マスクで保育 不安と葛藤…子の異変気付きにくい 感染したら責められる
2022年11月12日 (土)配信読売新聞
マスク生活が長期化する中、幼稚園などでは、マスク着用により、子どもの体調変化などに気付きにくいといった不安の声があがっている。感染予防のため、簡単には外せないという意見も根強く、葛藤を抱えながら模索を続ける現場を取材した。(山田朋代)
「今日は体操の日なので、マスクを外してお外に出ましょう」。10月中旬、茨城県日立市の「諏訪かおる幼稚園」で教諭が呼びかけると、子どもたちはマスクを外して、園庭に飛び出した。同園では、昼食と運動時以外は、ほとんどの子がマスク姿で過ごす。
そんな中、同園では昨年、マスク下で年中児がばんそうこうを口に含んでいたり、年少児がお弁当のソーセージを口に入れたまま帰宅したりといった事態が発生。園長の小野芳樹さん(50)は、「誤飲の可能性もあり、危険を感じた。マスクがあると、子どもの異変に気付きにくい。コロナ禍の保育の困難さはどの園でも感じているはず」と話す。
同園は5月、県内の私立幼稚園など186園にアンケート調査を行い、教諭ら153人の回答を得た。「マスクをしていて保育の難しさを感じたことがあるか」の問いには、9割が「ある」と答えた。
調査結果は、7月下旬の同県私立幼稚園の研究会で発表した。回答には、「基礎疾患のある子どもの唇の色の変化に気付くのが遅れた」「マスクの中に少量 嘔吐おうと したが、気付かなかった」などの事例もあった。一方で、「集団感染が起きたら責められるのは保育者だ」「マスクなしの園生活に戻したいが踏み切れない」など、不安や葛藤を打ち明ける声も少なくなかった。
大阪市の認定こども園「あけぼのほりえこども園」では6月から「マスク自由化」に踏み切った。園内では子ども本人や職員の意向を尊重。9割以上がマスクを外している。
同園では、マスク生活になって以降、職員の表情や話をつかみ取れず、活動に入れない子や、子ども同士のささいなけんかが頻発。着用を任意にしてからは、指示を理解できる子が増え、子ども同士の関わりも活発になったという。
園長の安家力さん(41)は、「着ける、着けないの価値観が二分化する中、子どもの成長に何が大切か、議論を重ねた。互いの表情が読み取れる利点は大きい」と力を込める。
柔軟な対応を
京都大教授(発達科学)の明和政子さんによると、視覚や聴覚の情報を主に処理する脳の部分は就学頃までに成熟するため、乳幼児期に他者の多様な表情を見たり、まねたりする経験が重要だという。明和さんは、「感染が落ち着いている時はマスクを外し、再び流行すれば着用するなど、柔軟な対応があっていい」と強調する。
2歳以上の未就学児のマスク着用について国は、「一律の着用は求めない」との方針を示しているが、明和さんは、「園に任せるだけでなく、国は子どもの成長という長期的な視点から議論し、方向を示すべきだ」と指摘する。