今冬にも新型コロナウイルス感染症とインフルエンザが同時に流行することに備え、日本感染症学会は8月3日、一般クリニックや病院の外来診療向けに診断、治療についての提言を発表した。臨床症状だけで両疾患を鑑別診断するのは難しいと指摘。新型コロナが流行している場合には、「インフルエンザが強く疑われる場合を除き、可及的に両方の検査を行う」ことなどを推奨した。特に、新型コロナ流行地域では冬季に発熱や呼吸器症状を呈する患者を診る場合、インフルエンザと 新型コロナの「両方の可能性を考える必要がある」としている。
提言では、今冬にも新型コロナウイルスの大流行が起こることが予測されていると指摘。「特に、インフルエンザの流行期と重なることにより、重大な事態になることが危惧される」と警鐘を鳴らした。さらに、中国からブタ由来の新型インフルエンザが報告されており、今後の動向に注意する必要性を指摘した。
◎臨床症状のみでのインフルエンザ診断「新型コロナ見逃す恐れ」
新型コロナウイルス感染症について提言では、無症状でもウイルス量が多いなどの特徴のため、症状から診断、隔離することは困難と指摘。発熱を指標に診断や隔離が可能なインフルエンザとは違いがあると指摘した。そのうえで、外来診療で、確定患者と明らかな接触があった場合や、インフルエンザの突然の高熱発症や、新型コロナの味覚・嗅覚障害などがない場合、「臨床症状のみで両社を鑑別することは困難」と指摘した。新型コロナとインフルエンザを合併する患者も報告されており、さらに鑑別診断を難しくしている状況にある。
臨床症状に基づいた診断のみで、インフルエンザの治療を行うと、新型コロナに感染していても「見逃してしまう恐れがある」と指摘。「原則として、新型コロナの流行がみられる場合には、インフルエンザが強く疑われる場合を除いて、可及的に両方の検査を行うことを推奨する」とした。検体の同時採取も推奨した。
◎14日以内に感染経路が不明の新型コロナ発生例がある場合は発熱全例に検査を
流行に地域差があるなかで、流行レベルを4つのカテゴリーを示した。例えば、医療機関のある医療圏で、「14日以内に感染経路が不明の新型コロナ発生例がある(クラスター事例を含む)」場合は、発熱がある場合は前例に新型コロナの検査を行うことが望ましいとしている。一方で、医療圏だけでなく、都道府県全体で14日間以内に新型コロナ患者が発生していない場合は、原則として新型コロナの検査は不要としている。このほか、濃厚接触の有無や14 日以内の流行地域への移動歴などを考慮することを求めている。
また、新型コロナの検査の供給量が限られていることから、「流行状況により、先にインフルエンザの検査 を行い、陽性であればインフルエンザの治療を行って経過を見ることも考えられる」としている。
◎今冬はインフルエンザワクチン接種を 医療関係者や高齢者、小児に「強く推奨」
治療については、インフルエンザの早期診断・治療を推奨。新型コロナとインフルエンザの同時流行を「最大限に警戒すべき」として、「医療関係者、 高齢者、ハイリスク群の患者も含め、インフルエンザワクチン接種が強く推奨される」とした。小児についても接種を強く推奨した。現在開発中の新型コロナのワクチンも臨床に導入された場合は医療従事者やハイリスク者を中心に、接種対象者を規定することが必要としている。
小児については、「小児では発熱性疾患が多く、その他の重症疾患を見逃す可能性がある」と注意喚起した。また、「神経系疾患、遺伝性疾患、先天性心疾患などを持つ等の小児は重症化しやすいので、経過を慎重に観察することが必要」と指摘した。欧米で報告された10 歳前後 に多く見られる川崎病類似の症候群で重症化例が多いことも紹介。 感染から、25 日後(中央値)に発症するのが特徴で、発熱や消化器症状、CRP 高値のほか、半数に発疹、結膜充血、ショック、一部の症例に冠動脈拡張または動脈瘤が認められるという。