葉梨氏発言に宗教2世は「軽く見られていたんだな」…死刑維持訴える団体「制度そのものを軽視」
2022/11/12 07:30
参院本会議で自身の発言について、頭を下げて謝罪する葉梨法相(手前)(11日午前、国会で)
死刑執行の職務を軽視するような発言をした葉梨法相が11日、更迭された。人の命を奪う究極の刑を巡る不適切な発言。急転直下の展開とはいえ、法務省の内部からも、当初は職にとどまる意向を示したトップをかばう声は聞かれなかった。犯罪被害者遺族らは「死刑制度に真剣に向き合う人が大臣を務めてほしい」と訴えた。
「国民の皆様や法務省職員に不快な思いをさせてしまった。おわびをし、一から政治活動をやり直す」
葉梨氏は11日午後5時頃、首相官邸で岸田首相に辞表提出後、そう謝罪した。
葉梨氏が「法相は朝、死刑のハンコを押し、昼のニュースのトップになるのは、そういう時だけという地味な役職だ」と発言したのは9日夜。当初は発言の撤回も辞任も否定する強気の構えだったが、この日は「用語の選び方は極めて不適切だった。私の至らなさだ」と約20分にわたって反省の言葉を続けた。
今回の発言は死刑への立場を超え、幅広い関係者が批判している。
死刑制度の廃止を主張する人権団体「アムネスティ・インターナショナル日本」の中川英明事務局長は「人間の生存権を奪う死刑の決断がそんなに軽いわけがない。法務省トップとして許されない発言だ」と断じた。
被害者を支援する立場から死刑の維持を訴える「犯罪被害者支援弁護士フォーラム」の高橋正人弁護士は「パフォーマンス的な発言で制度そのものを軽視している。死刑執行を一つの区切りだと考える遺族の感情を踏みにじった」と憤る。
身を削る思い
近年の死刑執行では、執行後の記者会見で法相が執行命令書に署名をした日を明らかにするケースもある。ある法務省幹部はその内容を基に「そもそも死刑執行日の朝にハンコを押すわけではなく、一定期間の厳密な検討を踏まえて事前に押されている」とあきれ、「あまりに不用意な発言で現場の士気が下がりかねない」と指摘。他の幹部は「今後の執行に影響が出ないか不安だ」と懸念した。
元裁判官の水野智幸・法政大教授(刑事法)は「裁判官は死刑判決を出す際、身を削る思いで悩みながら判断する。裁判員を務める市民も同じように悩むはずで、冗談の題材にすること自体が許せない。死刑には司法関係者だけでなく、被告やその家族、被害者らの切実な思いが詰まっているのだと想像力を働かせてほしい」と話した。
副大臣時代に関与
葉梨氏は8月に法相に就任した後、死刑の執行に携わっていないが、法務副大臣だった2018年7月には、オウム真理教の教祖・松本智津夫元死刑囚(執行時63歳)ら教団幹部13人の執行に関与している。
1995年3月の地下鉄サリン事件で夫の一正さん(当時50歳)を亡くした高橋シズヱさん(75)は取材に「死刑執行後は死刑囚の命が失われたことの重みや、その親の気持ちなどにも思いをはせた」と振り返り、「執行を軽く考えていたような発言に失望した」と語った。新たな法相には「情報公開の不十分さといった課題も含め、死刑制度に真剣に向き合ってほしい」と訴えた。
旧統一教会問題でも
葉梨氏は「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)を巡っても、「今回はなぜか旧統一教会の問題に抱きつかれて、私の顔もいくらかテレビに出るようになった」と発言した。被害救済に向けた関係省庁連絡会議の議長を務める立場だっただけに、親の信仰に苦しむ「宗教2世」も失望している。
両親が信者という東京都内に住む30歳代の女性は「公の場でおもしろおかしく話せるほど軽く見られていたんだなと感じた。必死の訴えが伝わっていなくて残念だ」と語った。
葉梨氏は14日、被害相談業務を開始する日本司法支援センター(法テラス)を視察する予定だったが、急きょ中止となった。