温泉クンの旅日記

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京都・伏見、醍醐寺「三宝院」(3)

2024-07-07 | 京都点描
  <京都・伏見、醍醐寺「三宝院」(3)>

 気が逸っていた庭園の写真だが、庭師が独り居たくらいで余計な人物抜きのヤツが撮れた。それなりに満足できたので、ここらで肩の力を抜いて、本堂にゆったりと向かう。

 

 本堂脇前にある「酒づくしの庭」は、苔と白砂で、秀吉の千成瓢箪の馬印ならぬ「瓢箪徳利」と「盃」を表現している。

 

 本堂だが、本尊が「快慶」作の弥勒菩薩であるため、別名「弥勒堂」といわれている。脇仏として向かって右に宗祖「弘法大師」、左に開祖「理源大師」が安置されているとのこと。
 また、本堂の裏には護摩壇があることから「護摩堂」とも呼ばれている。

 本堂から、純浄観の裏側を通って「奥宸殿」へ、戻るように進む。
 裏側にも庭園から池の水が引き入れられて、左手には奥宸殿が、正面には江戸末期に作られたという小さな茶室「松月亭」だ。松月亭の手前には、池泉に直接置かれた「流れ手水鉢」がある。

 

 

「奥宸殿」は安土桃山時代の1598年(慶長3年)に建立されたとも、江戸時代初期に建立されたとも言われている。

 

 

 三宝院門跡の常御殿で、田の字型をしており、上座の間、武者隠の間、次の間がある。
 上座の間には、床・棚(違い棚)・附書院などがあり、棚は「醍醐棚(だいごだな)」と呼ばれる有名な違い棚で、修学院離宮の「霞棚」、桂離宮の「桂棚」とともに「天下の三大名棚」と称されている。
 奥宸殿には、初期の狩野派の襖絵が描かれている。

 北野の大茶会では「簣(あじか=竹・わらやアシなどを編んで作ったかご、ざる)売り」に扮した徳川家康だが、醍醐の花見では「筆売り」に姿をやつした。
 家康は醍醐寺の、はたまた三宝院の、どこらあたりをうろついていたのだろうか。
 もうひと目、庭園を覗いてみた。

 

  『在京の諸侯は、みな正室、側室を引きつれてこの盛宴に加わり、北野の大茶会の折りよりも、
  吉野の花見よりも、緋毛氈の出店の多い豪華絢爛、それこそ末代まで語り継がれる花見になった。
   秀吉も、その間を、北の政所と秀頼と淀の方に手を曳かれて見て廻った。
   しかし義演上人の眼に映る秀吉は、いつもの茶目気が幾分欠けているかに見えた。
   この日家康は、筆売りに姿をやつし、筆と短冊を売って歩いていた。その家康に行きあうと、
  秀吉は一瞬表情をこわばらせて短冊を買い求めた。
  「上様、どこぞお苦しいのでは……」
   供して歩いていた義演が、そっと声をかけると、秀吉はあわてて首を振ってさえぎった。
  「いなとよ。しかし、わしはギクリとしたのだ。この場で筆と短冊を売る……内府は、心憎い男よのぅ」
   内心では、家康に胸の内を見抜かれて、辞世を乞われたような気がしたのだ。
  「上人、せっかくの江戸の内府が趣向じゃ。三宝院のために一筆残しておかねばなるまいのぅ」
  「これは望外のこと! かたじけのう存じまする」
   一瞬だったが、秀吉の表情は、深淵のような色をたたえて頭上の桜花にそそがれた。これが孤独な
  老人の顔なのだ……北の政所はそう思うと、良人を正視できなかった。
   秀吉はサラサラと一首、例の仮名まじりの文字で歌を書いて義演に渡した。義演は恭しく受取って、
  よく透る声でそれを読んだ。

     名も知らぬさくらは寺をあらわして
       いつかわすれん花のおもかげ

   この場合の花の面影は、忘れられてゆく秀吉の面影に違いない。北の政所は胸が痛くなり、
  あわてて先に歩きだしていた。
   側室たちは、誰もかくべつそれに気がつかない。というよりもその時の座興の歌意などに
  何の興味もなげに浮き立っていた。それほどこの日の宴は大成功で、そして、これが戸外で
  多くの人に見せる太閤の最後の姿になってしまった。』

        講談社 山岡荘八歴史文庫「豊臣秀吉[8]」より

 

 三宝院のこれが最後と、庭園の反対側を覗いてみると、そこにはいかにも風情がある中庭があった。立派な景石は、やっぱり聚楽第から持ち込んだものだろうか。

 さぁーてと、次の目的である伽藍エリアの「金堂」と「五重塔」に急ぐとするか。


  →「京都・伏見、醍醐寺「三宝院」(1)」の記事はこちら
  →「京都・伏見、醍醐寺「三宝院」(2)」の記事はこちら


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