職域接種の医師、看護師が不足しています!!!
職域接種の人探しをしてみて分かったこと
オピニオン 2021年6月20日 (日)配信神田橋宏治(医師、DB-SeeD社長)
さて45回目です。
5月29日に続いて新型コロナワクチン接種の話題です。僕自身空いた時間をほとんど新型コロナワクチン接種に費やしていることは前回書きました。産業医事務所を立てて産業医業務をやっていると、クライアント先への訪問時間以外、資料を作ったり、調べ物をしたり、産業医先への提案を書き上げたりすることに使う時間を日中に確保してあります。この日中の時間を夜に回して、自治体接種に力を注いできました。
さらにここに来て思った通り、職域接種が始まりました。会社が自分の会社の従業員や家族、取引先の従業員などに接種させてもよいという決まりです。ただし、接種を受ける人を1000人集めないといけません。始まる直前の6月4日に経団連主催のzoom講演会があったので僕も参加して、得た情報を自分のクライアント先(中小企業が多いです)にその日の夜に流すとともに、概要をSNSでも公開しました。報道によれば受付初日だけで400企業以上から申し込みがあったとのことなので、準備しているところは相当以前から用意周到に準備していたのだろうなと思っております。
すると産業保健絡みの知り合いから、次々と予診に必要な医師募集案件が来ました。東京の都心で1日13万~15万円で接種担当医師を募集しているのだがいない。少しでもいいので探すのを手伝ってくれないか、みたいな案件が複数です。ご存じのようにフリーで動ける医師というのは数が限られています。僕のように事務所を持って産業医をやっている友人が200人ほどいるのでそこで募集をかけてみました。
1件目はそのような方々で充足したのですが、既に2件目で全く足りなくなりました。土日はできるのだが平日は無理という感じです。1日15万円というのは、他のバイトから見ればおそらく倍近い金額です。それでも人が集まらない。なんとか、産休や育休中の医師のメーリングリストに流していただくことができてそのおかげで充足しました。さらには勤務医の先生でも兼業届を出して、有休を取ってワクチン接種に応募してくださる先生もいらっしゃいました。やはりそういった忙しい方々ですらこの事態を憂えて積極的に応募してくださるのを見ると、医師という仕事を選んでよかったなという気持ちになりました。ちなみに、仲介役を果たす僕や僕の会社には一円の収入にもならないのです。ですが少しは社会貢献ができたんじゃないかなという自己満足と言えば、その通りかもしれませんが。
ところでワクチン接種を広めるために無料で力を尽くそうと思ったのには、2人の先生の影響が大きいのです。一人は僕が10年以上働いている病院の院長です。都内の50床弱の小さな病院で決してすごく儲かっているとは言えません。しかし彼は地域接種が始まったとたん、地域の高齢者にワクチンを接種することがこの病院の現在のミッションだと決め、最初期から稼ぎ頭である自分の外来を縮小し、病院の総力を挙げて接種を始めました。まだ1接種2070円の頃ですから大赤字覚悟です。
もう一人はSNSで知り合いになった検疫官の先生です。彼は毎日毎日入国者の検疫を、時には徹夜で行うという仕事をする一方で、日夜ワクチンの知識をブラッシュアップして、無料で(!!!)20回にも上ろうかという講演会を積極的に引き受けておられました。
彼らの生き方を見て、まだまだ患者を一人でも減らすこと、日本の経済を少しでも良くして人々の暮らしを良くできることがあるのではないかと思って、老体(中年体?)に鞭打つことに決めたというのが僕の本音です。彼らに感謝します。
ところで一方では話を流したクライアント先からは、数件自分のところでも職域接種をしたいのだが、という話も来ました。なかなか100人、200人規模のところでは難しいなと思いながら連携できる機関を探したりもしていたのですがうまくいきません。そんな中、産業医仲間であり、プログラマーでもある高田英明先生(やさしさと医療のソフトウェアの研究室)は自分のクライアント会社をそれぞれまとめて、複数個所で職域接種の体制を自ら作り上げたり、クライアントの意向であちこちに頭を下げたりして実現させておりました。同様の先生は他にも何名かおられました。産業医としての自分の実力が未熟であることを思い知り、今色々と教わっているところです。
僕個人的には一刻でも早く、一人でも多くワクチンを届けることが今の日本の最大課題の一つであると思っています。どうやらワクチンの数そのものは足りてきており、接種するところがボトルネックみたいです。僕自身は準夜勤でも、なんなら工場のような24時間勤務のところなら徹夜ででも話が来ればワクチン接種に赴くつもりです。もし勤務医の方で拙文を読んでいただいて有休を取ってでも近隣のワクチン接種に赴こうという方が一人でもいらっしゃれば、この文章を書いた甲斐があると思っています。
今後の課題は、何となくワクチンを打たない人、つまりワクチンを打った方がいいように思ってはいるが、わざわざ予約を取ることより優先したいことがある人。つまりは学生さんや若手の会社員がどう気軽にワクチンを打てるような体制ができるかにあると予想しているのですがこの話はまた機会があれば、ですね。
神田橋宏治(かんだばし こうじ)
1967年生まれ、1992年東京大学理学部数学科卒、1999年東大医学部医学科卒。東大病院内科で研修の後、東大第一内科入局、血液・腫瘍内科入局。都内病院で研修後、2008~2011年東大病院無菌治療部助教。2011年からとしま昭和病院勤務、2015年合同会社DB-SeeD設立。