VRでウイルス拡散体験
岡大ソフト開発 適切な消毒確認
岡山大学の五福明夫教授(システム工学)らの研究チームは、仮想現実(VR)の技術を活用し、ウイルスの拡散状況を疑似体験できるソフトを開発した。小さくて目に見えないウイルスをVR技術で再現し、適切な方法で消毒できているかなどを確認できる。(藤沢一紀)
感染症を引き起こす新型コロナやインフルエンザ、ノロなどのウイルスはナノ・メートル(ナノは10億分の1)サイズで、通常は電子顕微鏡でなければ見えない。医療現場では、感染症の患者が使用したベッドや病室の消毒が行われているが、肉眼で確認できないため残留していることに気付かず、院内感染につながるケースが発生している。
五福教授は同大病院の萩谷英大医師と協力し、市販のVRシステムを使って、コンピューターグラフィックスでウイルスや患者、医療従事者の手などを再現。小さな点として仮想表示されたウイルスを、消毒液を染み込ませた布や、スプレーで取り除く疑似体験ができる。
開発したソフトでは、引き戸を開け、病室に入る場面からスタートする。患者が横たわるベッドに近付き消毒を行うが、この際、ウイルスに触れると、一部は手に付着。その手で病室内の物に触るたびにあちこちにウイルスが広がり、感染拡大の原因となることがわかる。患者の呼気から排出された直後で、丁寧に拭き取らないと消毒できない感染力が強いウイルスも再現できる。
ソフト開発は、萩谷医師の相談を受け、新型コロナウイルス感染拡大の第2波が訪れた昨夏に始まった。今年3月に完成し、5月上旬に同病院の医療従事者が体験したところ、「消毒したつもりでも、ウイルスがまだ残っていた」などの感想が寄せられたという。
チームは今年夏頃、同大の医学部の学生らを対象にソフトを使った病室清拭せいしきの特別研修を実施することも計画している。また、点滴バッグやガーゼ、おむつの交換など、病院内で日常的に行われる場面を想定し、体験できるようさらに開発を進めている。
五福教授は「新型コロナの流行は、消毒など基本的な感染対策の大切さを再認識させた。ソフトの活用で普段から行っている対策の足りない点に気付き、行動の改善に役立てば」と話している。
原発・防災・手術などで活用
様々な分野でVR技術の活用は進む。
日本原子力研究開発機構は廃炉技術の研究開発拠点「楢葉遠隔技術開発センター」(福島県)に、東京電力福島第一原子力発電所1~3号機の内部を疑似体験できるシステムを設置している。実際の現場は放射線量が高く、人が近づけない場所がある。疑似体験することで作業手順を事前に確認することができる。
東京消防庁は火災や地震、風水害を体験できるVR防災体験車を導入。岡山市消防局は岡山大学などと協力して、火災に遭遇した人が取る避難行動をVRで分析する研究を行っている。このほか、人体を再現して手術の模擬訓練ができたり、野球のバッティング練習ができたりするものもある。