温泉クンの旅日記

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小瀬温泉 長野・軽井沢

2006-07-16 | 温泉エッセイ

 < ジョーレンの宿 >

 避暑地から車ですこし山にのぼったところにある、木々に囲まれた小体なホテル
に夕方到着した。



 もうすこし行けば白糸の滝である。
 季節外れの雪が途中の山肌にかなり残っていた。あいにくの雨がそれを溶かして
いる。

 チェックインしてからも雨脚が強くなるばかりで、一向に弱まる気配はなかっ
た。
 朝食つきでの宿泊である。
 夕食は町まで車で行きとればいいと思っていたが、浴衣に着替え温泉にゆっくり
浸かっているうちに、だんだん億劫になってきた。酒も呑みたい。

「あのう・・・外で夕食を食べるつもりだったんですけど雨がひどいので・・・
簡単なもので結構ですが、なにかできませんでしょうか」
 親切そうなフロントの若いひとに頼んでみる。
 カレーライスでもスパゲッティでもかまわない。むろん、まだ酒を呑んでないの
で駄目なら町に下りればいい。
「お待ちください。ちょっと調理場に聞いてみますので」
「まことに申し訳ない。どんなものでもいいです。あ、駄目ならそれでも結構です
から」

 調理場に消えたフロントのオニイサンがすぐに戻ってきて、通常の夕食を用意し
てくれることになった。
「ありがとうございます。助かります」
 よーし、これでいまから呑める、思わず声が弾んでしまう。
 部屋にもどり、持ち込みの焼酎を冷えたお茶で割って呑み始めた。

 洋食が供されるのがピッタリの暖炉のある食堂で、なぜか和食の夕食であった。
 和食といってもどこの旅館にもありがちな、いわゆる仕出しふうではない。吟味
された新鮮な素材を使ってあり、一品一品どれも丁寧に調理されていた。
 上品な、落ち着いた八千草薫ふうの小柄な年配女性と、体格のいいゲンキな女性
が料理を運んでくれる。旅館でいう女将さんと若女将であろう。
 今夜は他にふたつのテーブルが埋まっている。いずれも常連の客らしい。

「すこし濃すぎませんでしたか、それ」
 ウィスキーの水割りを運んでくれた、ゲンキ女性が聞いた。あのフロントのオニ
イサンがヤチグサの息子で、そのお嫁さんであろうか。
「ちょうどいいですよ」
 ひとくち味わって答えた。あまり薄いのは呑んだ気がしない。もっとも、お代わ
りしても同じ濃さ以上をキープしてもらいたいが。呑むひとがつくればその心配は
いらない。
「わたしも呑むほうなので、ついつい濃く作ってしまって・・・フフ」
 たしかに、かなり呑みそうな雰囲気であった。
 水割りもガンガンすすんだが、きっと腕のいい調理人がいるのだろう、自分にし
ては珍しく料理もそこそこ食べた。

 部屋に戻る途中にフラフラと二階の温泉によってしまう。タオルが更衣室におい
てあるので取りに戻らなくてもいいのだ。
 温泉は量こそすくないが、たえず浴槽に注ぎ込まれて、静かに贅沢に溢れている
のだ。弱アルカリ性単純泉である。薄いが、源泉特有のかすかに甘い匂いがたちこ
めている。五人は楽にはいれる広さがあり、二十四時間、当たり前のようにいつで
もはいれるのが嬉しい。



 朝は洋食にした。
 ふわふわのプレーンオムレツが絶妙でうまかった。ここの調理人は和食だけでな
く洋食もどこかで修業したのだろうか。パンもいい。
 窓の外に、鳥が餌を食べに来ている。餌付けしているようだ。
 ヤチグサが玄関にいて、手のひらにクルミのかけらをのせて小鳥を呼んでいた。
 ヤマガラが樹木をわたり、だんだん近づいてきて、ついには手のひらに乗り、
クルミのかけらを咥えて飛んでいったのには、驚いた。

 チェックアウトをして、靴を履こうとして、また、驚いた。
昨日の雨でたしか泥だらけだったはずが、ピカピカに輝いている。いつのまにか
靴を磨いてくれたようだ。さりげないが凄い。
 そういえば、隣席から聞こえた話しを思い出す。
「ここは、あのホテルxxxのオーナーがよくお忍びで静養にくるんだよ」
 ホテルを知り尽くしたひとが、ここの常連か。わかる、なあ。
 わたしも、ここ「軽井沢パークホテル」で何泊かゆっくりして、何枚かヘタな
スケッチでもしたい。いまみたいな、シーズンオフが静かでいいんだろうな、やっ
ぱり。


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