<南紀白浜、名所歩き倒し(1)>
絶景を実際に目の前にすると、沸々と高揚感が湧きだして心を満たしていく。
三段壁(さんだんべき)は南紀白浜にある自然景勝地である。海に直立する長さ約二キロ、高さが五十メートルから六十メートルの大岩壁の連なりで、断崖絶壁の名勝である。
断崖に、魚の群れを見つけるための監視場(見段)があったそうで、その「見段壁(みだんべき)」が転じて「三段壁」と呼ばれるようになったという。平成二十八年(2016年)四月には、プロポーズにふさわしいロマンチックな場所として恋人の聖地に認定されている。
展望台の脇に設えられている喫煙所を発見、一服する。白浜駅以来である。
白浜駅に着いたのは朝十時過ぎだった。駅の横に見つけ出した喫煙所で煙草に火を点け素早く思案する。
白浜に前回訪問したときには、宿に到着するや高熱と悪寒に襲われ、解熱剤を服むと敷いてもらった布団に潜り込み、温泉に未明に入った記憶だけ、それ以外にはなにも残っていないのである。
だから、今回はたっぷり温泉も楽しみたいし、少しは観光もしたい。白浜とわたしだけの、秘かな立会人なしの「遺恨試合」みたいなものなのだ。
宿の温泉に入るのを仮にいつもどおりのフライングタイムの二時半とすると、観光に使える時間はざっと四時間ほどだ。親子連れやカップルに人気の、パンダがいる「アドベンチャーワールド」は“捨て”だ。最低でも、「三段壁」と「白良浜」は押さえたい。
観光には、背負った重いザックが邪魔だ。駅に預けると、また取りに戻らないといけなくなる。宿に電話してみると「預かる」との返事なので、バスで向かった。
ザックを宿に預けると、早いが先に昼メシにしようと、途中、バスの車窓から見た「とれとれ市場南紀白浜」まで戻ることにした。今日は二食付きだから、夕刻までにペコペコに腹を減らしておいたほうがいいという深謀遠慮である。二キロ半、たっぷり三十分掛かった。
ところがこれが大失敗。大駐車場はほぼ満杯で、広い市場の中は驚くほどの人で溢れかえっており、飲食処も大行列だった。早メシあきらめると、またバスを使い「三段壁」にやってきたのである。遠い処までバスで行ってから歩いて巡る作戦に変更だ。
三段壁には地下に「三段壁洞窟」という、平安時代の源平合戦のとき、源氏に貢献した熊野水軍が船を隠したという海蝕洞窟がある。断崖上からエレベーターで降りて、洞窟内部を観覧できるパワースポットだ。
洞窟はすでに勝浦で忘帰洞や玄武洞で満腹している。それよりいまはマジ空腹なので洞窟見学はスキップして、並んでいる食堂に急行する。
「ここ、しらす丼ってありますか」
選んだ一軒の店先で訊くと、ございますという。推しのまぐろ丼は勝浦で食べたからね。(そんなの近くの江の島で食えよ、なんて突っ込むのやめてね)
ふむ、ついでに「煙草って吸えたりできる?」と訊くと、外側よりのこちらなら構いませんというので即決。訊いてみるものだ。
ほどなく、しらす丼が到着。
和歌山名産の梅干が載ったりして、結構な豪華版だ。なんと、四国高知の馬路村のゆずぽん醤油も添えられている。
馬路村の温泉に行ったとき、湯上がり良く冷えたゆずドリンク「ごっくん馬路村」をゴクゴク飲んで、それ以来ここのゆずのファンである。旅先で、馬路村のゆずには結構出逢うから面白い。青森・西津軽のウェスパ椿山でゆずドリンクに再会したときは狂喜した覚えがある。
(ああ、ほんとに旨いな・・・)
誰にもいったことはないが、恥ずかしながら“しらす”好きである。生しらすなんて贅沢はいわず、釜揚げで充分満足だ。
炊きたてのご飯にほのかな味の“しらす”を載せて一杯、二杯目は少量の大根おろしと“しらす”を混ぜ混ぜして醤油を少しかけたのを載せて・・・うーん、堪らん。
子どものころ、“最後の晩餐”になにを食べたいかという話題(マセタ餓鬼ども)になり、焼肉だ鰻だと景気のいい話が飛び交うなか、わたしは正直に「しらすご飯」と言って大爆笑され、その時から人前で言うことを封印したのである。
「千畳敷って近いですか」
代金を支払いながら訊くと、歩いてすぐ十分と掛かりませんよ、とのこと。勝浦のまぐろ丼がサービス価格の千円だったが、こちらのも八百円と観光地にしては適正価格でありがたい。
さてと、大好きな“しらす”丼でエネルギー補給完了。よし、次は千畳敷だ。
― 続く ―
→「南紀勝浦温泉、忘帰洞の宿(1)」の記事はこちら
