温泉クンの旅日記

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海岸線

2007-03-08 | 旅エッセイ
  < 海岸線 >

 もっぱら、音楽を聴きながら運転する。
 カーナビについているラジオの設定ボタンを押すと、そのエリアで受信できる
中波やFMを勝手に探してセットしてくれる。便利なものだ。だから、たいていは
FM放送をながしている。

 受信しにくいところや眠いときにはCDを聴いて気分転換をはかる。ジョージ・
ウィンストンとかグローバー・ワシントンJRとかの、自分の好きな癒し系の音楽だ
と聴き入ってしまい、返って眠けを催す。だからテンポがよくて口ずさめる曲が
いい。たとえば宇多田ひかるやエブリィ・リトル・スィング(ELT)あたりが運転
中のわたしには合っているようだ。



 宇多田の歌はあちこちに満遍なく明るさが沁み込んでいる。きらきらした歌詞の
断片が清涼剤のようで元気になる。声もいい。エックス・ジャパンなども一緒に
声を張りあげられるので、間違いなく眠気が飛ぶ。
 
 長門の湯免温泉で朝を迎え、いつものように覚悟する。
(うぅーん・・・今日も、かなりの距離走ることになるぞ)

 高速道路だけなら、いち日に七百キロ以上走ることもあるが、一般道込みである
と五百キロぐらいを限界としたほうが無難だ。三百から四百キロなら楽勝。これは
経験からである。もっともこれは自分の場合であって、普通のひとにはあてはまら
ないかもしれない。

 今日はすこしでも大阪に近づきたいので、五百キロを覚悟している。

 昨日はチェックインしてすぐにひと風呂浴びると、夕食がてらに近くの青海島を
観光した。小さな島で、橋がかかっていて車でそのままいけるのだ。島の海岸線で
車を停めて海を覗き込むと、たしかに名前の通りに、水が透き通ってきれいな海だ
った。しばらく見とれてしまう。わたしのなかの山陰のイメージを覆すほどの、あまりにも透明な海であった。軽めの夕食をとり宿に戻ると、温泉にはいり、多めの
寝酒でいつのまにか爆睡してしまった。



 たっぷりの睡眠で身体も軽い。
 朝食を七時半に食べて、八時丁度に元気に出発した。ここからまず出雲方面に向
かう。八時半に萩の町を通過した。
 海岸線をひたすら走る。

 道の左側におだやかな青い海が続く。天気もよく、気温も二十二度と心地よい。
両側のウィンドを下げて、潮の香りの涼やかな風で、こもった煙草の匂いを吹き
飛ばした。
 道も空いているので七十キロで快調に走れた。九時半、田万川温泉というところ
にいったが臨時休業であった。ま、よくあることだ。縁がないということ、と割り
切る。

 十一時に浜田の街にはいった。



 とたんに、なにかを成し遂げたような充実が湧いてくる。
 この数年、青森から何度かに分けて海岸線をずうっと降りてきたのだが、その
連結する地点が、ここ浜田である。これで山陰もすべてつながったわけだ。青森県
から山口県までの海岸線を、延々と、とにかく走ったわけだ。どんなもんだ。ただ
ただ温泉ばかりではないのだ。

 浜田道から中国道を走ることに決めた。
 浜田郵便局で心細くなった現金を補充した。
 河島英五のCDを宇多田ひかるに取り替えた。睡魔に襲われるのはいつも昼過ぎが
多い。食事をとったあとの高速道路が一番眠くなる。あと二、三時間後のための
準備である。

 走行距離が四百キロあたりを超えたら、どこか泊まるとこを決めよう。五百キロ
あたりにある温泉地だから、岡山か兵庫泊まりになるだろう。公営の宿からあたろ
う。 
 よーし、と小さく呟くと、シートベルトをきっちり締めた。

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