<読んだ本 2021年2月>
富山県、“あいの風とやま鉄道”の滑川駅。
「700メートル直進、T字路を右に100メートル。ふーん、所要時間は7、8分でいけるのか」
窓口の駅員に「ほたるいかミュージアム」の場所を訊こうかと思ったら、長距離客の応対をしている。そこに道案内の掲示が眼に入った。よっぽど質問されるのだろう、ご丁寧に二ヶ所に掲示してあった。
富山駅を降りたらあいにくの雪模様の天気なので、観光プランAを捨て、屋内観光のプランBに変更することに。富山駅のコインロッカーにザックを預けて、身軽になって、あいの風とやま鉄道に乗り滑川に移動したのだ。
舗道に案外雪が積もっていて、かなり歩きにくい。転倒を避けて、できるだけ滑らなそうな端を選んで歩いた。
倍の時間はかかったが、ようやく辿り着いたぞ。よーし、展示をゆっくり観てから、好物のほたるいかで熱燗でもたっぷり呑むとするか。
「えっ、休館日ですと!」
またやってもうた。わたしはプランAを丁寧に調べ上げるくせに、プランBは食堂メニューまで点検したのについ脇が甘くなって営業日チェックが抜けてしまうのだ。
こういうときスマホがあればとつくづく思う。ただ、スマホを最愛の猫か恋人みたいに凝視し愛撫する一族にまだまだ加わりたくはない。
道の駅「ウェーブパークなめりかわ」も「タラソピア」も、なんと一帯の施設が同時休館ときた。
悔し紛れに「展望台」と書いてある階段を昇ってみる。
一望できたのは、荒涼とした暗雲漂う灰色の富山湾だけだったが、とにもかくにも無聊の時を潰せたのだと満足しておくしかないか。旅も人生も無駄や廻り道はないのだから。
独り旅でなければきっと、「ばっかじゃねーの!」と非難轟々タコ殴りされ、しばらくは村八分間違いなしだ。
くそっ、酒場でホタルイカを注文するたびにきっと思い出すことになるな。ああ、本当はコウメ大夫を真似して叫びたい「チックショー!」
さて2月に読んだ本ですが、今月も低調の4冊です。失速続きの累計で8冊です。
1. ○後妻業 黒川博行 文春文庫
2. ○敦盛おくり 新・古着屋総兵衛十六 佐伯泰英 新潮文庫
3. ○偽金 フェイクマネー 相場英雄 実業之日本社
4. ◎ノースライト 横山秀夫 新潮社
深夜、偶然見出した若いジャズドラマ―を育てる渡辺貞夫(ナベサダ)のドキュメンタリー番組を「ながら視聴」していた。
「苦しみは、喜びの深さを知るためにある」
ナベサダが魅せられ何度も旅した、チベットのことわざだという。
誰もがコロナ禍で辛い日々を過ごさざるを得ない今、心に残る言葉であった。
「ノースライト」は、久しぶりの横山秀夫。ずいぶん待たされた本であった。
<あなた自身が住みたい家を建てて下さい>と、建築士の青瀬はクライアントから依頼をうけ、軽井沢に向かう。
『「北向きの家」を建てる。その発想がぽかりと脳に浮かんだ時、青瀬はゆっくりと両拳を握った。
見つけた。そう確信したのだ。信濃追分の土地は浅間山に向かって坂を登り詰めた先の、四方が開けた、
この上なく住環境に恵まれた場所だった。ここでなら都会では禁じ手の北側の窓を好きなだけ開ける。
ノースライトを採光の主役に抜擢し、他の光は補助光に回す。心が躍った。光量不足に頭を抱えた
ことのない建築士がいるのなら会ってみたい。住宅を設計する者にとって南と東は神なのだ。
その信仰を捨てる。天を回し、ノースライトを湛えて息づく「木の家」を建てる。北からしか
採光できない立地条件でやむなくそうするのではなく、欲すればいくらでも南と東の光を得られる場所
でそれを成す。究極の逆転プラン。まさしくそう呼ぶに相応しい家だった。』
ところが引き渡しした数か月後にいってみると、一家が入居した形跡はまったくなかった。ただ、「タウトらしい椅子」だけを除いて。一家は行方不明。
ここで読書が強制中断された。
タウト?・・・ブルーノ・タウト。あらら、聞いたことあるぞ。もしかして、妻子を残し亡命しエリカと暮らしていた高崎の達磨寺のタウトか。
『「じゃあ、エリカは何だ? 水先案内人か? 秘書兼愛人か?」
<道連れだろう>
「はっ! 演歌の世界かよ」
<ナチスの世の道連れだぞ。同志や戦友みたいなもんだ>
「だから燃え上がったってことか」
<俺も昔そう思ったよ。エリカの存在が謎で図書館で調べてみたりもした>
「結論は?」
<出っこないさ。でも想像はできた。二人は「同心梅」だったのさ>
「ドウシンバイ?」
<中国の梅だ。一つの心に二つの花が咲く>
「なるほど、一心同体な」
<そう言っちまうと安っぽいだろ。同心だ。同じ心を抱く二つの体だ。いるんだよ、世の中には。
言葉でぐだぐだ説明しなくても、通電するみたいに心がシンクロする相手が>』
同心梅か。勉強になります。
→「クロサワと達磨寺」の記事はこちら
→「読んだ本 2021年1月」の記事はこちら
富山県、“あいの風とやま鉄道”の滑川駅。
