温泉クンの旅日記

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ライダーの謎

2006-05-27 | 旅エッセイ
 < ライダーの謎 >

 カウンターのわたしの隣に座っている、ライダー姿の若い二人がさきほどから
楽しげに談笑している。網走、ウトロなど旅してきた地名が耳にはいってきたの
で海鮮丼をパクつきながら黙って聞いていると、どうやらこの食堂で初めて知り
合ったようだ。どこから来たか、いつどこへ上陸したのか、昨日どこへ泊まった
か、今日は何処へ行きどこに泊まるか。無料の露天風呂、格安のライダーハウスの
ことなど、しきりと情報交換している。うちとけているので、ずっとふたりで旅を
しているようにさえ思える親密さである。
 ここは、北海道は羅臼、海沿いの道に面した大衆食堂である。そういえばライダ
ー姿で食事しているひとが多い。

 北海道を夏に走ると、オートバイが多い。本州でみられる隊列をくんだ群走りで
はなく、たいがいは一匹狼のひとり旅である。くやしいが雌雄の二匹狼もたまに
いる。毎年くるライダー娘も珍しくはないらしい。



 軽く腕をあげ手のひらを相手にむける。拳銃と背中にあてられての片手ホールド
アップ、当番兵士が交代時にする敬礼、ナチス親衛隊の胸にあてた手を突き出す
ハイルヒットラー。これに親しみのこもった視線と頷きも加わったりする。もっと
も視線はフルフェイスのメットではわからないが、送っているはずだ。

 すれちがいざまにする、ライダー同士の挨拶である。おっとそうだ、「チャリダ
ー」と呼ばれる自転車のライダー諸君も忘れては怒られる。バイク同士とバイク対
チャリである。

 やあ、どうも。気をつけていけよ、また逢おうぜ。初めて会う見知らぬひとに
敬意をこめて挨拶を送る。おうコンニチワ。そちらも気をつけて、ご無事で楽しい
旅を。送られたライダーもすかさず気持ちを投げ返す。

 まっすぐな道だと、点灯しているからバイク同士のすれちがう瞬間が車を運転し
ていても予測できる。あ、やるなとみていると、果たして挨拶が交わされるのだ。
岬のS字が続く道路で、体もバイクも急傾斜させている忙しいコーナリングの最中
でも挨拶を交わすのだから、ほとほと感心してしまう。

 感心するというより、実はスッゴークうらやましいのだ。なんか軽い嫉妬さえ
おぼえてしまう。じっと見ているこっちにも挨拶せんかい。引きこもっている二階
の窓の隙間から、外の仲良しカップルを覗きみている気分である。
 ああ、バイクはいいなあ(チャリは滅茶苦茶肉体的にキツソウなので)。

 北海道の真っ直ぐな道や、がらがらに空いた道をクルマでひとり旅していると、
いつもそう感じるのである。バイクなら、前から迫ってくるのも後ろから追いつい
てくるのも親友候補か、はたまた恋人候補かもしれない。そんなトキメキがありそ
うな旅だからなんども来るのだろう。もうちょい、いや、もうちょいちょい若かっ
たら、それと、もうちょいちょいちょい脚が長かったらワシも乗るのだが・・・。
こう感じため息をつくのはわたしだけではない(筈だ)。たぶん。

 クルマ同士には、そんなもの、まったく、なーんもありゃせんのだ。羅臼の食堂
で隣にすわって自分と同じ本日特別サービスの海鮮丼を喰っていたとしても、単に
クルマのドライバー同士というだけでは、旧知のように親しくなれないのだ(当た
り前だ)。稚内で、知床で、最果ての地で同じ県のナンバーがすれ違っても挨拶を
交わすことはない。アンタはアンタ、ワシはワシで、連帯感など欠けらもない。
まあ、北海道ではナンバーが同じときは挨拶しよう、などと決められても事故が激
増するだけだろうが・・・。どこかこう寂しいのだ。

 ところで北海道で連帯感をしこたま解き放った、あの仲良しライダーたちが、
本州に帰るとなぜか「アンタはアンタ、ワシはワシ」状態に戻ってしまう。ヘンシ
ーン、仮面ライダーのような突然の変身、変心だ。北海道のために一年間コツコツ
貯めたトキメキを、ブワァーっと道内でスッカラカンに使い果たす。おなじように
連帯感も底を尽いたのか。
 なぜなのだろう。四輪ドライバーのわたしにはどうにもわからず、謎である。
 もっとも、ジェラシーを感じずに走れるから、ゲせない謎のままそっとしておき
たいものだ。

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