絶景を実際に目の前にすると、沸々と高揚感が湧きだして心を満たしていく。
三段壁(さんだんべき)は南紀白浜にある自然景勝地である。海に直立する長さ約二キロ、高さが五十メートルから六十メートルの大岩壁の連なりで、断崖絶壁の名勝である。
断崖に、魚の群れを見つけるための監視場(見段)があったそうで、その「見段壁(みだんべき)」が転じて「三段壁」と呼ばれるようになったという。平成二十八年(2016年)四月には、プロポーズにふさわしいロマンチックな場所として恋人の聖地に認定されている。
展望台の脇に設えられている喫煙所を発見、一服する。白浜駅以来である。
白浜駅に着いたのは朝十時過ぎだった。駅の横に見つけ出した喫煙所で煙草に火を点け素早く思案する。
白浜に前回訪問したときには、宿に到着するや高熱と悪寒に襲われ、解熱剤を服むと敷いてもらった布団に潜り込み、温泉に未明に入った記憶だけ、それ以外にはなにも残っていないのである。
だから、今回はたっぷり温泉も楽しみたいし、少しは観光もしたい。白浜とわたしだけの、秘かな立会人なしの「遺恨試合」みたいなものなのだ。
宿の温泉に入るのを仮にいつもどおりのフライングタイムの二時半とすると、観光に使える時間はざっと四時間ほどだ。親子連れやカップルに人気の、パンダがいる「アドベンチャーワールド」は“捨て”だ。最低でも、「三段壁」と「白良浜」は押さえたい。
観光には、背負った重いザックが邪魔だ。駅に預けると、また取りに戻らないといけなくなる。宿に電話してみると「預かる」との返事なので、バスで向かった。
ザックを宿に預けると、早いが先に昼メシにしようと、途中、バスの車窓から見た「とれとれ市場南紀白浜」まで戻ることにした。今日は二食付きだから、夕刻までにペコペコに腹を減らしておいたほうがいいという深謀遠慮である。二キロ半、たっぷり三十分掛かった。
ところがこれが大失敗。大駐車場はほぼ満杯で、広い市場の中は驚くほどの人で溢れかえっており、飲食処も大行列だった。早メシあきらめると、またバスを使い「三段壁」にやってきたのである。遠い処までバスで行ってから歩いて巡る作戦に変更だ。
三段壁には地下に「三段壁洞窟」という、平安時代の源平合戦のとき、源氏に貢献した熊野水軍が船を隠したという海蝕洞窟がある。断崖上からエレベーターで降りて、洞窟内部を観覧できるパワースポットだ。
洞窟はすでに勝浦で忘帰洞や玄武洞で満腹している。それよりいまはマジ空腹なので洞窟見学はスキップして、並んでいる食堂に急行する。
「ここ、しらす丼ってありますか」
選んだ一軒の店先で訊くと、ございますという。推しのまぐろ丼は勝浦で食べたからね。(そんなの近くの江の島で食えよ、なんて突っ込むのやめてね)
ふむ、ついでに「煙草って吸えたりできる?」と訊くと、外側よりのこちらなら構いませんというので即決。訊いてみるものだ。
ほどなく、しらす丼が到着。
和歌山名産の梅干が載ったりして、結構な豪華版だ。なんと、四国高知の馬路村のゆずぽん醤油も添えられている。
馬路村の温泉に行ったとき、湯上がり良く冷えたゆずドリンク「ごっくん馬路村」をゴクゴク飲んで、それ以来ここのゆずのファンである。旅先で、馬路村のゆずには結構出逢うから面白い。青森・西津軽のウェスパ椿山でゆずドリンクに再会したときは狂喜した覚えがある。
(ああ、ほんとに旨いな・・・)
誰にもいったことはないが、恥ずかしながら“しらす”好きである。生しらすなんて贅沢はいわず、釜揚げで充分満足だ。
炊きたてのご飯にほのかな味の“しらす”を載せて一杯、二杯目は少量の大根おろしと“しらす”を混ぜ混ぜして醤油を少しかけたのを載せて・・・うーん、堪らん。
子どものころ、“最後の晩餐”になにを食べたいかという話題(マセタ餓鬼ども)になり、焼肉だ鰻だと景気のいい話が飛び交うなか、わたしは正直に「しらすご飯」と言って大爆笑され、その時から人前で言うことを封印したのである。
「千畳敷って近いですか」
代金を支払いながら訊くと、歩いてすぐ十分と掛かりませんよ、とのこと。勝浦のまぐろ丼がサービス価格の千円だったが、こちらのも八百円と観光地にしては適正価格でありがたい。
さてと、大好きな“しらす”丼でエネルギー補給完了。よし、次は千畳敷だ。
― 続く ―
→「南紀勝浦温泉、忘帰洞の宿(1)」の記事はこちら
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