「700メートル直進、T字路を右に100メートル。ふーん、所要時間は7、8分でいけるのか」
窓口の駅員に「ほたるいかミュージアム」の場所を訊こうかと思ったら、長距離客の応対をしている。そこに道案内の掲示が眼に入った。よっぽど質問されるのだろう、ご丁寧に二ヶ所に掲示してあった。
富山駅を降りたらあいにくの雪模様の天気なので、観光プランAを捨て、屋内観光のプランBに変更することに。富山駅のコインロッカーにザックを預けて、身軽になって、あいの風とやま鉄道に乗り滑川に移動したのだ。
舗道に案外雪が積もっていて、かなり歩きにくい。転倒を避けて、できるだけ滑らなそうな端を選んで歩いた。
倍の時間はかかったが、ようやく辿り着いたぞ。よーし、展示をゆっくり観てから、好物のほたるいかで熱燗でもたっぷり呑むとするか。
「えっ、休館日ですと!」
またやってもうた。わたしはプランAを丁寧に調べ上げるくせに、プランBは食堂メニューまで点検したのについ脇が甘くなって営業日チェックが抜けてしまうのだ。
こういうときスマホがあればとつくづく思う。ただ、スマホを最愛の猫か恋人みたいに凝視し愛撫する一族にまだまだ加わりたくはない。
道の駅「ウェーブパークなめりかわ」も「タラソピア」も、なんと一帯の施設が同時休館ときた。
悔し紛れに「展望台」と書いてある階段を昇ってみる。
一望できたのは、荒涼とした暗雲漂う灰色の富山湾だけだったが、とにもかくにも無聊の時を潰せたのだと満足しておくしかないか。旅も人生も無駄や廻り道はないのだから。
独り旅でなければきっと、「ばっかじゃねーの!」と非難轟々タコ殴りされ、しばらくは村八分間違いなしだ。
くそっ、酒場でホタルイカを注文するたびにきっと思い出すことになるな。ああ、本当はコウメ大夫を真似して叫びたい「チックショー!」
さて2月に読んだ本ですが、今月も低調の4冊です。失速続きの累計で8冊です。
1. ○後妻業 黒川博行 文春文庫
2. ○敦盛おくり 新・古着屋総兵衛十六 佐伯泰英 新潮文庫
3. ○偽金 フェイクマネー 相場英雄 実業之日本社
4. ◎ノースライト 横山秀夫 新潮社
深夜、偶然見出した若いジャズドラマ―を育てる渡辺貞夫(ナベサダ)のドキュメンタリー番組を「ながら視聴」していた。
「苦しみは、喜びの深さを知るためにある」
ナベサダが魅せられ何度も旅した、チベットのことわざだという。
誰もがコロナ禍で辛い日々を過ごさざるを得ない今、心に残る言葉であった。
「ノースライト」は、久しぶりの横山秀夫。ずいぶん待たされた本であった。
<あなた自身が住みたい家を建てて下さい>と、建築士の青瀬はクライアントから依頼をうけ、軽井沢に向かう。
『「北向きの家」を建てる。その発想がぽかりと脳に浮かんだ時、青瀬はゆっくりと両拳を握った。
見つけた。そう確信したのだ。信濃追分の土地は浅間山に向かって坂を登り詰めた先の、四方が開けた、
この上なく住環境に恵まれた場所だった。ここでなら都会では禁じ手の北側の窓を好きなだけ開ける。
ノースライトを採光の主役に抜擢し、他の光は補助光に回す。心が躍った。光量不足に頭を抱えた
ことのない建築士がいるのなら会ってみたい。住宅を設計する者にとって南と東は神なのだ。
その信仰を捨てる。天を回し、ノースライトを湛えて息づく「木の家」を建てる。北からしか
採光できない立地条件でやむなくそうするのではなく、欲すればいくらでも南と東の光を得られる場所
でそれを成す。究極の逆転プラン。まさしくそう呼ぶに相応しい家だった。』
ところが引き渡しした数か月後にいってみると、一家が入居した形跡はまったくなかった。ただ、「タウトらしい椅子」だけを除いて。一家は行方不明。
ここで読書が強制中断された。
タウト?・・・ブルーノ・タウト。あらら、聞いたことあるぞ。もしかして、妻子を残し亡命しエリカと暮らしていた高崎の達磨寺のタウトか。
『「じゃあ、エリカは何だ? 水先案内人か? 秘書兼愛人か?」
<道連れだろう>
「はっ! 演歌の世界かよ」
<ナチスの世の道連れだぞ。同志や戦友みたいなもんだ>
「だから燃え上がったってことか」
<俺も昔そう思ったよ。エリカの存在が謎で図書館で調べてみたりもした>
「結論は?」
<出っこないさ。でも想像はできた。二人は「同心梅」だったのさ>
「ドウシンバイ?」
<中国の梅だ。一つの心に二つの花が咲く>
「なるほど、一心同体な」
<そう言っちまうと安っぽいだろ。同心だ。同じ心を抱く二つの体だ。いるんだよ、世の中には。
言葉でぐだぐだ説明しなくても、通電するみたいに心がシンクロする相手が>』
同心梅か。勉強になります。
→「クロサワと達磨寺」の記事はこちら
→「読んだ本 2021年1月」の記事はこちら
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