首相、五輪へ解除ありき 接種一本やりに危うさ 「表層深層」検証・緊急事態から重点措置へ
行政・政治 2021年6月18日 (金)配信共同通信社
菅政権が9都道府県で新型コロナウイルス緊急事態宣言解除に踏み切った。うち7都道府県でまん延防止等重点措置へ移行。五輪シフトで突進する菅義偉首相の強い意向が透ける。ただ「結論ありき」で危うさをはらむのは否めない。ワクチン接種でリバウンドを抑える一本やりの戦略は変わらず、専門家は東京五輪には間に合わないと指摘する。舞台裏を検証した。
▽死守
「7月の感染状況を見ないと決められないだろ」。20日の宣言期限を控えた今週前半の官邸。首相は加藤勝信官房長官から五輪期間中に重点措置を適用する案を説明されると、最終決定は先でいいとして判断を留保した。
宣言解除後の重点措置への切り替えは、約1カ月前からの「既定路線」(官邸筋)。5月後半にまとめた「6月以降の対策案」と題する内部文書が首相の覚悟を物語る。既に「重点措置に移行する」と明記されていた。
だが五輪中も重点措置を続ければ「世論の反発で、観客入り開催に影響が出かねない」(首相周辺)。「五輪前提」の旗の下、重点措置は開会式から約10日前の7月11日までとする方針が固まっていった。
関係閣僚との16日の会合でも、首相の五輪死守への強い思いがにじんだ。首相は7月以降に「感染者が再び増えたら、また宣言を出すのは仕方ない」と吐露。五輪中止は絶対に考えないとの意思表示だった。出席者の一人は「宣言下でも無観客などの形で五輪が開かれる」と見立てる。
ただ首相にとってワクチン接種の加速化で夏場の感染再燃を回避するシナリオが最善だ。周囲には「ワクチンが行き渡れば医療は逼迫(ひっぱく)しない」と強気の言葉を繰り返す。各社世論調査で五輪開催に否定的な回答が多いが、政府高官は「ワクチンが普及すれば賛否は逆転する」と息巻く。
▽マグマ
「本当に解除でいいのか」。人出増が続き、リバウンドの兆候があるとの分析が出始めた東京。宣言期限が近づくにつれ、専門家の間で不安の声が強まっていた。17日の基本的対処方針分科会では、それがマグマとなって噴き出した。
ワクチン接種が進んでも、五輪期間の7、8月に流行が再拡大するとの研究結果が背景の一つにある。だが飲食店が売り上げ減で悲鳴を上げる中、いったん解除して「息継ぎ」(関係者)する必要があるとの意見も出され、最終的に押し切られた形となった。
ワクチンを万能視する首相の姿勢について、専門家の中では疑問視する向きが少なくない。高齢者中心の現在の進捗(しんちょく)状況では、7、8月に「集団免疫(が実現する)との考え方はとても早すぎる」(新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長)との声がくすぶる。
▽悪夢
五輪の主舞台となる東京。都側は宣言の当面継続を念頭に強い措置を求めた。恐れるのは、3月に2回目の宣言を解除してから約1カ月後に3回目の宣言発令に追い込まれた「悪夢」の再来だ。「ここで緩めるとリバウンドする」。こうした小池百合子知事の訴えとは逆に、政権は他の解除地域との整合性を重視。重点措置へ移行する意思を崩さなかったという。
政権は経済への影響を考慮し、飲食店での酒類提供制限の緩和を打ち出した。都側も経済と感染再拡大とのジレンマで揺れ続ける。ある都幹部は最も避けたい筋書きをあえて口にした。「一番怖いのは五輪開幕直前の感染再拡大だ」