[コロナ警告]医療の狭間<3>厚労省 縦割りのツケ…「感染症」「医療体制」異なる所管
2022年11月13日 (日)配信読売新聞
対策を主導するのは政治家か、専門家か。国か、地方か。2020年からのコロナ禍は、そんな混乱から始まった。
医療分野での対策を担う厚生労働省内も同様だった。省内には「健康局」と「医政局」がある。本来、感染症対策は健康局。ところが一般病院を含め広く医療体制を所管するのは医政局だ。
「局が違えば別の省庁」(厚労職員)とされる巨大省庁。コロナ禍で最初に行われたのが二つの局の「壁」を取り払うことだった。
「健康局だけで対応できるのか」。国内初の感染者が確認された20年1月、省トップの号令で設置されたのが現在、庁舎2階の講堂にある「新型コロナウイルス対策推進本部」だ。多い時期は2局を中心に約500人が本部に詰め、PCR検査態勢の整備、クラスター(感染集団)対策、マスク調達、病床確保などに当たった。
「感染症対応はプレーヤーが複数の部署にまたがる。一堂に集まり対策を練る場ができたことは大きかった」。厚労省幹部は振り返る。
随所に弊害
ただし、本庁組織が一体化しても平時に「感染症」と「医療体制」を別々に所管していた弊害は随所に生じた。
感染症法では、コロナのような新興感染症の患者は原則、健康局所管の専門病院「感染症指定医療機関」で受け入れる前提だ。医政局所管の一般の病院の多くは、こうした患者を受け入れる想定はせず、他の患者との動線を分離する「ゾーニング」に配慮した設計に必ずしもなっていない。そのため、コロナ禍では全国の指定医療機関の感染症病床1888床(昨年10月時点)がパンクして一般病院が受け皿となった時、対応には時間が必要だった。
北大阪ほうせんか病院(大阪府茨木市)は第3波の昨年1月、コロナ患者を受け入れることを決断。しかし、ゾーニングには病棟の壁を壊し、新しい入り口を設ける必要があった。機器の調達も含め準備が整ったのは3月だ。
こうした事例は各地にあり、医政局の元幹部は「平時から設備の工夫などを求めることは、考えてしかるべきだった」と悔やむ。
想定甘く
コロナ患者を初期診断する診療所などの「発熱外来」の開設も同じ構図だ。
当初は、発熱患者は指定医療機関などで検査・診療することとされた。コロナ禍初期の「帰国者・接触者外来」が、それにあたる。
しかし、すぐに市中感染が広がり窓口が不足。一般の診療所にも、発熱外来の役割を担う「診療・検査医療機関」を開設するよう協力を要請した経緯がある。
しかも感染拡大に伴い、感染者への往診、健康観察など診療所の負担は増大した。東京都練馬区で調整にあたった区医師会の伊藤大介前会長(60)は「会員の平均年齢は60歳超。要請に応えるにも限界がある」と想定の甘さを指摘する。
新たな枠組み
感染症対策に一般の医療機関を活用せざるを得なくなる事態は、09年の新型インフルエンザ流行を機に作られた政府の「行動計画」で想定されていた。
また、厚労省の2局のうち健康局は、都道府県に感染症の「予防計画」を作成するにあたり、こうした事態を想定するよう求めた。
しかし、医政局が所管し、各地域の医療体制整備の方針となる「医療計画」にはなく、その結果、現場での具体的な手順は定まらないままコロナ禍に至った。健康局の元幹部は「当時、パンデミックは現実味がなかった上、『感染症は健康局』という意識で自局の中で抱え込んでいた」と明かす。
コロナ禍を受け、健康局は「予防計画」に一般の病院での確保病床数や開設する発熱外来の数値目標を盛り込むよう求める方針だ。
医政局も「医療計画」の中の五つの重点項目に「感染症」を追加。病床や人材確保などで「予防計画」と整合性を持たせることも求める。
全体を統括する内閣感染症危機管理統括庁(仮称)も設置される見通しだ。
城西大の伊関友伸教授(行政学)は「コロナ禍での医療の逼迫は油断のツケだ」と指摘する。
新たな枠組みは、実効性を伴わせる必要がある。