<上山名物、原口蕎麦>
「原口蕎麦」では、暖簾下に寝そべっている白い人懐っこい看板猫が出迎えてくれた。
「いいコだねぇ、よしよし。おいおい、こんなとこに寝てると踏まれちまうぞ」
たっぷり猫をなでなでしてから店に入ると、靴を脱いで上って右手に座敷の席があり、すぐの左手が厨房と帳場になっていた。
「あのォ・・・どこに座ってもいいんでしょうか」
席がいくつか開いていたので迷って帳場に訊くと、
「お好きなところに座っていただいて、ご注文が決まったらこちらに来て言ってください」
注文はあらかじめ決めていた。
「えーっと、そばがきともりそばをお願いします」
注文票みたいなのに書き取ると、「では、この番号札を持っていって」と札を渡された。
座敷席に座り、番号札を置く。
(なんとなく、あらきを思いだすな・・・)
周りをみると番号札を入手していない先客が何組かいる。この店のシステムを知らずにまっすぐ帳場にいったのが逆に幸いしたようだ。
後から来た客が卓の上にメニューがないので見回しているが、メニューは見上げたところに掲げてある二種類のみである。
(やっとこさ来られたぜ、原口蕎麦へ・・・)
自分なりに感慨深いものがある。十年・・・いやたぶん十五年越しだと思う。
原口蕎麦は辺鄙な場所にある。車をとめた駐車場の廻りのさくらんぼの樹には花が満開だった。
上山温泉から約八キロ、車で十五分はたっぷりかかるのである。去年に上山温泉の古窯に泊まった時に行こうかと思ったのだが、あのときは朝食がウマすぎてついつい喰い過ぎてしまってあきらめた。この店の蕎麦を昼メシにと予定していても実現はなんとも難しかったのである。
他の客を見習ってセルフのお茶をとりにいって席に戻ると、蕎麦つゆと薬味の葱と漬物が運ばれてきた。今日は朝から菓子パン一個のみと、腹は十二分に減らしてある。
あらかじめ蕎麦つゆを少しだけ啜ると、わたしにすればちょい甘めだ。山形ではわさびが付かない店も多いのだが、これは一味唐辛子で対処すればいい。漬物を味見するとちょいと酸味もあり、酒が欲しくなる。醤油を使った山形青菜漬けだろうか。
楽しみにしていた「そばがき」が運ばれてきた。
厚みがあるすこし楕円の、大人の男性の手ぐらいのサイズで、色合いは地味である。箸を入れると驚くほどふわふわしている。少し甘めのゴマだれにつけて口に含むと、なんともスイーツを食べている感覚である。
(これは・・・なんとも云えぬ味わいだ。そばがきってこんなに旨かったんだ・・・)
たぶん、生まれて二度目のそばがきだと思う。ああ、最初にここのを食べていればなあと溜息がでてしまうが、まあ良しとしよう。
もり蕎麦が届く。
二、三本を口中で味わう。山形蕎麦にしては硬度が少なめで太さも手ごろ、初めての客でも食べやすい蕎麦だ。
蕎麦つゆにつけてひと口食べ、つゆに一味を多めに入れて自分好みの味に整える。
蕎麦を半分ほど食べてからそばがきに箸を戻す。
そばがきを蕎麦つゆで食べると、当たり前だがこれが良く合う。葱をのせてつゆにつけたり、ゴマだれに戻ったりするうちに食べ切ってしまう。
半分残った蕎麦を食べ切り、蕎麦湯で漬物を平らげる。
原口蕎麦の「蕎麦」はあらきや百目鬼ほどではないが、「そばがき」は極上である。満足した。また、腹を減らして訪れてみたい。
→「あらきの蕎麦」の記事はこちら
→「続・かみのやま温泉(1)」の記事はこちら
→「続・かみのやま温泉(2)」の記事はこちら
→「続・かみのやま温泉(3)」の記事はこちら
→「続・かみのやま温泉(4)」の記事はこちら
