新型コロナ:新型コロナ マスク緩和、首相前のめり 経済回復へ 自ら外す場面
2022年10月17日 (月)配信毎日新聞社
新型コロナ:新型コロナ マスク緩和、首相前のめり 経済回復へ 自ら外す場面
岸田文雄首相が、新型コロナウイルス対策のマスク着用ルールの緩和に前のめりになっている。一方で、感染再拡大を警戒する厚生労働省などは慎重で、政府内で足並みが乱れている。
首相は6日の参院本会議で「マスク着用のルールを含めた感染対策のあり方を検討する。科学的な知見に基づき世界と歩調を合わせた取り組みを進める」と述べた。海外では多くの国でマスク着用義務を大幅に緩和しており、首相の答弁はマスクを外す機会をさらに増やすことが念頭にあるようだ。翌7日には、首相側近の木原誠二官房副長官が記者会見で「首相の発言の方針に沿って鋭意検討していく。屋外・屋内問わず全体を整理する」と明言した。
◇政府内は慎重論
首相答弁で政府内には困惑が広がった。「何も聞いてない」。新型コロナ対策を担う内閣官房や厚労省の幹部らは口をそろえた。「新しいルールを作る話はない」と繰り返し、火消しに追われた。
政府が5月に発表したマスク着用に関する見解では、屋外と屋内に分けて整理した。屋外は、周りの人と2メートル以上を目安に距離が取れれば、会話の有無を問わず不要だが、距離が取れずに会話する場合は必要となる。屋内は、距離が取れて会話しない場合は不要だが、距離が取れない、または会話する場合は必要だと定めた。夏を前に熱中症を防ぐため、屋外での着用を減らす狙いがあった。
政府にとって、マスクの議論は鬼門だ。5月に見解を公表した際は「わかりにくい」といった批判が国民から相次いだ。内閣官房幹部は「マスクの方針を示しても批判されるだけ。触れないのが一番だ」と語り、政府は発信せず、現行ルールを踏まえて個人の判断に任せる方向だった。この幹部は、日本では感染によって抗体を持つ人の割合が欧米よりも格段に低く、感染拡大前からマスク着用に慣れていたこともあり「海外のように一斉に外すことにはならない」と分析する。
◇同時流行を警戒
マスク緩和に慎重なもう一つの理由は、今冬に新型コロナと季節性インフルエンザが同時流行することを警戒するためだ。現行のマスク着用ルールを緩和するなら、屋内でマスクを外す機会が増えることが想定される。同時流行に備えるさなかに、屋内での着用緩和を打ち出すことについて、別の幹部は「考えられない」と一蹴する。
首相はマスクを外す場面を徐々に増やしている。三重県鈴鹿市で9日にあった自動車F1シリーズの日本グランプリでは、屋外の式典でマスクを外してあいさつ。10日に鹿児島県で実施した屋内での車座対話では、アクリル板越しにマスクをせずに参加者と会話した。政府関係者によると、鹿児島県での対応は、屋内でも感染防止対策を行っているため容認されるという。加藤勝信厚労相は11日の記者会見で、首相の対応を「大変大きな意義がある」と歓迎した。今後は首相が住む首相公邸から官邸に入る際に、マスクを着けないことも検討しており、ルール緩和につなげる思惑が透ける。
首相はなぜこのタイミングでマスク着用緩和を持ち出したのか。3日の所信表明演説でも、ワクチン接種の促進など当面の新型コロナ対策を説明した後、「マスクについては屋外は原則不要だ」と呼びかけた。5月の政府見解に沿った内容だが、今も屋外でマスクを着用する人が大半で、ルールが浸透していないことへの不満がにじんだ。
首相は、経済社会活動と感染防止を両立させる「ウィズコロナ」に意欲を示してきた。マスク着用緩和も両立を促進する一環とみているようだ。政府は11日に水際対策を大幅に緩和した。内閣支持率が急落し、厳しい政権運営を迫られており、訪日外国人客(インバウンド)需要の回復に期待を寄せる。海外からの旅行者受け入れを加速させるためにも、マスクルールの周知、見直しを重視しているとみられる。
とはいえ、感染再拡大の恐れは残っており、いったん緩和したマスク着用ルールを、再び厳格化することは容易ではない。ルール見直しには慎重な判断が求められ、しばらく政府内での綱引きが続きそうだ。【中村紬葵】