者数は、平日は100~120人。医師は常時2人、看護師は常勤2人、非常勤3人、事務は常勤3人、それ以外に本部2人という体制です。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大以降、「発熱外来」を設け、積極的に発熱患者さんを診察してきました。COVID-19の検査は、PCR検査、抗原定性検査のほか、自費で抗体検査もできる体制を整えています。ゴールデン・ウイーク明けの1週間でも、計4人のCOVID-19陽性患者を診ました。
なぜ個別接種に取り組むのか?
これまで当院では、季節性インフルエンザのワクチンは、毎シーズンコンスタントに約5000人に接種しています。従って地域住民のかかりつけ医としての役割を果たす当院にとって、COVID-19ワクチンの個別接種に取り組むことは自然な流れでした。接種体制も、インフルエンザワクチンの体制とほぼ同じで、健康観察用の椅子を用意したくらいです。
我々かかりつけ医がCOVID-19ワクチンの個別接種を行うメリットとして、▽日頃から顔見知りの職員が対応するため、患者さんの安心感につながる、▽インフルエンザワクチンなどの接種歴を把握している、▽日常診療で基礎疾患、体質などを把握している、▽アクシデントが起こってもすぐに対応できる、▽足腰が弱い高齢者が遠方まで行かなくとも済む――などのメリットがあります。今後も、ワクチン接種の主体となるべきと考えます。
予約は電話ではなく受診時に
COVID-19ワクチンの予約は、4月21日から開始しました。予約が殺到して電話がつながりにくくなることを懸念して、かかりつけの患者さんが受診した際に接種日を決めてもらったり、来院の上で接種枠を確保してもらうことを原則としています。従って、現時点ではかかりつけの患者さんが主体ですが、当院のかかりつけではないご家族を排除し難いという現実もあります。
千葉市では年齢別に予約開始日を設定していますが(80歳以上は4月21日から、75歳以上は5月1日から、70歳以上は5月13日から、65歳以上は5月21日から)、患者さんに何度も来院してもらうわけにはいきませんので、4月21日以降来院した65歳以上の希望者には、予約開始日にかかわらず枠を取りました。
1日の枠は100人。当初は午前と午後に分けて予約を取っていたのですが、どうしても職員の拘束時間が長くなります。今後は午前のみに切り替え、原則、午前10時~午前11時の間に来ていただき、順次接種を行う予定です。予約は大元の台帳に日時別、50音順に記載し、当日ワクチン接種に関わるスタッフ分をコピーして渡します。
既に3週目までの1回目接種の分(1800人)の予約枠が埋まりました。続く3週間は2回目の接種となります。新規の予約は7週間目以降の接種分となりますが、それも半分くらい埋まっています。
高齢者への接種は、ファイザー社製の「コミナティ筋肉注射」。もっとも、配送が確定しているのは2週間目までの208バイアル(1バイアル6人分想定)だけです。それ以後は口約束のような状況で、行政の「大丈夫」という言葉を信じるしかありません。
受付、予診、接種、健康観察までの流れ
・受付:ワクチン接種の本人確認に職員1人(混んでいるときは2人)配置しています。
・予診~接種:本人確認が済んだら予診票を持って接種スペースに移動、医師による予診票のチェック、接種是非の判定、医師の署名を行ったのちにワクチン接種。その際の介助は、導入・腕まくり・次の接種者の準備に1人、接種場所へのシール貼付・書類渡し・患者誘導に1人、合わせて原則2人体制です。かかりつけの患者さんが大半のため、受付から経過観察に入るまで、被接種者1人当たり数分で完了します。
・健康観察:クリニックの前にある専用の長いす(12席分)で副反応チェックを行いますが、その際に予診票へのワクチンロット番号とクーポン券の貼り付けを、監視担当のナースが実施します。原則15分の経過観察の後、異常が無ければ帰宅してもらいます。
当院には日頃から、「院内救急車」と呼ばれる救命救急処置対応のカートがあり、その中にアドレナリンやステロイドなど緊急対応時に必要な薬剤のほか、挿管セットを一通り揃えてあります。
5月12日から5月14日までの3日間で、約300人に接種しましたが、今のところ「院内救急車」を使ったケースはありません。
通常診療と並行してワクチン接種を実施
当院の広さは、60坪。一般診療、発熱外来、ワクチン接種の3つの作業について、動線を分け、同時進行で実施しています。医師は常時2人で、一人がワクチン接種を行う際には、もう一人が一般診療と発熱外来を担当します。ワクチン接種は早く終わりますので、終わり次第、発熱外来を手伝います。
COVID-19ワクチン接種開始に当たり、5月9日にシミュレーションを実施しましたが、あとはぶっつけ本番です。一連の接種フローには、結構無駄な業務もあったので、例えば待ち時間の目安を個別に書いて渡していましたが、接種スペースでは口頭で説明し、経過観察のスタッフに待ち時間のチェックをしてもらうなど、いくつかの手順を簡素化しました。また、先ほども触れましたが、予約の入れ方もいまだ試行錯誤の段階で、いかにスムーズかつ効率よく接種を行うか引き続き改善していきます。
確実なワクチン配送が課題、確定は2週目まで
予約から当日のワクチン接種まで、いろいろ手間はかかります。もっとも、準備のハードルが特段高いとは思わず、ワクチン接種はかかりつけ医の役割だと考え、毎シーズン実施している季節性インフルエンザのワクチン接種の延長線上で実施しています。
接種後にはv-sysへの入力も必要で、毎日事務長が居残り業務でやっていますが、今のところ眼が吊り上がってはいません(笑)。
ただ唯一かつ最大の問題は、ワクチンの配送です。前述のように確定しているのは2週間目までの208バイアルだけです。予約の変更・キャンセルには大変な手間がかかります。それを避けるためにも、配送量の早めの確定を期待しています。