バレバレ
2007-05-09 | 雑文
< バレバレ >
旅好きでもなければ、地理にはたいてい疎いものである。かくいうわたしも、
いまでこそ旅をしまくって地理に明るくなったのだが、それはひどいものだった
のだ。
わたしの仕事は事務系である。
書類仕事やパソコンを使用するばかりのいわゆる居職(いじょく)であるが、
月に一度ガテン系の力仕事がはいる。枚数が多くて、機械処理で郵送できなかった
月締めの請求書の発送である。十個以上のダンボール箱にはいった請求書を、仕分
けし封筒に封入して郵便と宅配便で発送するのだ。六、七名で作業する。
作業を始めて一時間ぐらいして、「じゃあ、十分くらい休みましょう」とわたし
が言いだし小休止をとることにした。
煙草を一服して、作業場に戻ると談笑の最中である。ゴールデンウィークにどう
過ごしたかの話題で盛りあがっていたらしい。
まだ小休止の時間なので、黙って席についた。
「へえ、コヅカさん、連休に塩原へ行ってたんですかあ」
女性スタッフにそういわれ、コヅカは嬉しそうに大きな顔一杯に満面の笑みを
浮かべた。子どもの宿題である夏休みの絵日記のための旅行のほかは、めったに
家族旅行などしないヤツである。
「休みには、いつも近所の公園しか行かないのかって思ってたら、旅行することも
あるんですね」
すかさず、別のスタッフがコヅカにぐさっとつっこむ。
「それは酷いよ。うちだってたまには旅行ぐらいするよ」
心外だなあ、とクチを尖らせてマジに反論する。反応がわかりやすくて、からか
われているだけなのだ。
「区の保養施設、だったりして」
つっこんで反論された女性が、引き絞った二の矢を放った。どこかで小さな失笑
がわいた。
「それのどこが悪いんだ! えっ!」
まずい。
二の矢が大当たりして、コヅカの生っ白い顔に朱がはいり、逆上したでかい声が
オクターブ高く上ずっている。女性陣が、眼をそらしたり伏目になった。
気まずい雰囲気になりかかったので、わたしは、できるだけのんびりとした低い
声で誰にともなく質問した。
「『シオバラ』ってさあ、県でいうと『那須』、だっけ?」
一瞬にして、「え?」というレーザービームのような高熱の視線がわたしに集ま
った。つぎに仲間たちと視線で会話すると、「冗談うまい」「やだもー」「那須県
だって」、女性陣が一斉に吹き出した。
機転、完了。わたしはずっと続けていた「ん?」という、つぶらな瞳の眉をあげ
た質問顔を、やっと弛めた。
「栃木県に決まってるじゃないですか、やだなあ・・・」
コヅカがジツに無念そうに言葉を絞り出した。怒りにまかせて勢いよく、ええい
とひっくり返そうとしたお膳にいきなり重いケツでドカッと座られた、みたいな
情けない顔である。
時計を確認しながら「ははは、みんな、さあ仕事、仕事にかかろう」というわた
しの言葉に、いっせいに作業を再開するのだった。
なにごともなかったように仕分け作業を続けながら、わたしは胸をなでおろし
た。
(イヤイヤあぶなかった、な)
本当は「お馬鹿」なのがバレるとこだったぜ。脇の下と手のひらに、たっぷり
ヒヤ汗をかいちまった。しかし、那須県はあまりにもひどかったな。くくく。まっ
たく「正気」の質問じゃあないな。小学生以下だな。でもアカデミー賞かも。
うふ、ふふふ。
作業をしながら眼をあげると、二の矢を放った女性スタッフの「うふふ」と笑う
眼がそこにあった・・・。もしかして、バレバレ?
旅好きでもなければ、地理にはたいてい疎いものである。かくいうわたしも、
いまでこそ旅をしまくって地理に明るくなったのだが、それはひどいものだった
のだ。
わたしの仕事は事務系である。
書類仕事やパソコンを使用するばかりのいわゆる居職(いじょく)であるが、
月に一度ガテン系の力仕事がはいる。枚数が多くて、機械処理で郵送できなかった
月締めの請求書の発送である。十個以上のダンボール箱にはいった請求書を、仕分
けし封筒に封入して郵便と宅配便で発送するのだ。六、七名で作業する。
作業を始めて一時間ぐらいして、「じゃあ、十分くらい休みましょう」とわたし
が言いだし小休止をとることにした。
煙草を一服して、作業場に戻ると談笑の最中である。ゴールデンウィークにどう
過ごしたかの話題で盛りあがっていたらしい。
まだ小休止の時間なので、黙って席についた。
「へえ、コヅカさん、連休に塩原へ行ってたんですかあ」
女性スタッフにそういわれ、コヅカは嬉しそうに大きな顔一杯に満面の笑みを
浮かべた。子どもの宿題である夏休みの絵日記のための旅行のほかは、めったに
家族旅行などしないヤツである。
「休みには、いつも近所の公園しか行かないのかって思ってたら、旅行することも
あるんですね」
すかさず、別のスタッフがコヅカにぐさっとつっこむ。
「それは酷いよ。うちだってたまには旅行ぐらいするよ」
心外だなあ、とクチを尖らせてマジに反論する。反応がわかりやすくて、からか
われているだけなのだ。
「区の保養施設、だったりして」
つっこんで反論された女性が、引き絞った二の矢を放った。どこかで小さな失笑
がわいた。
「それのどこが悪いんだ! えっ!」
まずい。
二の矢が大当たりして、コヅカの生っ白い顔に朱がはいり、逆上したでかい声が
オクターブ高く上ずっている。女性陣が、眼をそらしたり伏目になった。
気まずい雰囲気になりかかったので、わたしは、できるだけのんびりとした低い
声で誰にともなく質問した。
「『シオバラ』ってさあ、県でいうと『那須』、だっけ?」
一瞬にして、「え?」というレーザービームのような高熱の視線がわたしに集ま
った。つぎに仲間たちと視線で会話すると、「冗談うまい」「やだもー」「那須県
だって」、女性陣が一斉に吹き出した。
機転、完了。わたしはずっと続けていた「ん?」という、つぶらな瞳の眉をあげ
た質問顔を、やっと弛めた。
「栃木県に決まってるじゃないですか、やだなあ・・・」
コヅカがジツに無念そうに言葉を絞り出した。怒りにまかせて勢いよく、ええい
とひっくり返そうとしたお膳にいきなり重いケツでドカッと座られた、みたいな
情けない顔である。
時計を確認しながら「ははは、みんな、さあ仕事、仕事にかかろう」というわた
しの言葉に、いっせいに作業を再開するのだった。
なにごともなかったように仕分け作業を続けながら、わたしは胸をなでおろし
た。
(イヤイヤあぶなかった、な)
本当は「お馬鹿」なのがバレるとこだったぜ。脇の下と手のひらに、たっぷり
ヒヤ汗をかいちまった。しかし、那須県はあまりにもひどかったな。くくく。まっ
たく「正気」の質問じゃあないな。小学生以下だな。でもアカデミー賞かも。
うふ、ふふふ。
作業をしながら眼をあげると、二の矢を放った女性スタッフの「うふふ」と笑う
眼がそこにあった・・・。もしかして、バレバレ?
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