2800体以上の遺体向き合い30年超 82歳の警察医、刺殺体に心痛めたことも
京都府久御山町の内科医院で患者を診察する傍ら、勘田紘一さん(82)は京都府警城陽署の警察医として30年以上、死体検案を担ってきた。今春の叙勲では、長年にわたる警察への協力で「瑞宝双光章」を受章した。「亡くなった人にも生活があった。検視も生きている人を診るのも同じ」との信念で、人の生と死に向き合う。
徳島県出身。少年時代は学校が嫌になり、山や川の自然を歩き回って過ごした。その結果連れて行かれた病院の診断が「自分の気持ちと違った」といい、小学4年で医師を志した。地元の中高で学び、大阪医科大(現・大阪医科薬科大)の医学部に進学。大阪の病院での勤務を経て、久御山町で内科医院を開業した。
城陽署が開設された1991年、死因不明の遺体を調べて検視に協力する、警察医を引き受けた。事件性の有無を調べるのに欠かせない存在だ。交通事故死や突然死など、これまで検視で関わった遺体は2800体以上。無残な刺殺体に心を痛めたこともあった。「核家族化が進んだためか、最近では独居で発見が遅れてしまう人もいる」と話す。
警察の調べも踏まえ、医学的に死因の判断を下すが、特定に至らず歯がゆい思いをすることもある。それでも、「まわりとどんな付き合いがあったのか、その人が生きていた時を一生懸命想像する」と寄り添う姿勢を忘れない。勘田さんにとって、検視は診察の延長だという。
6月上旬、同署で勲章の伝達式に臨んだ。数日に1度は検視で署を訪れるため、よく知った警察官たちに見守られる中、「恥ずかしい」と謙虚に記念品を受け取った。
多忙な日々だが、内科の診療の合間に、ロードバイクで木津川沿いを約30キロ走って心身をリフレッシュしている。