→「百目鬼温泉」の記事はこちら
「原口蕎麦」では、暖簾下に寝そべっている白い人懐っこい看板猫が出迎えてくれた。
「いいコだねぇ、よしよし。おいおい、こんなとこに寝てると踏まれちまうぞ」
たっぷり猫をなでなでしてから店に入ると、靴を脱いで上って右手に座敷の席があり、すぐの左手が厨房と帳場になっていた。
「あのォ・・・どこに座ってもいいんでしょうか」
席がいくつか開いていたので迷って帳場に訊くと、
「お好きなところに座っていただいて、ご注文が決まったらこちらに来て言ってください」
注文はあらかじめ決めていた。
「えーっと、そばがきともりそばをお願いします」
注文票みたいなのに書き取ると、「では、この番号札を持っていって」と札を渡された。
座敷席に座り、番号札を置く。
(なんとなく、あらきを思いだすな・・・)
周りをみると番号札を入手していない先客が何組かいる。この店のシステムを知らずにまっすぐ帳場にいったのが逆に幸いしたようだ。
後から来た客が卓の上にメニューがないので見回しているが、メニューは見上げたところに掲げてある二種類のみである。
(やっとこさ来られたぜ、原口蕎麦へ・・・)
自分なりに感慨深いものがある。十年・・・いやたぶん十五年越しだと思う。
原口蕎麦は辺鄙な場所にある。車をとめた駐車場の廻りのさくらんぼの樹には花が満開だった。
上山温泉から約八キロ、車で十五分はたっぷりかかるのである。去年に上山温泉の古窯に泊まった時に行こうかと思ったのだが、あのときは朝食がウマすぎてついつい喰い過ぎてしまってあきらめた。この店の蕎麦を昼メシにと予定していても実現はなんとも難しかったのである。
他の客を見習ってセルフのお茶をとりにいって席に戻ると、蕎麦つゆと薬味の葱と漬物が運ばれてきた。今日は朝から菓子パン一個のみと、腹は十二分に減らしてある。
あらかじめ蕎麦つゆを少しだけ啜ると、わたしにすればちょい甘めだ。山形ではわさびが付かない店も多いのだが、これは一味唐辛子で対処すればいい。漬物を味見するとちょいと酸味もあり、酒が欲しくなる。醤油を使った山形青菜漬けだろうか。
楽しみにしていた「そばがき」が運ばれてきた。
厚みがあるすこし楕円の、大人の男性の手ぐらいのサイズで、色合いは地味である。箸を入れると驚くほどふわふわしている。少し甘めのゴマだれにつけて口に含むと、なんともスイーツを食べている感覚である。
(これは・・・なんとも云えぬ味わいだ。そばがきってこんなに旨かったんだ・・・)
たぶん、生まれて二度目のそばがきだと思う。ああ、最初にここのを食べていればなあと溜息がでてしまうが、まあ良しとしよう。
もり蕎麦が届く。
二、三本を口中で味わう。山形蕎麦にしては硬度が少なめで太さも手ごろ、初めての客でも食べやすい蕎麦だ。
蕎麦つゆにつけてひと口食べ、つゆに一味を多めに入れて自分好みの味に整える。
蕎麦を半分ほど食べてからそばがきに箸を戻す。
そばがきを蕎麦つゆで食べると、当たり前だがこれが良く合う。葱をのせてつゆにつけたり、ゴマだれに戻ったりするうちに食べ切ってしまう。
半分残った蕎麦を食べ切り、蕎麦湯で漬物を平らげる。
原口蕎麦の「蕎麦」はあらきや百目鬼ほどではないが、「そばがき」は極上である。満足した。また、腹を減らして訪れてみたい。
→「あらきの蕎麦」の記事はこちら
→「続・かみのやま温泉(1)」の記事はこちら
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